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2010年12月 4日 (土)

GMはもう一度破綻する 「選択」12月号 

 11月18日、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)の取引開始を示すオープニングベルは、いつものようにゲストが打ち鳴らすものではなかった。代わりに取引所に響いたのは自動車のエンジン音。17ヶ月ぶりに市場に帰ってきた米ゼネラル・モーターズ(GM)の再上場を祝う特別セレモニーである。公開価格33ドルに対しては、すぐに35ドル75セントの値がつき、結局、この日の引け値は6%高の35ドルと上上のスタートとなった。

 売買の90%は米国の個人で、中国自動車最大手の上海汽車集団や、中東の政府系ファンドも買いを入れるなど、市場は華やかなムードに包まれた。TVキャスターは「ベスト・オブ・ベスト」と賞賛。「GM復活」との見出しが米国の主要紙を飾ったことはいうまでもない。

 「復活」の声が相次ぐのも無理はない。再上場直前の10日に公表された2010年7~9月期の決算は売上高が前年同期比21%増の340億ドル。一株当たりの利益は1ドル20セントとなり、前年同期の73セントの欠損から劇的に回復した。これに乗じたGMのダン・アカーソン最高経営責任者は「中国でのGMは外国メーカーとして首位」「電気自動車シボレー・ボルトの発売も近い」などとぶち上げた。

  政権のメンツがかかる

 しかしこうしたお祭りの陰で、「新生GMは長期的には価値ゼロになるかもしれないのに、米国の投資家はこのことに気付いていない」という声があるのをご存知か。「企業価値は600億ドルという能天気な計算がデタラメだ」というのだ。

 何が問題なのか。最大の懸念材料は年金で、1千億ドルを超える年金プランが新生GMにそのまま移された。英国の年金コンサルタントのジョン・ラルフ氏によると、GMは2014年に43億ドル、15年には57億ドル拠出しなければならない。現在のGMの年間利益レベルである80億ドルから見て巨大すぎる負担だ。

 「基本的には年金などのレガシー・コストの負担で、GMはいつの日か再び経営危機に陥るのは目に見えている」と断言するのは、自動車関係では良く知られている在NYのジャーナリストだ。

 「GMの最大の問題は、(倒産前と変わらない)全米自動車労組(UAW)との関係。ようやく廃止されたとはいえ、働いていない労働者にカネを払うジョブ・バンク制度や、めちゃくちゃ高い医療給付など数え上げていくとキリがない。GMのUAWとの契約書は電話帳ぐらいの厚さがある。現役のGMの工場労働者は8万7500人。これに対して年金受給者は53万1500人。さらにこれにプラスして、会社を去ったもののまだ引退していない年金受給予定者が8万3500人。労働者一人が6人を養っている。無理に決まっている」

 今後の収益力の向上を、GMに期待できるかどうかも疑問だ。GMの世界シェアは現在11%で、5年前の14%から3ポイント低下したまま上向く気配がない。営業利益率はライバルのフォードに比べて半分ほどに過ぎない。

 カギを握るのは販売量だが、そもそもGMのクルマが魅力的なのかどうか、という点で疑問符が付く。米調査会社の資料によると、同社の一台当りの販売奨励金は同業他社に比べて格段に多い。GMが3510ドルなのに対して、フォードは2976ドル、ホンダは2219ドル、トヨタ自動車は1974ドルだ。販売奨励金などクルマ自体に人気があれば本来不要なものだ。自動車雑誌「オートモーティブ・ニュース」のベストテンには相変わらず日本車が7車種を占め、GMは入っていない。これらの理由から、自動車アナリストでGMを買い推奨する向きはほとんどいない。

 「株価全体が粉飾されている」

 GM再上場の当日、米オバマ大統領はホワイトハウスで記者団に、「納税者のために、政府がGMに対して投資した(500億ドル)以上のものを回収できるだろう」と強気の見通しを述べた。その「回収」が出来るための株価は53ドル。政府ご推奨価格というべきか。「まあ、大統領が言うのだから」と投資家に安心感を与えるための発言といえよう。しかし現実は、とてもこの水準に達するような魅力を持つ株ではないことは、前述の通りだ。

 オバマ政権がGMの将来について「楽観的な発言」を繰り返すのは、当然ながら理由がある。リーマン・ショック後に制定した不良資産買い取りプログラム(TARP)を使った企業救済案件のうち、GMとクライスラーだけが唯一大きな含み損を抱えている。先の中間選挙で歴史的敗北を喫したオバマ政権の、メンツがかかっているのだ。

 米政府によるまやかしは、GM株だけではない。「米国の株価全体が粉飾されている」というショッキングな告発が、今、改めて投資家の間で話題となっている。話は9月27日に遡る。英国の名門証券会社カズノヴのストラテジストが、米CNBCテレビで次のような爆弾発言を行った。その当時から続いていた米株高の理由について、「米連邦準備銀行(連銀)が通貨調整や景気テコ入れを理由に銀行に資金を注入。その資金で銀行は株式をプログラム売買して株価をつり上げているため」と暴露したのである。

 従前から当局が株価下落防止のための組織を作り、住宅資産が大きく目減りした米国民の富を株高によって増やそうとしているとの噂はあったが、関係者の証言で裏付けられたのは珍しい。これは事実だろう。実際、点銀は米国債や不動産担保証券を売買する「恒久公開市場操作(POMO)」を昨年から続けてきたが、8月17日からはNY連銀に専門の取引担当デスクを置くなどして一段と活発化させている。NY連銀のPOMOの取引相手はゴールドマン・サックス、バークレイズ、ドイツ銀行。この3行が株高を人工的に演出しているのである。

 その後、11月2~3日の連邦公開市場委員会(FOMC)で量的金融緩和の第2弾(QEⅡ)が決定し、株高に向けた仕込みは「完了」した。あるヘッジファンドのマネジャーは「住宅価格の下げを埋めるための株高をオバマは狙っており、目標はダウ平均にして1万4000ドル」という裏話を筆者にしてくれた。

 本稿を執筆している11月22日現在、この株高作戦は順調に推移しつつあるようだ。NY株式市場は米連邦準備制度理事会(FRB)資金の大量供給を背景に、ヘッジファンドの大量買いで堅調な相場が続く。このまま進めば本当に、ダウ1万4000ドル、GM株53ドルというシナリオが実現してしまう。

 しかし、米国経済の回復が遅々として進んでいないことは日本の報道でも知られる通り。また、GMにも早くもミソが付いている。典型例が「再生」の象徴とされたシボレー・ボルトだ。当初は純粋なバッテリー駆動の電気自動車で世界最先端という触れ込みだったが、フタを開けてみればガソリンエンジン併用のプラグインハイブリッド車。この間の情報操作は見事だったが、日本車の真似に過ぎない。米政府は苦し紛れに電気自動車と規定しているものの、オバマはやはり「負け馬」を買ってしまったようである。

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