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2017年11月20日 (月)

映画「絶壁の彼方」とトランプ大統領の危機と日・米株(第886回)

映画「絶壁の彼方」とトランプ大統領の危機と日・米株(第886回)2017・11・19


 1950年の英国の映画で、一流の映画通の中でメチャ評価が高い作品だ。和田誠さんと三谷幸喜さん共著の「それはまた別の話」の対談で12本取り上げ、その中にこれが入っている。

 小林信彦さんの「2001年映画の旅」で「20世紀の洋画100」に入っている。小林さんのコメントは「旧共産圏の国に連れ込まれた医師がいかにして逃れるか。ハラハラドキドキの連続で、意外性も充分」とある。

 久しくDVDを探していたが、米国でも日本でも見つからず漸く今月ジュネス企画が出してくれた。すぐ見たが評判通りの傑作だ。

 

 どうして「死ぬまでに観たい1001本」に入っていないのかなあ。サスペンス映画の傑作、と三谷幸喜さんが太鼓判を押しているのに。

 

 舞台は架空の国ヴォスニアで独裁者の将軍が重病にかかり、専門医で評価の高い主人公マーロウ博士(ダグラス・フェアバンクスJR)がひそかに呼ばれる。手術を行い成功したが10日後に将軍は突然死んでしまう。マーロウは国の機密を知るものとして警察は捜査、死に物狂いで逃げる。言葉もわからぬ街の理髪店に逃げ込み、偶然他人の上着を手に入れる。次に逃げ込んだ劇場で英語を喋る歌手リザを見つけ、強引に助けを求める。

 

 上着からロンドン行きの航空券と巨額の闇ドルを見つけ、その持ち主の闇屋をおどして国外脱出の手はずを整えさせ、国境近くの絶壁を超えて逃亡しようとするがー。

 

 最後に主人公は捕まって射殺されそうになるが、ラジオから群衆の前で偽の独裁者が暗殺されたことがわかり、警察は帰国を許す。もう本物の将軍の死を、機密扱いする必要がなくなったからだ。

 

 トランプ大統領は13日(月)に東アジアサミット最終日をキャンセルし、急遽帰国した。理由はトランプJRがウィキリークスとやりとりしたメールを「アトランティック」誌がスクープしたからだ。

 トランプJRはロシアからの情報の見返りとして、ウィキリークスの創設者アサンジ氏を、米国の駐豪大使に任命する密約を結んでいた。

 

一方、ロシアンゲートに絡んで、昨年大統領選の対策本部長マナフォート氏や前大統領補佐官フリン氏の捜査が進み、逮捕か司法取引が近いとみられている。

 

 加えて2州の知事選を含めた地方選の敗北で、共和党内でのトランプ大統領への憤懣が高まっている。11月7日のニュージャージー、ヴァージニア両州知事選でトランプ派の候補が惨敗。ほかの州議会連邦議会補選でも共和党は敗北した。6月の3州の知事選での共和党が勝利して以降、トランプ批判が高まったことを意味している。

 

 この知事選の結果が明らかになった117日は、トランプ大統領が国賓以上の待遇を受け、総額28兆円の米国製品の対中輸出増の契約成立ニュースが入った日。しかし、TVや新聞の扱いは小さく、トップは共和党の惨敗だった。

 

 同時に反トランプ系共和党有力議員たちが推進している税制改革が、成立する可能性が高まっている。逆にいうと、トランプ大統領の存在感がどんどん小さくなっていることを意味する。

 この反トランプ系議員の案とは「法人税率はトランプ案と同じく20%は下げるが、実施時期を中間選挙終了後の2019年とする」というもの。共和党への集票作戦にほかならない。

 

この政治情勢が、NY株式市場に微妙に反映し始めている。2018年の中間選挙は現状では共和党勝利=減税というシナリオは描きにくく、機関投資家の買い意欲にブレーキがかかり始めた。11月8日以降上がった日は2日、残りは下げだ。従前から懸念されていたハイイールド債市場の金利急上昇も始まり、0・5%以上も。ファンドの中には資金流出も始まった。基調は弱い。

 

 もちろん市場だけではない。米中関係で習近平がトランプと約束した対北強硬制裁が、大きく後退する懸念が生まれる。当然、日米、日中関係にも影響を与える。ここ1年の「シンゾー=ドン」の関係を中心に成立している日米蜜月関係も、仕切り直しになりかねない。

 

 弾劾は時間がかかるので、米国憲法修正第25条第4節による「合法的クーデター」でペンス副大統領昇格となるだろう。しかし、ペンス氏はトランプ氏以上の保守強硬派であることを、忘れてはならない。

 

ペンス氏によると気候変動は「神話」であり、進化論は「嘘」である。コンドームの着用ではエイズを予防できない、とも発言している。元インディアナ州知事として親日家であることは、確かに救いではあるが。安心していいものか、どうか。

 

別の懸念がある。近く「北」をテロ国家に再指定。これで再び緊張が高まる可能性だ。

 

 東京株式市場については、15日で底を打ってスピード違反の上げ相場の調整は完了した。そこで今後238000円を、いつ抜くか、に関心は集まる。しかし、上記の理由で、すぐ、というわけには、とてもじゃない、いかない。

 

 10月末の全世界株式市場への資金流入額の対ベンチマークからオーバーウエイトかアンダーウエイトを見る。米国はプラス9・9%、新興国プラス62%なのに対し、日本株マイナス4・1%,ユーロ株マイナス4・3%。逆にいうとNY株式市場にはあまり上昇余地はない。売りが先行しそうだ。

 

 

 逆に「北」の問題が対日投資の重石になっており、巷間いわれている「今年から来年12月」のヤマ場説が外国人機関投資家の出足を押さえている。近く「北」をテロ国家に指定する可能性があり、緊張感の高まりはあり得る。

 

 ワシントンで政変が(万一)発生したらー。NYダウは信用取引の残が空前の量に膨れ上がっていることもあり、下げ幅は大きいに決まっている。アト講釈としては①サウジの政情不安②中国の経済減速懸念③パウエル次期FRB議長の手腕不安④税制改革の支払利子控除制限など、いくらでもある。

 

 それでも日本株の下落はごく軽微にとどまるだろう。日銀のTF買い入れは55000億円もあるし、GPIFも買う。

 

 私は21500円の上値抵抗線を抜いた時、次は23000円と予想し、これは的中した。2万70000円まで真空地帯なので上がりやすい、とも主張し、これは変えない。しかし、もう一度23000円を抜くには前提がある、「北」だ。当分モタモタするのではないか。

 

映画のセリフから。主人公に対し、山登りの専門家が言う。「この山は想像するより高くてきびしい。危険を覚悟でお願いします。」NYの方は、企業収益に比べて、上昇率は高すぎる。危険は高まっている。

 

 

 映画の幕切れ。英国向け飛行機でグリニス・ジョーンズ演じた踊り子リザが言う。「実は私は高所恐怖症なの」。必死のときには絶壁もよじ登ったくせに空が怖いとは。主人公はそっと手を握ってやって、ジ・エンド。二人が結ばれる暗示だ。女が心配がるのは、男はかわいいもんです。

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