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2010年11月30日 (火)

映画「ノーウェアボーイ」と私の強気 第521回

 映画「ノーウェアボーイ」の題の意味は、どこにもゆくところがない落ちこぼれのこと。ビートルズ結成前、まだ10代のジョン・レノンを描き、英国アカデミー賞主要部門でノミネートされた秀作だ。

 1950年代半ばのリバプール。伯父と伯母に幼いころから育てられたジョンは生意気な問題児。伯父の葬儀でいとこが、本当の母親が、歩いていけるくらい近くに住んでいることを知らせる。すぐ母に会うジョン。

 実の姉妹なのに、厳格な伯母と全く違う母。自由奔放に人生を楽しむ母から音楽を教わる。ただ母は夫と娘二人がいて、そこにはジョンの居場所はない。二人の母のどちらにも自分の悲しみ、孤独をぶつけられず、ジョンは音楽に没頭してゆく。

 このブログを10月に始めて、私の株価見通しが強気なことを述べ続けてきた。ごく少数意見なことは百も承知。円高に加え外国人売りと持合い解消による需給関係悪化という二つの悪材料が、当時は強く言われていたのだが。

 もちろんこのほかに「だから株はやらない」という理由はヤマほどある。高齢化・少子化、国内経済の低迷、永年にわたるデフレ、ダメな政治、巨大な政府債務などなど。並べてゆけば映画の中のジョンと同じで「出口なし」だ。

 にもかかわらず、過去1ヶ月の日経平均は7%以上上昇し1万円の大台を回復。NY株式市場が9月から回復したのに遅れて、11月から堅調振りが目立ってきた。

 一番注目されるのが東証REIT指数で11月25日、1028ポイントと戻り新値を更新した。日銀の新しい金融緩和政策が市場で反応し始めている。

 情勢が好転し始めているサインはまだある。第一が長期金利の上昇。日米ともに10年もの国債の金利はQEⅡ以来上昇したのは、銀行がジワジワとデフレ・シナリオから離れつつある証拠だろう。

 第二は、10~12月期の成長(恐らく前期比年率でマイナス)が底というか踊り場で、来年1~3月期からかなりな高成長に復帰する見通し。これも数字で示す確証はまだ十分ではないが、自信はある。

 自動車生産が5ヶ月つづいた減産が10月で終わり、ふたケタの前年比増産が始まる。また中国・米国・欧州のHSBCの製造業景況指数が急回復中なこと。このほかずい分あるが、ここでは省略。

 第三には法人税率引き下げが本気で検討されはじめたこと。本来なら10%以上の引き下げが必要だが、5%でもやらないよりはまし。海外への工場移転の抑止効果はある。

 そして「新冷戦」。米中対立はますますひどくなる一方で、こうなったらオバマ政権は日本をたてるしかない。だからヘッジファンドが「円売り、日本株買い」に180度転換した。

 かりに(そんなことはありえないが)朝鮮半島で何らかの衝突が発生したら、日本株はモロ買いだ。

 最近のフィナンシャル・タイムス紙は「TOPIXの株価収益率は13・2倍。S&Pの20・2倍。日本を除くアジアの21・5倍に比べ割安」という記事を載せた。

 株は上がってくると、後講釈でいくらでも買い材料が出てくるものだ。

 肝どころは「世界のインフレ化」だ。FT紙も「本当は(世界的インフレになれば)、日本は最適の投資先」としている。

 映画のセリフから。ジョン・レノンがパスポートの書類作りで母が死んだ後の伯母に言う。「親の欄と保護者の欄と両方にサインして」。そして死ぬまでジョンは伯母に1週1回、電話をかけ続ける。難しかった問題も、流れが変わればいっぺんに解決するもの。市場も同じだ。

2010年11月25日 (木)

映画「義兄弟SECRET REUNION」と北朝鮮砲撃(第520回)

 延坪島への北朝鮮による砲撃が波を拡げている。ちょうど映画「義兄弟」を見たばかりなので、緊急で私の見方を書くことにした。

 まず「義兄弟」。韓国の今年最大のヒット作で550万人が見た、とか。たしかに面白い。

 主人公は韓国に潜入した北朝鮮の暗殺者を追う捜査のベテラン(ソン・ガンホ)。暗殺者を逃し多数の死傷者を出した責任を問われクビ。

 6年後。逃げ出した外国人花嫁探しの興信所を作った主人公は、暗殺者の部下だった北の工作員(カン・ドンウオン)を発見。懸賞金目当てで、自分の興信所の唯一の社員に誘う。二人は協力して主にベトナムから連れてこられた逃亡花嫁探しに乗り出す。

 「北」と南のハラを探りながらの協力。時には殴り合いのケンカもするが。今回の砲撃事件を聞いて、映画とよく似ていると感じた。

 朝鮮戦争が1953年に休戦を迎えて以来、「北」は韓国航空機の爆破、政治家暗殺などなど30回以上、韓国を挑発して来た。23日の砲撃は陸上目標への初めての攻撃だが、これまで韓国側は貿易制裁が中心で軍事的報復はしていない。

 ウォールストリートジャーナルは韓国の軍事専門家の「北朝鮮は韓国が決して反撃しないことを知っている。」という発言を紹介した。

 たしかに「北」は権力継承時期なので派手にやっているが、「北」が崩壊寸前と見るのは誤り。中国と「北」の交渉から見て、中国型の改革開放路線採用が決まっており、金正日の妹の夫張成沢(チャン・デンソク)にかなり権限が集中しかけている。

 この砲撃事件の直前、「北」がウラン濃縮設備を米国の専門家に見せたことは、もっと注目されていい。

 この設備はイランのものと同じ。イランはウラン濃縮はやっているものの、IAEAの査察を受けており国際的に容認されている。これでイラクの二の舞を防いだ。「北」の作戦が実にしたたかなことを認識すべきだ。

 結局、韓国は今回も反撃は出来まい。朝鮮半島はますます「北」の中国への属国化が進んでゆくが、ブレーキをかける選択肢は限られている。連邦制度をとって合併し、近代化には日本からの賠償金を使う、ということになりそうだ。

 先日の韓国で開かれたG20サミットでの、米韓の同盟体制は強化されるどころか、その逆。米韓自由貿易協定は進展せず、ウオン安をこれまでずっと誘導し続けて輸出を伸ばしてきたのにQEⅡでドル安誘導。ウオン高で苦しめられかけたところにこの事件である。ウオンは再び急落。

 私の見るところ韓国の成長は、世界の危機のたびに真っ先に大幅急落するウオンと、強さを保つ円で、日本企業の競争力が削られた結果だ。これに日本では独禁法が強いためメーカーの数が多く、「国内予選」で時間と資金を消耗しているから。

 結論。朝鮮半島の両国は、このままでは中国のテリトリーに入ってゆく。これを防ぐには韓国は91年に米軍が韓国から撤去した核兵器を再び韓国に装備することだが、恐らく中国がブレーキをかけてきて不可能だろう。

 そうなると、日本は再び新冷戦の最前線になる。かつての米ソの冷戦と違い芸術、スポーツ、貿易は交流するが、軍事と外交では米中の対立がどんどん深まり。通貨がやはり新冷戦の舞台になる。もう日本に対し、かつてのクリントン政権のような妨害はなくなると考えるべきだ。

 すでにヘッジファンドは「日本円買い、日本株売り」の戦略を変更。リワインド(巻き戻し)に入った。シカゴ市場での円買い立て玉はここ4週間で半減した。この事件で間違っても弱気にならないこと。私は強気だ。

 映画のセリフから。韓国のガンホはハンバーガーが常食なのに対し、「北」のドンウオンは手料理でサムゲタン,そこで言う。「味覚はオンチなんだなあ。一緒に仲良く食べようよ。」私には「北」が韓国にウオン安をプレゼントしたように見えるが。

2010年11月23日 (火)

映画「リミット」と私の相場観(第519回)

 「リミット」は今年のベスト5に入るだろうスペイン映画の傑作。

 米国人のトラック運転手ポールはイラクで軍の仕事をしているうちにテロに会い、棺に入れて埋められる。暗闇の中、手にふれたのはライターと携帯電話。

 94分間、場所は棺の中で登場人物はただ一人。必死で脱出のため電話をかけまくるだけだが、何しろものすごい迫真力があり、引き込まれる。

 この映画の主人公と今の日本株は同じ。閉塞感が強い。

 その理由は「ダメ政治」「中国(プラス韓国)脅威論」「老齢化・少子化」「円高」「デフレ」などなど。

 これを全部論破するのは、とてもじゃないが難しい。これに加えて「世界長期不況論」「ドル大暴落」と来たら、一晩かかっても終わるまい。

 「だから日本株は買わない」というのが東京株式市場の最大の買い手、外国人機関投資家のセリフだった。

 10月に入ってこの外国人買いが急増している。日経平均1万円の大台回復のとき、マスコミは過剰流動性のおこぼれ説だったのは一理ある。しかし国外からのマネー流入があれば円高になるはずだが、為替市場ではやや円安。しかもシカゴ市場での円の先物買い建てがここ3週間で半減。目先はまだ円高の動きはない。

 為替市場よりも、量的緩和政策をとっている日米両国で債券市場の動きがもっと注目されていい。

 まず米国10年国債。8月の量的緩和観測以降金利は低下し10月8日に2.33%をつけた後、最近は3%近辺へ。日本の10年国債も10月6日の0.82%のボトムから最近1.125%まで上昇している。

 米国のQEⅡが「デフレ心理を一掃し物価の上昇心理をもたらす」政策である。またFRBの意図する「米国景気が上昇するまで、量的緩和の第3弾(QEⅡ)も」という読みもインフレ期待を増加させる。日本の方はー後述しよう。

 ふつう債券市場での金利上昇は株価の悪材料だが、何せ日本は10年以上のデフレ、そして米国は「日本化」不安で、機関投資家はあまりにも債券を持ちすぎていた。

 要するに債券、円の買い、日本株売りのワンセットが、ここ1ヶ月で巻き戻しになった。ヘッジファンドの決算が11月末が多いのもその巻き戻しを加速させた。これが現状だろう。

 では12月に入って、また債券と円買い、日本株売りの再開だろうか。私はインフレ、又はデフレ脱出があれば、まあ超低金利に戻らないと思う。

 円高?ドル安?

 かりに米国の景気が良くなったとしよう。シェール・ガスの恩恵もあるし。良くなった米国経済の成長率は日本より高いから、そのときはドル高。良くならなかったら?QEⅡで新興国のバブルでやはり世界はインフレ基調。これはどちらかといえば円高材料。しかし私は良くなると思っている。それほどイザとなったときの米国は、やる。

 日本の方。10~12月期はマイナス成長で7~9月期の前期比年率3.9%からガタ落ちするが、エコカー補助金の期限切れの反動。

 二番底がお好きな向きはご不満だろうが、10月が底で上昇。三菱UFJの嶋中雄二さんの説。私は信用する。

 さて結論。株価は7月の9000円近辺、9月の8796円、そして11月上旬安値で「逆三尊」という底値形成の形。短期のボトムがあっても下げは軽く、明春にかけ4月の高値挑戦となるだろう。そして、もちろん、抜く。

 映画のセリフから。今回だけ、ありません。

2010年11月18日 (木)

映画「ゴッドファーザー」と中国のレアアース禁輸の内幕(第518回)

 「ゴッドファーザー」三部作は映画史に燦然と輝く傑作。フランシス・フォード・コッポラ監督。マフィア抗争史だがある家族の歴史でもあり、その家族のキズナは強い。第一作でドンのマーロン・ブランドが射たれ、三男のアル・パチーノが復讐に出かけて二人の男を殺すシーン。トイレに隠しておいた拳銃を探すあたりの緊迫感がすごい。

 そのPARTⅢでは、三男マイケルは父親をしのぐ凄腕のドンになっていて、法王庁もからめた企業買収に乗り出す。そこをマフィアのほかの親分たちの裏切りがあったり、欧州エスタブリッシュメントの意地悪が絡んだりする。

 米中の新冷戦は通貨安戦争だが、内実は国同士の富の争奪戦。もちろん米国はドル安を狙い人民元高を押し付けようとして、先日のG20でも決着がついていない。私は利権をめぐって殺し合いをする「ゴッドファーザー」シリーズのマフィアの親分たちを思い出した。

 中国が持ち出したのはご存知レアアースである。

 かつての最高実力者鄧小平が「中東には石油があるが、中国にはレアアースがある」と言い放った。宝庫は内蒙古。その最大手企業が包鋼レアアースである。この企業は内蒙古支配者の同自治区党書記の胡春華氏で胡錦鋳国家主席の直系。今度同じ胡錦鋳派の山東省のレアアース企業を吸収合併し、この分野の利権をしっかり把握しようとした。

 2012年には胡錦鋳は任期満了で次の習近平に代をゆずるのだが、このレアアース利権の独占に待ったをかけているのが江沢民の影響力の強い江西省。広西チワン族自治区などのレアアース産出地域は前記した包鋼レアアースの独占に反抗している。これで輸出に強いブレーキがかかった。利権の配分にイチャモンをつけているのだろう。

 97%の世界市場を独占する中国は「生産を止める」とは言っていない。温家宝首相は再三再四、この禁輸は行政府の命令でないと述べている。現実には世界的な迷惑、商慣習の無視で、国際ルールなどどこへやら、だ。

 共産党内部の人脈同士の抗争が自動車、電子部品、ミサイルなどの生産をほとんどストップさせている現状。根本は「オレが世界を支配しているんだゾ」という中華意識だろう。

 しかし、マフィアの世界で親分に対し子分がすぐ寝返るように、「中国世界貿易帝国」にほころびが見える。それもメチャメチャに大きなほころびだが。

 第一は異常なまで高まった余剰マネーの引き起こすバブルとインフレ。

 最近人民銀行が発表したマネーサプライ統計によると、1978年のM2(広義マネーサプライ)はたった859億元だった。これが2009年末には60兆6000億元で31年間で705倍に膨らんだ。対GDP比で260%に達した。ちなみに日本のバブル時でも120%。

 余ったカネは株、不動産に流れたが規制で商品取引へ。同時に食糧インフレも始まった。最近月10月の統計では野菜、果物、食用油など31品目のうち24品目が9月比上昇。とくに食用油、インスタントラーメン、シャンプー、洗剤など1ヶ月で20%以上上昇した。日本のかつてと同じで食用油やトイレットペーパーの買占めが発生している。

 もうひとつ。例の巨大ダム三峡が最高水位175メートルに達し、近辺での大型の土砂崩れは40回を越えた。

 1977年に建設された長江大橋は水面との差が縮まり船との衝突は避けられまい。ここでダム壁の亀裂(数千箇所ある)が破裂したりしたら、被害は国土の何分の一、被害者は2億人を越えると推定されている。

 軍と公安警察で押さえ込んでいるこの体制。すぐに崩壊はないだろうが、いつまで続くやらー。

 映画のセリフから。「政治と犯罪は一つのコインの表と裏だ」。また「友情と金は水と油だ」。とも。民主党の前首相と元幹事長たちがもう少し中国をよく勉強してから、政権交代していればー。言ってもせんないか。

2010年11月14日 (日)

シェール・ガス革命、世界に飛び火(先見経済11月15日号)

 「石油が発見されて以来、最も重要な出来事」と評されている「シェール・ガス」について今回はご報告したい。

 ことの始まりは米国のチェサピークというベンチャー企業で、2006,7年ごろに別々の用途で開発された技術を総合して「シェール・ガス」を効率よく安価に生産することに成功。これが全米で開発ブームを呼んだ。

 このガスは大きな川の周辺の泥が岩石になった頁岩(けつがん)層に含まれ、地下3000米あたりにある。存在は早くから知られていたがチェサピークの技術で、千立方フィート当たり3~4ドル、石油に換算してバーレル当たり20ドルという安価なエネルギーが大量に発見されたことになる。

 チュー米エネルギー長官によると「米国のガス埋蔵量は2倍になる可能性がある。」現に昨2009年の米国のガス産出量は、ロシアを抜いて世界一になった。

 天然ガスの市場価格は急落し、昨年末の千立方フィート当たり13ドル(史上最高値20ドル)が3ドル台に暴落した。

 それもそうだろう。つい4,5年前まで米国は、国内産出のガス埋蔵量の減少と需要増とで、世界最大の輸入国になる、と見られていた。そこでロシアやカタールなどの中東諸国は、米国向け液化天然ガス(LNG)の輸出施設の拡充を熱心に行っていた。しかし米国が何とガス輸出国に変わる可能性が出てきたことで、このLNGへの投資はムダになる可能性が出てきている。

 この新型ガスの開発競争が始まった。まずシェール・ガスを開発していたベンチャー企業への買収が始まり、第2位のXTOをエクソンが4兆円で買収した。欧州では最有望とされるポーランドではエクソン、シェブロンなどが6月から探鉱を始めた。また中国はシェルとペトロチャイナが四川盆地で調査を開始し、30兆立方メートルと米国の埋蔵量よりややオオメの資源を推定している。

 「要するにこの分野でゲームが根底から変わってしまったのです」とエネルギー専門家は言っている。

 この状況はエネルギー資源を持たない日本には有利だ。

 日本にシェール・ガスは地質学的に存在している可能性は少なく、自前の開発は期待できない。また電力やガス会社も10年以上の長期契約なので、低下しているガス価格の恩恵はまだ受けていない。

 しかしエネルギー価格の低下が全く期待できないというわけではない。むしろ「最大のメリットは消費者」。ガスの供給が増加して価格が低下すれば、契約更改時に買い手側の価格交渉力が増すことは間違いない。また新しいシェール・ガスの開発のため住友商事、三井物産、三菱商事は米国に進出、豊田通商は豪州で投資を開始している。

 この革命の最大の受益者は米国だろう。リーマン・ショックから2年だが、景気回復はいまひとつなのはご存知の通り。11月には米国FRBは量的金融緩和、またオバマ政権はドル安で輸出5割増という非常時体制をしいている。

 そこにガス輸入国から輸出国への転換という大変化が起きつつあるのだから、大きなプラス材料というほかない。

 逆に打撃を受けているのはロシア。欧州へのガス供給の3割を握り、強気の販売姿勢を貫いていたガス大手ガスプロムはユーザー側がスポットものに切り替えて打撃を受けた。最近決算では7%減収、36%の大幅減益を余儀なくされている。

 米国では最近パーティなどで、高い失業など暗い話題が出てなんとなくムードが悪くなると、部屋の片隅から「シェール・ガス!」という声が出る。すぐに明るい雰囲気になって笑って終わり、となるとか。米国発のガス革命の明るいムード。早く日本にも移ってほしい。

2010年11月13日 (土)

映画「桜田門外ノ変」とTPP(第517回)

 映画「桜田門外ノ変」は吉村昭の名作の映画化で佐藤純弥監督。1860年(安政7年)3月3日に幕府大老井伊直弼が水戸浪人を中心とした18人の襲撃で首を刎ねられた。

 その7年前にペリー来航、翌年には日米和親条約が結ばれた。次の段階として通商条約が要求され,朝廷に条約を拒否された幕府は勅許なしに条約を締結。これに反対する水戸家に勅書が下るが、井伊大老は関与した尊王倒幕派を一掃しようと「安政の大獄」を強行する。襲撃はその復讐だった。

 いわば政治的テロリズムだが、この事件を契機に、一気に討幕運動は進む。

 映画はまず暗殺を、続く大部分は18人と関係者の死を画く。ほとんど幕藩体制の維持のための刑死。あとほんの数年で明治維新になるのに。

 いまTPPへの参加問題が、民主党内のバトルになっている。「環太平洋経済連携協定」が正確な訳名だが、世界の貿易自由化の流れを形成したFTA(自由貿易協定)の一歩進んだ形で、原則関税ゼロになる。従来から輸出産業の競争力低下を怖れる経産省と外務省の連合軍に対し、国内農業保護を訴える農水省が反対。この構図からこれまでもFTAは遅々として進まなかった。

 今回も同じ。農水省は「食糧自給率は40%から14%に低下。年4兆1000億円の農産物の生産額減少」と主張している。

 私はかつてグレープフルーツの輸入自由化のときに「日本のミカンがこれで全滅」と騒いだのをよく覚えている。農業がらみのもっともらしい予想が当たったためしがない。私は誇張があると思う。

 菅首相は「明治維新、第二次大戦の敗戦に次ぐ第三の開国の機会にする」と所信表明演説で述べた。珍しくいいことを言ったが、せっかくのAPECまでに明確な参加意志表明が出来なかった。また党内の「明年の統一地方選」を考慮せよ』という声にも足を引っ張られている。

 この間にライバルがどんどん前進しているからコワい。

 日本の輸出に占めるFTAの比重は発効済みが17%、交渉中が19%計36%。一方韓国は同じ順で36%、26%で62%。しかも明年から対中国FTA交渉を始めるとの見方が有力でこれを含めると83%。

 この輸出比率の差が巨大な輸出競争力のハンデになる。関税ゼロ対関税10%とか15%とかー。

 自動車工業会によると、日本と韓国の差は自動車市場規模で3000万台。この巨大市場で明確な価格差がつく。

 これが雇用にひびく。

 たとえばトヨタ。最近発表された4~9月期の営業利益は3231億円あり、一見円高やリコール問題を克服したように見えるが、実は単独決算では営業損失は1494億円に達した。無理して国内の雇用や関連企業のビジネスを維持しているのが主因と思う。

 収益の中心の輸出市場を失えば、トヨタが第2のGM・クライスラーになってしまう。

 100万台かりに生産が海外に移転されれば15万人の雇用が失われる。3分の1の1000万台なら?計算してみなさい。どうしなければならないか、すぐ分かる。

 映画のセリフから。倒幕が成功し明治天皇が江戸城に入るとき、西郷隆盛が従者に言う。「ここが桜田門だ。(井伊大老が殺された所だ)あれから一気に維新が進んだのでごわす」。歴史的事件は幕末でも現代でも、突発的に起きて国家社会の動向を急激に揺さぶる。

 農業についても一言。就業者の減少と高齢化で何年か後に存続不可能になるのは目に見えている。この際、時間を稼ぎながら21世紀型農業への変革を進めるべきだ。

2010年11月 9日 (火)

映画「クロッシング」と新冷戦と株・為替(第516回)

 映画「クロッシング」はニューヨークを舞台にした警官もの。犯罪が多発するブルックリンを担当地区にする三人の警察官の物語だ。

 まずサル(イーサン・ホーク)。病気の妻や子供のために、新しい家を購入しようとして悪事に走る。定年直前のエディ(リチャード・ギア)は苦手の新人教育を押し付けられてうんざりしている。またギャング組織に長い間潜入捜査をして来た黒人刑事タンゴ(ドン・チードル)は命の恩人のギャングのボス逮捕というミッションを与えられる。

 この三人はある警官が引き起こした殺人事件をきっかけに出会い、意外で悲惨な結末に向かう。

 いま中国に対し、世界中が「この国は全く異質の国だ」と思い始めたのではないか。ひところは「ダイ・ハード」のマクレーン警部のように不況脱出のヒーローと考えられていたが、この「クロッシング」の三人の警官のように、現実には、不可解な中国政府の言動に悩まされる国が多くなっている。

 日本のことはご存知の通りで、いぜん自分の国の領土的野心を隠そうとしない北京政府には呆れるばかりだ。

 米国でも同じ。最近のワシントン・ポスト紙は親中派の代表だったJ・スタインバーグ国務副長官が「中国の台頭が平和的である」ことを再確認しようとした。ところが「再確認の必要はなく、米国の動きこそ冷戦の再燃につながる」と拒否された、と報じた。

 これで人民切り上げ、貿易黒字、イラン・北朝鮮問題などで見せた中国側の非協力的態度を、ワシントンで弁護する勢力は一掃されてしまった。

 11月4日からのオバマ大統領のアジア歴訪でも、中国は意図的に外されている。また香港のTV局鳳凰衛視が、中国国内を対象に世論調査を行ったところ、84%の中国人が「米中間の新冷戦が始まった」という認識を示した。

 「冷戦」というとかつての米国対旧ソ連の全面対決を想起させるが、「新冷戦」は違う。経済とくに貿易、文化、スポーツなどで交流を深める一方、政治、外交、軍事では是々非々で対立が深まるもの。長期戦と考えるべきだ。

 今回の米FRBの量的金融緩和第2弾(QEⅡ)も、その文脈で考えるべきだ。

 中国の人民元を割安にしたまま自国の輸出を伸ばすという戦略は、世界、とくに米国をデフレに引きずり込むもの。一方QEⅡはデフレ心理を定着させないまま、インフレ期待感をもたせよう、という戦略で、全く好対照だ。

 ということは、QEⅡもQEⅢもありうる。同時に住宅などの資産価格がまだ反転上昇に至らないので、代わりにNY株式市場の株価を上げるという作戦だろう。

 市場内部要因で一押し、と見ているのは変わりはないが、調整は1,2月で、年内はダウ平均1万4000ドル近辺まで突っ走るのではないか。

 米中対立となれば、トクをするのは日本。先日の尖閣問題でも、いまや反中国のトップになったクリントン国務長官が「尖閣は日米安保条約の範囲内」と述べた。

 ヘッジファンドは米政府の動きに敏感だ。「円買い+日本株売り」の戦略を最近完全にストップ。日本株も弱気が多いうちに上昇するだろう。

 映画のセリフから。冒頭である情報屋が言う。「世の中には明確な善悪の境界線など存在しない。”より善”に向かうか”より悪”に向かうか、だ」。米中の戦いがすでに始まっている。株式、為替市場はそれを織り込み始めた。

2010年11月 4日 (木)

映画「THE LAST MESSAGE海猿」と日本株の転換(515回)

 公開後1ヶ月になるがいぜんヒット番付首位の「THE LAST MESSAGE 海猿」はシリーズ第3作。私は3D版で見たが迫力十分。相当おカネをかけた大作で一見に値する。主演は肉体美の伊藤英明。女性客が多い。

 玄界灘に浮かぶ大型天然ガスプラント「レガリア」に船型の掘削装置が衝突、火災を起こす。現場で働く労働者救出のため海上保安庁はヘリで出動。そこに超大型台風が接近、直撃する。

 救助途中でヘリは引き揚げ、主人公仙崎ほか4人がのこされるが、ガスタンクに引火の危険が迫り、プラント全体を海中に沈めて爆発を避ける作戦に。仙崎など海保所属の二人が決死で取り組む。

 中国が理不尽な言いがかりをつけたと思ったら、今度はロシア大統領だ。無能な内閣をタチの悪い隣国が、映画での事故と台風と同様に叩いて来る。

 映画で出口のない主人公の仙崎を同僚が救助するように、米国が援護射撃してくれるのが僅かに救いだが。

 今回発表された米FRBの量的金融緩和第2弾(QEⅡ)、6000億ドルの米国債購入も、この6ヶ月弱保ち合い相場を続けていた日本株には、上昇相場への転換となろう。

 11月末まではヘッジファンドの決算期末を控えているので、大した動きになるまい。それでも10月に入って外国人投資家は4週続けて買い越し,金額にして4971億円で、7~9月累計の2849億円を上回った。

 個別の銘柄の動きを見ても反転の気配がうかがえる。好決算を発表したファナック、日立、コマツなどは素直に買われ、コアの大型株は底固い。銀行や小型株、それにムリな増資を強行した銘柄が市場平均を押し下げているだけだ。

 今回のQEⅡでますますドル・キャリー・トレードは増加。すでに新興国株式市場には過剰流動性相場が発生しているが、今後さらに加速化しよう。「世界の株高」だ。

 総本山のNY市場は年初来高値を更新するなどすでに堅調。しかし投機筋のS&P先物市場での買い持ち(ロング)ポジション比率は2006年10月以降で最大となった。また投資家の見通し調査では「強気」の比率は2007年2月以来最高。市場内部要因で一時的な調整があってもおかしくない。ちなみに2007年3月には7%下落した。

 NYの不安はあるものの、デフレ(日本化)懸念で債券に縛り付けられていた資金が、リスクをとれるようになって株式に向かう。要するにデフレ不安からインフレ期待に、世の中のムードを変えることが、ベン・バーナンキFRB議長の狙い。

 米国中間選挙での民主党大敗もあり、財政での景気刺激はムリ。どうしても金融に負担がかかる。恐らく6000億ドルのQEⅡで、なお米国景気が不振なら、QEⅢ、QEⅣもありうるだろう。

 幸い米国はツイている。シェール・ガス革命で原油がバーレル当たり価格換算20ドル近辺の安いエネルギーが無尽蔵に出始めた。この効果は大きいのではないか。

 映画のセリフから。政府を代表する内閣参事官が海上保安庁にハッパをかける。「人命を守るのは当たり前。しかし国益を守るのも海保の仕事じゃないのか!」。国民の財産である株式市場を、政府はもっと守り育てる姿勢を示さなくちゃ。それも国益のひとつだ。

2010年11月 2日 (火)

「通貨戦争」は米国圧勝に終わる(選択2010年11月号)11月2日

「選択」2010年11月号

デフレ回避に手段選ばぬバーナンキ

「通貨戦争」は米国圧勝に終わる

今井澂

 「今回の米連邦準備制度理事会(FRB)の量的金融緩和の影響は想像を超える。まず米国のインフレ率は現在の1%未満からふたケタになる。投資家は利回り2・4%の米国国債は一刻も早く売り払い、米国株と金に投資すべきだ。」

 「推奨銘柄はコカ・コーラ、ファイザー、ジョンソン&ジョンソン、シティグループ、バンク・オブ・アメリカなど一流株。相当に上がるが、金のほうは金融緩和でオンス2400ドル。行過ぎた場合は4000ドルもありうる。」

 「住宅も今は買い時。50年に一度のチャンスだから30年の住宅ローンを固定金利で。住宅を持たない人はまず自分のために買う。すでに一戸持っている人はもう一戸。2戸持っている人は3戸目を買う。」

何をアホなことを言っている、といってはいけない。いまやジョージ・ソロス氏を抜いてヘッジファンドの帝王となったジョン・ポールソン氏の、最近ある集まりでのスピーチなのである。

 このジョン・ポールソン氏は2007年以前からサブプライム危機を察知。リーマン・ショック以降住宅関連証券や金融株を空売りして2008年1年間で5倍、続く2009年も36%のリターン。現在350億ドルの巨大ファンドの運用担当者だ。ちなみに昨年の報酬は23億ドル(!)。

量的緩和は1兆ドル!?

実はこのポールソン発言は程度の差こそあれ、ヘッジファンド全体の投資シナリオといっていい。大量な資金がコストゼロに近く調達でき、これをリスクアセットに振り向けることが出来る。

 現に8月下旬、FRBが第二次の量的緩和を考え始めたという情報が出始めてから「米国経済にとっての悪材料は株価を含めて買い材料」というロジックで、次の三方向にヘッジファンドの大量買いが始まった。

 第一は通貨。ユーロは5月ごろには売り越しだったが大量買い越し。同時に円、豪ドル、スイスフラン、カナダドルも。

 第二は商品。金価格が史上最高値を更新し銀も30年ぶり。銅も2年ぶりの高値で、原油先物も在庫水準が異常なまで高かったので出遅れていたが、安値バーレル70ドルから83ドルまで急騰。また穀物もロシアの熱波を材料に小麦価格は上伸、綿花は140年ぶりの高値。トウモロコシ先物は15年来最大のヘッジファンドの買い残が積み上げられた。

 第三が新興国株式。インドネシア、フィリピン、タイなどすでに40%近くの上昇率。特に尖閣列島の問題でチャイナ・リスクを強く意識した日本企業は「恐らくベトナム」という発想でベトナムの地価も50~60%の上昇を見せている。

 この買い資金が「10月に入り1週間で60億ドルの資金流入が新興国株式ファンドに対しあった(調査会社EPFR)。」これら三方向の投資の成功で、ヘッジファンド2200あまりの運用成績は9月にこれまでのピークだった2007年10月の水準を抜いた。

 筆者ならずとも、こんな状況でFRBバーナンキ議長は超金融緩和に踏み切るのだろうか、と不安になる。答えは日本時間の11月4日に分かるし、連邦準備制度の理事の中にはバブルの形成を心配している向きもかなりいる。フタを開けてみたらアレレ、ということになりーということになりはしまいか。

 しかしご心配は無用のようだ。ベン・バーナンキ議長は10月15日ボストンで講演し「現在のインフレ率1%弱は政策目標から見て低すぎる」とし、2%という目標を述べた。デフレリスクからの脱出が必要で、物価を差し引いた実質短期金利は「高すぎる」。

 このスピーチほどの位のFRBの量的緩和になるのか。金融業界で一番信頼されている「メドレー・グローバル・アドバイザーズ」は「今後6ヶ月間で5000億ドルあるいはそれ以上の国債買い取り」と報じている。年間ベース1兆ドル。

 少々古いがFRB自身の研究論文が10年前に出ている。内容は「1兆ドルの量的緩和は2年間でGDP成長率を1.7%押し上げ、国債金利を0.3%引き下げるが、インフレ率は0.6%上昇させる」というものだった。バーナンキ発言と符合する。

 問題は特に日本人にとってはドルがどのくらい減価するか、だろう。いま起こっているのは円高ではなくドル安だからだ。

ドル安は「国策」

4000語のスピーチの中でバーナンキ議長は通貨については全くふれていない。しかし前記の研究論文では「1兆ドルの緩和はドルを5%下落させる」。また別の研究では2008年と9年にFRBが資産購入を発表したとき、1兆7250億ドルの購入で6.5%ドルは減価した。「FRBが動くらしい」というニュースは8月末にバーナンキ議長が講演して以来だが、すでに4%のドル減価になるので、理屈の上はこれ以上ドルの下げ幅は大きくない。もっともオバマ大統領は「米国の輸出を5年間で倍に増やす。そのためにはドル安」という“国策”を掲げており、がドルの価値下落は当面続くと見るのが素直なところだろう。

 要するにFRBの関心は米国の経済が長期不況(日本化)に陥らないよう、景気のテコ入れが必要なだけ紙幣を印刷する、というものだ。米国以外の国は「独立しているのだから、ふさわしい政策で対応すればいい。」1970年代初頭、当時のジョン・コナリー財務長官が為替変動を憂慮する欧州諸国に放った発言「ドル下落はあなた方の問題」と共通する。これに対し、英紙フィナンシャル・タイムズは「通貨戦争が始まっているが、米国は必ず勝利する」と諦め顔で報じている。

 暴力的な資本の流入には不愉快な選択しかない。①自国の通貨の価値上昇で国際競争力を下落させる②市場介入してほしくもないドルを蓄積し国内の金融が混乱する③課税や規制で資本流入を制限など。過去の歴史を見るとこの三つの全てを実行するのが通例だ。しかし「米国には弾薬が無尽蔵にある。FRBはドルをいくらでも作り出し、世界各国にインフレをもたらせることが出来る」。悲鳴を上げたところで効果はない。 

「ミスター円」こと榊原英資氏は10月下旬の講演で、「G20で通貨市場は鳴りを潜めているが、会議が終われば投機勢力は円買いを再開し、95年に付けた1ドル79円75銭は抜くだろう。しかし9月の介入は失敗だし、当分は再びやるべきではない。」と円高が長引くとの見方を示した。そして「95年の79円75銭は今の感覚では65円近辺」とも語った。国内の輸出企業のとっては当分、気の滅入るような状況が続くだろう。

 何しろバーナンキ議長は「日銀はケチャップを買え」と放言し、ヘリコプターでカネをばら撒けば日本のようなデフレにならないと語るエキセントリックな信条の持ち主。世界は当面、オバマ大統領ではなくこの人に振り回されることになる。

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