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2010年11月13日 (土)

映画「桜田門外ノ変」とTPP(第517回)

 映画「桜田門外ノ変」は吉村昭の名作の映画化で佐藤純弥監督。1860年(安政7年)3月3日に幕府大老井伊直弼が水戸浪人を中心とした18人の襲撃で首を刎ねられた。

 その7年前にペリー来航、翌年には日米和親条約が結ばれた。次の段階として通商条約が要求され,朝廷に条約を拒否された幕府は勅許なしに条約を締結。これに反対する水戸家に勅書が下るが、井伊大老は関与した尊王倒幕派を一掃しようと「安政の大獄」を強行する。襲撃はその復讐だった。

 いわば政治的テロリズムだが、この事件を契機に、一気に討幕運動は進む。

 映画はまず暗殺を、続く大部分は18人と関係者の死を画く。ほとんど幕藩体制の維持のための刑死。あとほんの数年で明治維新になるのに。

 いまTPPへの参加問題が、民主党内のバトルになっている。「環太平洋経済連携協定」が正確な訳名だが、世界の貿易自由化の流れを形成したFTA(自由貿易協定)の一歩進んだ形で、原則関税ゼロになる。従来から輸出産業の競争力低下を怖れる経産省と外務省の連合軍に対し、国内農業保護を訴える農水省が反対。この構図からこれまでもFTAは遅々として進まなかった。

 今回も同じ。農水省は「食糧自給率は40%から14%に低下。年4兆1000億円の農産物の生産額減少」と主張している。

 私はかつてグレープフルーツの輸入自由化のときに「日本のミカンがこれで全滅」と騒いだのをよく覚えている。農業がらみのもっともらしい予想が当たったためしがない。私は誇張があると思う。

 菅首相は「明治維新、第二次大戦の敗戦に次ぐ第三の開国の機会にする」と所信表明演説で述べた。珍しくいいことを言ったが、せっかくのAPECまでに明確な参加意志表明が出来なかった。また党内の「明年の統一地方選」を考慮せよ』という声にも足を引っ張られている。

 この間にライバルがどんどん前進しているからコワい。

 日本の輸出に占めるFTAの比重は発効済みが17%、交渉中が19%計36%。一方韓国は同じ順で36%、26%で62%。しかも明年から対中国FTA交渉を始めるとの見方が有力でこれを含めると83%。

 この輸出比率の差が巨大な輸出競争力のハンデになる。関税ゼロ対関税10%とか15%とかー。

 自動車工業会によると、日本と韓国の差は自動車市場規模で3000万台。この巨大市場で明確な価格差がつく。

 これが雇用にひびく。

 たとえばトヨタ。最近発表された4~9月期の営業利益は3231億円あり、一見円高やリコール問題を克服したように見えるが、実は単独決算では営業損失は1494億円に達した。無理して国内の雇用や関連企業のビジネスを維持しているのが主因と思う。

 収益の中心の輸出市場を失えば、トヨタが第2のGM・クライスラーになってしまう。

 100万台かりに生産が海外に移転されれば15万人の雇用が失われる。3分の1の1000万台なら?計算してみなさい。どうしなければならないか、すぐ分かる。

 映画のセリフから。倒幕が成功し明治天皇が江戸城に入るとき、西郷隆盛が従者に言う。「ここが桜田門だ。(井伊大老が殺された所だ)あれから一気に維新が進んだのでごわす」。歴史的事件は幕末でも現代でも、突発的に起きて国家社会の動向を急激に揺さぶる。

 農業についても一言。就業者の減少と高齢化で何年か後に存続不可能になるのは目に見えている。この際、時間を稼ぎながら21世紀型農業への変革を進めるべきだ。

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