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2010年8月31日 (火)

映画「ベスト・キッド」と世界経済同時減速

「ベスト・キッド」は1984年に大ヒットし、シリーズ第4作まで作られた作品のリメーク。オリジナルを上回る出来だ。       

 今回の主役ドレはウィル・スミスの息子ジェイデン・スミス、教師役ハンがジャッキー・チェン。ドレは 父を亡くし、母の勤め先の関係で北京に引っ越してきた。新しい環境でいじめっ子たちの嫌がらせはやまない。ある日、6人に囲まれ窮地に立ったとき、アパー トの管理人ハンがカンフーであっという間に叩き伏せる。強くなりたい主人公は、ハンの指導の下に才能が開花してゆく。

 

 映画の舞台の北京だが、このところ「おかしい」という情報を耳にする。北京に行った知り合いは米系高 級ホテルがビルごと閉鎖され、通りの反対側の巨大ホテルもつぶれているのを発見。王府井という中心街だ。北京五輪を当て込んだホテル乱立のつけ回しだろ う。このほか313メートルの高層ビルが半分近く埋まっていないとか、外国人の借りるマンションの家賃が30%以上下がったとか。

 

 8月9日付『ウォールストリート・ジャーナル』中文版によると「北京を中心に中国の不動産の4分の1が空室で、6450万室に上る」。ただ、主に北京の不動産不況にとどまると見ていいようだ。

◇中国の不動産バブルの行方         

 従前から、中国の不動産バブルは北京や広州などで激しいが、中国全体では不動産投資の利回りは長期国 債を3.7%上回って健全とされてきた。年間所得と都市部住宅価格の比率は2009年で8倍。不動産価格の伸びは大きいが、賃金上昇率を考えると、住宅 ローンの負担は実質収入の6分の1だ。

 

 それでも政府は、2軒目以上の住宅購入に対する頭金引き上げなど住宅投資を規制し、銀行の貸し出し姿勢を厳格化させた。預金準備率引き上げを中心にバブルの計画的調整だ。

 

 中国政府の考えはこうだろう。重要な輸出市場である欧米が今後低迷する可能性は高く、不動産バブル潰 しで自国の経済成長まで犠牲にすることはバカバカしい。そこはほどほど。財政出動、特に内陸部の投資拡大で総需要の落ち込みを防ぐ--という作戦だ。11 年は多少スローダウンしても高水準の成長率だろう。

 

 現状では、日本の輸出メーカーに聞くと中国経済は春先までの勢いがないようだ。日本の鉱工業生産も輸出も伸びが止まっている。世界経済同時減速を反映しているのだろう。その先を懸念するのが多数派意見だが、案外悪くならないと私は考える。あの国の指導部はアタマがいい。

 

 私は2012年が世界的な首脳選挙の年であることに注目している。米国、ロシア、フランス、韓国で大統領選があり、台湾は総統選、そして中国は第18回全人代(全国人民代表大会)で胡=温体制から変わる。デフレと不況の不安に対し、必死にどの国も努力するのではないか。

 

 映画のセリフから。ハンがいう。「絶望から立ち直るのは結局、自分次第だ」。最後はやはり政治が握っているのでは。

2010年8月24日 (火)

映画「瞳の奥の秘密」と円高防止策

 「瞳の奥の秘密」は今年度アカデミー賞外国語映画賞を獲得したアルゼンチン映画。評判通りの傑作と思う。一見をおすすめする。

 

 裁判所の捜査官ベンハミンは退職後、記憶に残る殺人事件の回想を書く。せっかく逮捕した容疑者を1970年代の軍事政権は超法規措置で釈放した。何と大統領のガードマンになってしまった容疑者を見て歯噛みする捜査官。

 

 円買いによるヘッジファンドの対日攻撃がはっきりしてきた。ユーロ売りで大成功し、満を持しての円買 いなので、95年4月の歴史的高値1ドル=79円75銭を抜く公算大。IMF(国際通貨基金)の購買力平価だと昨年1ドル=111円だから、ヘッジファン ドの仕掛けは映画の容疑者釈放に似た無理無体なものに映る。

 

 しかし、10年続いたデフレの影響で実際の購買力平価はもっと低い。1ドル=60円まで行くのではないか。

 

 別に日本経済自体に円高の材料があるわけではなく、日本の体制に問題がある。まず菅首相の先般の消費税発言で財政均衡主義を継続することが明らかになったし、日銀がデフレ脱出を考えていないことも金融政策不変の声明で明白になった。円買いのお墨付きが出たようなものだ。

 

 一方、5年間で輸出倍増を狙う米オバマ政権のドル安志向は強いし、ユーロはまだ為替レート回復のメドさえ立たない。中国は人民元切り上げの悪影響を軽減する目的もあって、日本国債を大量買いしている。

 

 ◇1ドル=60円もありうる  
      
       94年夏に私が「95年春、1ドル80円」という論文を発表したときも現在と似たような状況にあった。日米の貿易不均衡で米クリントン政権は日本叩きを行い、日本は細川、村山政権で反米ムードがあった。

 

 当時の購買力平価は111円70銭で円は妥当値だったのだが、ヘッジファンドは「日本は輸出する側だ から輸出価格で、米国は輸入側なので消費者物価で購買力平価を算出するのが正しい」と言っていた。これをもとに私が算出したのが「95年春、83円」で、 市場は行き過ぎるものなので80円としたのである。これが正しかったことは歴史が証明する。

 

 同じ方法でヘッジファンドの今の目標値を計算すると、60円になる。

 

 また、クレディスイス証券の白川浩道氏は現在の購買力平価を、日米の貿易収支不均衡が最小の96年6 月当時の108円90銭を均衡値として両国の消費者物価で修正し、78円10銭と算出する。購買力平価からの乖離度でみると「95年の79円75銭は現在 のレートでは56円」という。

 

 円高防止策としては、中国や韓国のように市場介入を行っている国を見習うか、ゆうちょ銀行やかんぽが保有する米国債を日銀が買い、空いた枠で米国債を買う。また、記念金貨を大量発行すれば、金購入資金を外為市場に供給できる。何にもしないのが一番悪い。

 

 映画のセリフから。捜査官の恋人の検事が言う。「私たちは前向きの人生、過去は管轄外なの」。要は関係者の覚悟次第だ。

2010年8月10日 (火)

映画「インセプション」と中国・米国経済の行方

 「インセプション」はただ今ヒット中のSF超大作。ディカプリオと渡辺謙が主演。見ごたえのある力作だ。映像も素晴らしい。

 

 他人の夢の中から深層心理に侵入し、まだアイデアの段階で企業機密を盗み出すスペシャリスト・チーム の首領コブ。大実業家のサイトーはコブに、世界的大財閥の御曹司の潜在意識に入り込んで、あるアイデアを植えつけることを依頼する。命がけの困難な仕事だ が、国際指名手配中で米国に戻れないコブに、家族のもとへの帰国を条件に押し付ける。

 

 手首にケーブルをまいてターゲットと一緒に眠り、夢を共有するという発想が秀逸。まるで今のグローバル化した世界経済と同じだ。

 

 いま、中国では、これまで「夢を共有」してきた外国企業が戦略の転換を始めた。外資企業でストが頻発、大幅な賃上げに応じざるを得なくなった。徐々にインドや東南アジアへ生産拠点を移転し始めている。

 

 大幅賃上げは中国企業にとっても大きな負担になる。『北京週報』は「最低賃金引き上げは時に20%以上に及び、安さを売り物に輸出で稼ぐ時代は終わりつつある」と警告した。高成長の支えがなくなりつつある。

 

 ◇来年は世界の成長率ダウン  

 

 中国政府によると、経済成長率は2008年までずっと2ケタだったが、09年には8.7%になり、今 年は政府のテコ入れがあっても8%台で、不動産バブルが崩壊すればもっと成長は低くなる。イベントの種も尽きたし、来年の成長率ダウンは必至だろう。中国 が大量に購入している資源価格がもう急落している。鉄スクラップ安に私は注目している。

 

 米国も経済が回復軌道に乗っていることは間違いなさそうだが、そのモメンタムはひところの予想を大幅に下回る。金融緩和政策の段階的収束、つまり出口論議は影を潜め、バーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長は最近の議会証言で追加緩和策を考慮していると述べた。

 

 景況感の変化は金利低下に明白に表れている。2年物米国債利回りは、7月下旬に史上最低水準を更新した。超低金利政策の一段の長期化を市場は読んでいる。

 

 ユーロ安は米国債とドルへの信認を高めたが、米国の多国籍企業の海外部門収益はほぼ半分が欧州子会社 なので、ユーロの対ドルレートの下落は収益低下と株安につながる。景気刺激策のために投入した財政資金7870億ドルも、効果が少ないまま来年にはタネ切 れになる。雇用者数の減少トレンドを抱えたまま、オバマ政権は「容易でない2011年」を迎えることになる。

 

 IMF(国際通貨基金)の予想では世界経済は今年4.2%、来年4.3%成長だが、今年はともかく来年は前年比成長率ダウンではないか。不況ではあるまいが。

 

 映画のセリフから。コブがチームの一員にいう。「人は知らない間に夢に入り込んでいる。ここからが夢だと分かる夢なんてない」。夢が現実でないと知ったとき、株式市場は反応する。

2010年8月 3日 (火)

ショパン「別れの曲」と円高、株安

 ショパンの練習曲第3番ホ長調「別れの曲」。いっぺん聞くと忘れられない名曲。ショパン自身「これほど美しいメロディーを二度と見つけられないだろう」と述べた。

 

 実は「別れの曲」の名は日本だけのもの。1935年に日本で公開されたショパンの伝記映画「別れの曲」のメーンのテーマ曲に使われたのでこの名が定着してしまった。私自身、外国人と音楽の話をしていて通用しなくて往生した記憶がある。

 

 円が独歩高になって輸出メーカーはどこも苦労している。中国人民元は切り上げに慎重だし、ユーロはまだ不況の出口がつかめない。米ドルは経済見通しの下方修正が嫌気されているし。

 

 どのくらい強いか。実質価値を示す日経通貨インデックスでは、7月下旬までの6カ月間でユーロは 7.9%、韓国ウォンは5.1%、米ドルは2.7%下降したが、円は5.7%上昇した。昨年末時点のIMF(国際通貨基金)の「為替レートと購買力平価比 率」を見ると、円は21%も割高で、人民元は46%割安、ウォンも同程度だった。それがまた差が開いた。輸出企業ならアホらしくてやってられるか、という 水準だ。

 

 ◇マネー供給を増やせ  
      
       「別れの曲」の名が世界で通用しないように、円高の理由も日本独自のものだ。

 

 まずデフレと株安。低利でも元利払いが保証されている国債に国内貯蓄は回る。カネはビジネスや消費に回らず需要は減り、物価はさらに下がる。社会に閉塞感が広がる。

 

 短命で弱体な政権は、財務官僚の財政均衡主義に縛られて積極財政はできず、日銀のインフレ懸念も打破 できない。この悪循環が始まったのは2007年6月の1ドル=122円の円安時から。株価も当時がピークでこの3年、理屈に合わない円高が進んでいる。本 来なら財政が安定し景況がよくなければ、その国の通貨は上がらないはずなのに。

 

 今回の菅首相の消費税増税発言は、外国人投資家に格好の円買い投機の材料となった。世界の誰もが日本 はギリシャのようになるとは考えていないし、現に中国は、米国債購入を減らして日本国債を大量買いしている。人民元の弾力運用で企業の収益低下を懸念して いる中国指導部は、円レートを切り上げさせて人民元の競争力低下を和らげる作戦だ。

 

 唯一の円安政策は日銀がマネーの供給を増やして、円が金融市場から海外に流れるというルートだ。そうでないと景気の急速な悪化が発生し、2番底の懸念が現実化するだろう。

 

 映画のセリフから。「男はつらいよ」シリーズ12作「私の寅さん」のラストで聞こえてくる音楽。岸恵 子のマドンナに寅さんが聞く。「あれはなんという音楽ですか」「別れの曲」「やっぱり旅人(たびにん)の曲でございましょうね」「そうかもしれないわ ね」。忘れられない名場面だ。寅さんのように、放浪の終わりに柴又に帰れればいいが、円高の行方は見当がつかない。

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