今井澂プロフィール

講演・出演など

お問合せ

アドセンス

  • 広告

« 2010年11月 | トップページ | 2011年1月 »

2010年12月30日 (木)

映画「ハンコック」と中国の自動車と資源(525回)

 映画「ハンコック」は1昨年夏の大ヒットでウィル・スミス主演。スーパーマン物に近いが主人公の性格がひとひねりしてあって、面白い。要するに何でもやりすぎてしまうヒーローなのである。

 超人的な能力を持つハンコックは弾丸を跳ね返す体で自由に飛びまわり、車を簡単に投げ飛ばす怪力の持ち主。しかし悪党一人捕まえるのにロスの町中破壊する釣り合いの取れない行動に。市民やマスコミの人気は最低。帰れ帰れとブーイングされ、ひねくれてしまったハンコックは酒におぼれてまた町を破壊。

 そこに広告代理店の男が命を助けてもらった礼に「好かれるヒーローに」とイメチェンを手伝い始める。抱腹絶倒。

 私はこの映画が好きだ。アメコミ映画でなく映画専用の脚本で、「やりすぎ」の悲喜劇を面白く画いているからだ。

 「やりすぎ」は昨今の中国だろう。いまや自動車は農村部にも普及し始め、中国農民の食生活は劇的に変わった。町まで買出しに行くのに徒歩や馬車で半日かけていたものが、すぐ往復できる。冷蔵庫も買って保存できる。

 その結果、ショウガやニンニク、食用油、砂糖、豚肉など、中国人の食事に必要なものの価格は暴騰。3倍から6倍にこの1年間でなってしまった。

 2010年の中国の自動車販売台数は1800万台を超えた。米国の2000年の記録が1740万台だったから、1国の年間販売としては史上最高。

 前年増加率は2010年32%。過去10年の平均は24%で「5年で3倍」というハイペースだ。国全体の過去10年の名目成長率は14.7%だったから、自動車販売は1.6倍に達する。

 今後GDPが10%、自動車販売が15%とすると、2015年に3620万台。2020年には何と6000万台!

 こんな高成長が可能だろうか。

 東京工科大学の尾崎弘之教授は「これほどの急成長はムリ。10年かけてせいぜい2倍から3倍」と見込んでいる。

 理由は次の3点。①自動車メーカーが巨大な設備投資で対応するのはムリ②中国だけで早期に保有台数4250万台(2007年)が米国の2億4727万台に近い2億台になるには、深刻な原油不足を覚悟しなくてはならない。

 そこで中国政府は自動車購入の優遇措置をカットし始めた。車の買い替え補助金、農村部の乗用貨物両用車の購入補助金は減少させ免許交付を制限し、ガソリン税やディーゼル油税を5倍から8倍に引き上げている。自動車の「やりすぎ」を制限しようとしている。

 それでも、自動車を利用したいという中国国民の希望は止まるまい。

 2012年は中国の胡錦鋳主席が習近平副主席に交代する。ここ20年間、首脳部交代の全人代の年は11.3%成長とGDP成長の10.3%を上回り、とくに前回の2007年には14.7%だった。2012年までは、少なくとも中国経済の好況は続くだろう。いくら貧富の差が大きいとか、構造的にムリな高度成長とか、批判されても勝てば官軍で成長ペースは落ちそうにない。何か自滅、自壊作用が発生するかもしれないが。

 発生するとしたら、日本と同じGDPの規模だが税収は日本の2.8倍、国民から取り上げているというあたりか。

 映画のセリフから。町の人が言う。「ハンコックが投げたトレーラーが飛んできてオレのビルをメチャメチャにしやがった。おかげで自転車に乗っているんだ」。まあ、こんなことにならなければいいが。

 〈注〉523回で私は英国の復活した例を挙げ、北海原油の効果は30年あった、としました。「そんな程度?」とご批判を頂きましたので数字でお答えします。北海原油は130億バーレル。日本は尖閣列島近辺だけで1000億バーレル。文字通りケタが違います。それに加えて海底熱水鉱床の金、銀などがあります。だから私は「資源大国日本」の夢を持っているのです。

2010年12月24日 (金)

映画「ノルウエイの森」とベトナム経済の今後(524回)

 「ノルウエイの森」は1065万部も売れた超ベストセラー小説。題は勿論ビートルズの名曲。これをベトナム生まれのトラン・アン・ユン監督が映画化した。只今ヒット中。撮影はアジアの名手マーク・リー・ビンビン。音楽はジョニー・グリーンウッド。しかしロケ地は日本だし俳優もセリフもすべて日本。私は全く違和感を感じなかった。

 村上春樹氏の「ハルキ・ワールド」、つまり異界に抜けたり、死者が生き返ったり、邪悪なものが出現したりーという世界ではない。リアリズムの小説だが、それを美しい映像にまとめた。佳作と思う。村上氏独特の死生観、とくに大切なものを失う恐怖感や悲しみが、下品でないセックス描写と重なって表現された。出演松山ケンイチ、菊地凛子。

 ベトナム人監督だから、というわけではないが、実は先週ハノイに出張したので、まとめてみた。

 感じたのは、ベトナム人の親日(逆に言うと中国人嫌い)でフレンドリーなこと。仏教徒という共通部分もあるだろうし、食事もうまい。謙虚で温厚な所も、そしてこの映画にあるように、感性にも共通点が多い。

 べトナムはカンボジア、ラオスで一つの経済圏を形成。今後中国と日本との関係が尖閣問題などもあって、こじれればこじれるほど日本企業の進出は増えてゆくだろう。

 この国はコーヒー生産ではブラジルの34%に次ぎ、13%で2位。原油、石炭などの埋蔵量も多く、原油生産は日量35万バーレル。

 この国は6-7%成長の国だが、中国と違って第一次、2次、三次産業のバランスが良く成長。中国のように第一次産業を置き去りにした結果、貧富の格差、地域内格差が巨大化しているのと対照的だ。

 ただし、社会主義国としての経済運営の不合理性は残る。たとえば7月に経営危機に陥った国営造船コングロマリット「ビナシン」。同社は40億ドルの負債を抱えて破綻に瀕したが、ひところの同社は「ベトナムは2015年までに中国、韓国、日本に次ぐ第4位の造船大国に」の目標の中心。6万人の従業員、28箇所の造船設備、2007年には年35%の高度成長企業として注目を浴びていた。

 しかし無謀な拡張主義と多方面への軽率な投資のため経営は悪化。不正経理の疑いもあって同社経営者は逮捕された。

 現在でも国営企業をめぐっての賄賂の横行が言われている。

 実は、タイのバーツを始め、アジアの諸通貨が米ドルに対し強まっている中で、韓国ウオンとベトナムのドンだけが弱くなっている。韓国の方は「北」の砲撃などがあったためだが、ドンの方はインフレである。

 消費者物価指数は2010年11月が前年同月比11・1%上昇。政府目標の6%を大きく上回った。政策金利を9%に引き上げてインフレ沈静を図っているがうまくゆかない。

 高成長もインフレの背景。実は成長率は目標の6・5%を超えて7%以上に達しそうだ。鉱工業生産は10月までしか分からないが12.6%上昇。米格付け会社がソブリン格付けを1ランク引き下げる。

 こうした問題点はあるものの、やはり成長国であることは変わりない。日本の協力もありインフラや法制が整備されてゆけば、7-8%成長国として必ず再び脚光を浴びるだろう。

 映画のセリフから。直子の20歳の誕生日。同じ年だが、まだ誕生日に7ヶ月残しているワタナベに直子は言う。「人って、18と19の間を行ったり来たりすべきなのよ。19が終わったら、18になるの。そしたら、色んなことがもっと楽になるのに」。もう私には18と19と20の差は分からない。とうい昔になった。成熟した日本人としては、若さはもっともっと注目しなくては。ベトナム株のETFがおすすめだ。

2010年12月20日 (月)

「抑止力」の意味と日本株(先見経済2010年12月15日号)

最近の有名誌に有力政治家が「米国はイザという時に助けてくれるはずがない」と、自分が米軍を訪問したときの体験をもとに文章を書いている。

 また民主党の小沢元党首が「米軍は第7艦隊だけいればいい」という著書を出しているのも良く知られている。鳩山前首相も就任直後まで同様な考えを持っていたらしい。

 この考え、見方について、私は間違っている、と考える。

 米軍は陸、海、空の3軍プラス海兵隊の4軍構成からなるが、3軍は実は外から攻撃され、米議会が動員に賛成しないと出動出来ない。

 だから、ベトナム戦争ではトンキン湾でベトナム海軍に攻撃されてから、となったし、古くは真珠湾がそうだった。しかし、海兵隊だけは大統領命令ですぐ戦闘を開始できる。

 かりに沖縄にいる海兵隊がグアム島に移転したとしよう。その場合、北朝鮮が韓国を攻撃したら、何時間か攻撃用ヘリが来るには時間がかかる。沖縄からなら何十分か

バーレルから1500億バーレル、日本側も1000億バーレルの海底油田が尖閣列島にはあるからだ。金額にして800兆円、世界第2の産油国イラク並みに埋蔵量である。だから1970年になって,急に「中国の領土」と言い出した。

 米国側もこの海底油田は良く知っており、クリントン国務長官は「日本安保条約第5条によってカバーされている問題」と即座に認めたのである。また、今は使っていないが米軍は尖閣に射爆場をもっている。

いま、中国のゴリ押しはレアアースやノーベル賞などを例にとるまでもなく、世界中の顰蹙を買っている。

 また北朝鮮もここ2,3年中に中国に習って開放経済に移行するという有力情報もある。そうだ。

 だから韓国は鳩山政権になって、連立の社民党あたりに引っ張られてグアム島説が出たとき、相当困っていたらしい。内政問題だから口には出せないが。

 たまたま5月下旬に韓国で中国温家宝首相、鳩山首相を国賓として迎えて3国会談があったが、このときに「沖縄での米海兵隊は大きな抑止力」と日本側に認識させたと聞く。韓国訪問の前日、鳩山首相は抑止力を認めた。恐らく認めなければならない事情が起きたのだろう。

 続く菅首相はオバマ大統領との会談で「抑止力」を認めた。

 こんなことは米国の軍事態勢のことを知っている自衛隊の制服組に聞けばすぐ分かるのに。

 私が何でこんなことを言うかというと、米国は「新冷戦」が中国との間に開始された現在、絶対に日本を見捨てるはずがない。だから冒頭で紹介したある政治家の「日本は米国を信用してはいけない」という言葉は何か目的があって言っているとしか思えない。

 尖閣列島への中国のこだわりと横車は目にあまる。 というのは中国側の推定では600億

バーレルから1500億バーレル、日本側も1000億バーレルの海底油田が尖閣列島にはあるからだ。金額にして800兆円、世界第2の産油国イラク並みに埋蔵量である。だから1970年になって,急に「中国の領土」と言い出した。

 米国側もこの海底油田は良く知っており、クリントン国務長官は「日本安保条約第5条によってカバーされている問題」と即座に認めたのである。また、今は使っていないが米軍は尖閣に射爆場をもっている。

いま、中国のゴリ押しはレアアースやノーベル賞などを例にとるまでもなく、世界中の顰蹙を買っている。

 また北朝鮮もここ2,3年中に中国に習って開放経済に移行するという有力情報もある。そう

なれば朝鮮半島全体に中国の影響力は及ぶ。どうしても米国は防波堤としての日本を重視しなければならない。

 1949年に中国本土に毛沢東の共産政権が樹立されたときにも、米国は日本を強力に援助し復興させデモクラシーのモデル国にした。今回も同じ。

 実は1949年5月に株価はゴールデン・クロスという長期の買い信号を発した。今回も2008年に株価は同じ長期上昇を暗示する指標がでた。日本の歴史で第2回目。だから私は、日本株にも日本にも、強気だ。

2010年12月19日 (日)

映画「素晴らしき哉、人生!」と米国の新商品(第524回)

 クリスマスシーズンに必ず米国ではTV放映される永遠の名作。1949年の製作だから驚異的な長寿ヒットだ。名匠フランク・キャプラ監督。

 クリスマス・イブの夜。ジョージ・ベイリーという男が川に身を投げようとしている。神様は2級天使クラレンスを呼び、この男を救うことに成功したら、念願の翼を与え格上げしてやると約束する。

 ジョージ(ジェームス・スチュアート)は父親から受けついだ住宅金融業を経営、大恐慌のときも低利で融資し町の人を助けるが、その代わり、新婚旅行は中止。同業からニラまれる。その後の人生は不運続き。

 会社の金が紛失し横領を疑われたジョージは自殺しようとするが、そこに天使が。

 「生まれてこなければ良かった」というジョージに天使は「生まれなければどうなったか」を幻の世界で見せる。生きる希望を取り戻す。そこに窮状を知った町の人々が、寄付金を持って続々と集まってくる。

 米国の年末商戦。いい数字が出ている。当たり前だ。失業率が問題にされるが、それは表面上のポーズ。スリム化した米国企業は労働生産性を上げ社員の給料は上昇中だ。株高もあるし購買意欲は大きい。

 人気商品ナンバー・ワンは円形の掃除ロボット「ルンバ(4万2900円)」だ。アイロボット社が地雷除去技術を米政府委託で開発、このナビゲーション技術を土台に家庭用ロボットとした。

 同社の今12月期は30%以上の増収、利益は6倍。価格が200ドル以上の世界の掃除機の市場規模は40億ドルで同社はシェア5%を獲得した。

 「ルンバ」は日本でも安い型なら3万9000円で買える。1ヶ所を平均4回掃除するようプログラムされており、ゴミ除去率99.1%というのがウリだ。400万台を売ったという。

 「ARドローン」というラジコン・ヘリコプターも人気。1台4万3800円。これも軍の無人偵察機の技術が応用されており、アイフォーンかipodを使って無線で操作し、前面についているカメラを通じて飛行したり、ホバリング(停止)したりする。

 軍事技術が民生用品に応用される例は米国では数多いが、このところ「インターネットに次ぐ巨大市場につながる技術」としてロボットが注目されている。

 近く打ち上げられるスペースシャトル「ディスカバリー」で世界で始めて人間の形をしたロボット宇宙飛行士R2」が飛び立つ。NASAとGMが共同開発したもの。目標は宇宙船の内外で人間の宇宙飛行士を支援できることだ。

 これはまだ先の話にしても、前記した地雷除去技術のほか、近く民生用に応用される技術は①無人ロボット車の自律走行技術②戦地で負傷した兵士のために開発された遠隔手術ロボット技術の実現が近そうだ。

 現在日本ほどでないが米国でも老齢者市場が意識され始めている。オバマ政権は各省庁のロボット関連の開発プロジェクトに重点的に予算を配分するよう指示した。

 現在のところ圧倒的に世界市場を押さえ、技術的にも優位にある日本だが、米国が本気になってやってくると楽観できない。現在のロボットは30年前のパソコンと同じで標準的なオペレーション・システム(OS)を欠いているので多様なロボット技術がアプリケーションから応用されていない。ここをビル・ゲイツのような米国人がおさえ込んだらー。

 映画のセリフから。ジョージへの寄付の中に天使が持っていた「トム・ソーヤー」の本の見返しのところに「友達を持っている人には落伍者はいない。翼をありがとう」とメッセージが書いてある。そこにクリスマス・ツリーのベルが鳴って幼い娘が「今、天使が翼をもらったわ」というのがオチに。早くロボットのOSを日本が開発できないものか。力強い友達になれるだろうに。

2010年12月11日 (土)

映画「武士の家計簿」と日本の財政破綻問題(第523回)

 磯田道史のベストセラー「武士の家計簿」が映画化され、只今ヒット中。森田芳光監督。

 江戸時代後半、加賀藩で御算用者(ごさんようもの)と呼ばれる会計処理の専門家猪山直之(堺雅人)は一家の借金が、父と自分の収入の2倍あることに気付くと、家財道具を売り払う。借り入れの4割を返済、残りは金利なしにしてもらう交渉にも成功。倹約生活も始まる。

 直之は息子にソロバンと論語を徹底的に叩き込む。どんな時代でも確かなウデがあれば生き残ることが出来るーと考えたからだ。果たせるかな、幕末の動乱にも猪山家は生き延び出世する。

 直之が一家全員の協力を求めるときに「生まれてくる子の顔をまっすぐ見られる親でいたい」という。当時18%の金利はやはり重かった。

 予算編成の時期も近く、何かとバラ撒きがはかられる季節。それに欧州のソブリン・リスク問題もいわれているし、日本は大丈夫なのか。

結論から言おう。私は財務省のお役人は国の借金だけを言って「ギリシャ化」とオドかす。国の普通国債(600兆円)、財検債(129)など借金は2009年度末で991兆円。たしかにGDPの倍近い。

 第二次大戦が終わったときのGDPの借金比率は200%だったから、この水準に近い。

 しかし、である。昭和20年には政府の資産なんてほとんどなかったし、民間に売ることも出来なかった。高橋洋一さんによると2007年度で政府の資産は695兆円。差し引いてネットの借金をとるとGDPの60%台。世界の有力国の中でさほど悪い水準ではない。

 まあ戦時でなく平時で、しかも予算の60%を国債に依存するのは、たしかに異常だ。それでも国債発行の96%は日本国内で消化されている。だから日本のソブリンリスク爆発は、私はあと10年は大丈夫、と申し上げている。

 理由は、お隣の中国が国債市場を確立し、人民元の國際化も進んで日本の機関投資家が、日本国債の購入を削って中国国債を買い始めるときが、ソブリンリスクの爆発が日本で起きるときだ。それはあと10年はかかる。

 うまくゆけば、それも起きない可能性がある。

 それは海底資源の開発で政府の収入がふえる可能性だ。

 騒ぎになっている尖閣諸島ひとつとって例にとっても、中国側の調査数字では600億バーレルから1500億バーレル。イラクなみの原油が眠っているのですゾ。

 来年からテスト採掘の始まるメタンハイドレート。これは天然ガスが深海の水圧、低温で氷状になったもの。94年分あるそうだ。また海底熱水鉱床といって金、銀、非鉄金属、レアメタルも豊富にある。2018年にはこれもテスト。

 私は1970年代の英国を思い出す。北海原油の採掘のおかげで、70年代末には財政収入も輸出も、五分の一は原油の黒字。現在の日本よりひどかった斜陽国英国は、これでいっぺんに立ち直り活性化する。これと同じように「資源大国日本」が復活する期待は十分だ。サッチャー首相はこの北海原油の黒字でシティを「ビッグバン」で活性化させた。最近は原油の効果もそろそろタネ切れだが、40年間キキメがあった。

 映画のセリフから。主人公の妻お駒がいう。「貧乏だと思えば暗くていやだけど、工夫だと思えば面白くて楽しいですね。」そして倹約を先頭に立って推進する。要は、気の持ちようだ。

2010年12月 6日 (月)

映画「レッド・オクトーバーを追え」と株価上昇(第522回)

 トム・クランシーのベストセラーを「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン監督が映画化。1990年の旧作だが主演のショーン・コネリーが実にいい。潜水艦ものという舞台がいいし、政治サスペンスでもある。私の好きな映画だ。

 まだ米ソ対立の冷戦時代。ソ連の誇る核攻撃用の最新鋭原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」が、アメリカ東海岸に接近する。

 米軍は当然対米攻撃と解釈するが、CIAの分析官ライアン博士は、ソ連艦長のラミウスが潜水艦ごと亡命しようとしているーと推理する。米ソ双方がこの潜水艦を総力を挙げて追う。米ソの魚雷戦が始まり、間違うと核戦争の第三次大戦の恐怖が迫る。

 あの冷戦時代は共産圏と自由経済圏と世界を完全に二分していた。今回の米中の対立による「新冷戦」は、貿易、文化、スポーツなどは国境がなく協調し、軍事、外交では対立する。協調と対立の境界にあるのが、為替レートだ。

 軍事面では核兵器を保有する国としない国とでは大きな差が付く。いい例が南北朝鮮だろう。(中国と日本も、同じか。)

 ヨンピョン島への「北」の砲撃。あれは核を背景にした非保有国への脅迫だ。だから3月の韓国の哨戒艦撃沈事件でも反撃は出来ない。

 その「北」のバックに中国がある。わが国では中国に「良識ある調停を期待する論調が多いが、まるで現実を把握していない。

 2012年に胡錦鋳主席の後継者となる習近平副主席は去る10月、朝鮮戦争は「侵略を防ぐための正義の戦争だった」と米韓を侵略者呼ばわりしている。また同副主席は「李明博政権は朝鮮半島の平和の妨害者」と述べた。東アジアでは明瞭に「新冷戦」が始まっている。

 1990年代にクリントン政権が「日本異質論」を展開し、当時日本が制圧しかけていた半導体の市場五分の一開放、特許や技術の公開、自動車協定など日本叩きが行われた。

 その日本攻撃の最たるのもが、ヘッジファンドによる円高への操作だ。95年4月の79円75銭の市場最高対ドル円レートの達成の前年夏に、私はヘッジファンドから計算の論拠を聞き「東洋経済」に名前入りで論文を書き「95年春1ドル80円」と書いた。

 この無理な超円高がきっかけになってデフレと不況、空洞化、労働賃金引下げなどなど。いま日本経済が悩んでいる病弊が、いっぺんに発症した。

 米国の圧力は日米安保条約が、かつての冷戦時代には日本擁護のためのものだったが、1990年代には日本を押さえる道具になった。

 しかし、「新冷戦」になると再び情勢は180度転換する。だからこそ鳩山政権のアマチュア政治による混乱が続いていても米国はガマンしたのだろう。

 しかも「北」の挑発はまだ続く。1980年代に金正日が後継者として登場したとき韓国に対し攻撃を繰り返し、国内では軍事的天才と持ち上げていた。金正恩も同じ路線だろう。まだ破壊活動は続き「新冷戦」は激化する。「中国異質論」は深化する。

 そこでまず円レート。ここ数週間でシカゴ市場での円先物買いの残高は急減した。円高は、多少ブレても幅は知れている。株も外国人機関投資家の買い金額で見ると10月以降、それまでの買い越しの3倍。

 一方、日本企業のコスト削減、労働生産性向上は先進諸国で際立って成功している。

 すでに11月の日銀の量的緩和の成果は「REIT」指数の戻り高値更新であらわれ、株価にも優良株に方向転換の兆候がはっきりして来た。

 結論。明年の早い時期に市場平均1万2000円は達成されよう。次の目標はそのときに。

 映画のセリフから。CIA担当者が巧みに、ロシア語を操るので理由を聞かれる。そこで言う。「敵対立する国の文化を理解しておかなくてはいけませんから。」為替は、特に円の対ドルレートは政治、国際政治そのものだ。そこらを理解しておかなくては。

2010年12月 4日 (土)

GMはもう一度破綻する 「選択」12月号 

 11月18日、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)の取引開始を示すオープニングベルは、いつものようにゲストが打ち鳴らすものではなかった。代わりに取引所に響いたのは自動車のエンジン音。17ヶ月ぶりに市場に帰ってきた米ゼネラル・モーターズ(GM)の再上場を祝う特別セレモニーである。公開価格33ドルに対しては、すぐに35ドル75セントの値がつき、結局、この日の引け値は6%高の35ドルと上上のスタートとなった。

 売買の90%は米国の個人で、中国自動車最大手の上海汽車集団や、中東の政府系ファンドも買いを入れるなど、市場は華やかなムードに包まれた。TVキャスターは「ベスト・オブ・ベスト」と賞賛。「GM復活」との見出しが米国の主要紙を飾ったことはいうまでもない。

 「復活」の声が相次ぐのも無理はない。再上場直前の10日に公表された2010年7~9月期の決算は売上高が前年同期比21%増の340億ドル。一株当たりの利益は1ドル20セントとなり、前年同期の73セントの欠損から劇的に回復した。これに乗じたGMのダン・アカーソン最高経営責任者は「中国でのGMは外国メーカーとして首位」「電気自動車シボレー・ボルトの発売も近い」などとぶち上げた。

  政権のメンツがかかる

 しかしこうしたお祭りの陰で、「新生GMは長期的には価値ゼロになるかもしれないのに、米国の投資家はこのことに気付いていない」という声があるのをご存知か。「企業価値は600億ドルという能天気な計算がデタラメだ」というのだ。

 何が問題なのか。最大の懸念材料は年金で、1千億ドルを超える年金プランが新生GMにそのまま移された。英国の年金コンサルタントのジョン・ラルフ氏によると、GMは2014年に43億ドル、15年には57億ドル拠出しなければならない。現在のGMの年間利益レベルである80億ドルから見て巨大すぎる負担だ。

 「基本的には年金などのレガシー・コストの負担で、GMはいつの日か再び経営危機に陥るのは目に見えている」と断言するのは、自動車関係では良く知られている在NYのジャーナリストだ。

 「GMの最大の問題は、(倒産前と変わらない)全米自動車労組(UAW)との関係。ようやく廃止されたとはいえ、働いていない労働者にカネを払うジョブ・バンク制度や、めちゃくちゃ高い医療給付など数え上げていくとキリがない。GMのUAWとの契約書は電話帳ぐらいの厚さがある。現役のGMの工場労働者は8万7500人。これに対して年金受給者は53万1500人。さらにこれにプラスして、会社を去ったもののまだ引退していない年金受給予定者が8万3500人。労働者一人が6人を養っている。無理に決まっている」

 今後の収益力の向上を、GMに期待できるかどうかも疑問だ。GMの世界シェアは現在11%で、5年前の14%から3ポイント低下したまま上向く気配がない。営業利益率はライバルのフォードに比べて半分ほどに過ぎない。

 カギを握るのは販売量だが、そもそもGMのクルマが魅力的なのかどうか、という点で疑問符が付く。米調査会社の資料によると、同社の一台当りの販売奨励金は同業他社に比べて格段に多い。GMが3510ドルなのに対して、フォードは2976ドル、ホンダは2219ドル、トヨタ自動車は1974ドルだ。販売奨励金などクルマ自体に人気があれば本来不要なものだ。自動車雑誌「オートモーティブ・ニュース」のベストテンには相変わらず日本車が7車種を占め、GMは入っていない。これらの理由から、自動車アナリストでGMを買い推奨する向きはほとんどいない。

 「株価全体が粉飾されている」

 GM再上場の当日、米オバマ大統領はホワイトハウスで記者団に、「納税者のために、政府がGMに対して投資した(500億ドル)以上のものを回収できるだろう」と強気の見通しを述べた。その「回収」が出来るための株価は53ドル。政府ご推奨価格というべきか。「まあ、大統領が言うのだから」と投資家に安心感を与えるための発言といえよう。しかし現実は、とてもこの水準に達するような魅力を持つ株ではないことは、前述の通りだ。

 オバマ政権がGMの将来について「楽観的な発言」を繰り返すのは、当然ながら理由がある。リーマン・ショック後に制定した不良資産買い取りプログラム(TARP)を使った企業救済案件のうち、GMとクライスラーだけが唯一大きな含み損を抱えている。先の中間選挙で歴史的敗北を喫したオバマ政権の、メンツがかかっているのだ。

 米政府によるまやかしは、GM株だけではない。「米国の株価全体が粉飾されている」というショッキングな告発が、今、改めて投資家の間で話題となっている。話は9月27日に遡る。英国の名門証券会社カズノヴのストラテジストが、米CNBCテレビで次のような爆弾発言を行った。その当時から続いていた米株高の理由について、「米連邦準備銀行(連銀)が通貨調整や景気テコ入れを理由に銀行に資金を注入。その資金で銀行は株式をプログラム売買して株価をつり上げているため」と暴露したのである。

 従前から当局が株価下落防止のための組織を作り、住宅資産が大きく目減りした米国民の富を株高によって増やそうとしているとの噂はあったが、関係者の証言で裏付けられたのは珍しい。これは事実だろう。実際、点銀は米国債や不動産担保証券を売買する「恒久公開市場操作(POMO)」を昨年から続けてきたが、8月17日からはNY連銀に専門の取引担当デスクを置くなどして一段と活発化させている。NY連銀のPOMOの取引相手はゴールドマン・サックス、バークレイズ、ドイツ銀行。この3行が株高を人工的に演出しているのである。

 その後、11月2~3日の連邦公開市場委員会(FOMC)で量的金融緩和の第2弾(QEⅡ)が決定し、株高に向けた仕込みは「完了」した。あるヘッジファンドのマネジャーは「住宅価格の下げを埋めるための株高をオバマは狙っており、目標はダウ平均にして1万4000ドル」という裏話を筆者にしてくれた。

 本稿を執筆している11月22日現在、この株高作戦は順調に推移しつつあるようだ。NY株式市場は米連邦準備制度理事会(FRB)資金の大量供給を背景に、ヘッジファンドの大量買いで堅調な相場が続く。このまま進めば本当に、ダウ1万4000ドル、GM株53ドルというシナリオが実現してしまう。

 しかし、米国経済の回復が遅々として進んでいないことは日本の報道でも知られる通り。また、GMにも早くもミソが付いている。典型例が「再生」の象徴とされたシボレー・ボルトだ。当初は純粋なバッテリー駆動の電気自動車で世界最先端という触れ込みだったが、フタを開けてみればガソリンエンジン併用のプラグインハイブリッド車。この間の情報操作は見事だったが、日本車の真似に過ぎない。米政府は苦し紛れに電気自動車と規定しているものの、オバマはやはり「負け馬」を買ってしまったようである。

« 2010年11月 | トップページ | 2011年1月 »