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2011年1月 4日 (火)

中国「金保有1万トン」宣言の衝撃(選択2011年1月号)

 去る11月30日、中国国務院の通貨担当者で国有重点大型企業幹事会の李暁南主席は中国の金保有量1054トンを「3~5年以内に6000トンに、また8~10年以内に1万トンにする」意向を表明した。

 この金の大量購入方針は、金市場はもとより通貨取引市場でも大きな反響があった。1万オンス1460ドルという歴史的高値をつけ、その後も大きくは値下がりしていない。

 もちろん、金への投資は現時点では投機である。1976年1月のIMFの金を通貨として認めないという“金廃貨”の決定がなされ、1980年にオンス875ドルの高値が付いたものの長い間金価格は下降の一途。ついに99年には252ドルまで下落する。

 この金価格下落は主要国の中央銀行の保有金売却が主因。理由は①90年のドル高で「保険」としての金の存在意義が薄れた。②高金利時代に入り金利の付かない金投資が不利になった、ため。

しかし基軸通貨である米ドルが、リーマン・ショックに続く短期金利ゼロ時代に突入し、量的金融緩和や空前の財政赤字もあってドル安は必至。つれて2009年に世界の公的保有の金は2万9600トンを底に、2010年9月末現在3万600トンまで増加した。かつては3万6000トンあったものが6000トン売却され、そこから1000トン、公的保有が増加したことになる。

 どの国が買ったか。2008年末と2010年9月末と比較すると①中国が454トン増の1054トン②ロシアが230トン増の726トン③インドが200トン増の558トン、が目立つ。外貨準備の中で、ドル神話が崩壊、各国中央銀行がどんなときでも価値がゼロにならない金を見直さざるを得ない。

「まだ年間数字は出ていないがIMFやECBなどの売却を吸収して、22年ぶりに中央銀行が売り手から買い手に転換したことは間違いない」と金アナリストは言う。

 というのも11月8日、世界銀行ロバート・ゼーリック総裁は、為替市場を正しい方向に向かわせる指針として「新しい形の金本位制の採用を検討すべき」とする意見を英国フィナンシャル・タイムス紙に寄稿した。

 内容を見ると、単純な金を通貨の裏づけとして持つのでなく、価値基準の指標にする、ということだ。しかし、この機構が金保有の少ない国に、金買いの意欲をかきたてたことは間違いない。

      「10年で1万トン」の意味

 冒頭に述べた中国高官の1万トンと言う目標保有量は、実は「人民元が米ドルに代わって世界の基軸通貨になる」という宣言に他ならない。時期は8年から10年後。

 金の保有の世界トップは米国で、8134トン。かつては2万トン保有していたが、ベトナム戦争などが米国経済を圧迫、米国は金を放出して現在の状況になった。この間、1971年のニクソン大統領の、ドルと金の兌換  停止宣言があったのは、ご存知の通り。

 中国の「1万トン」は米国を通貨面でも抜くという意味に他ならない。

 中国は山東省中心に金鉱山があり、世界最大の産金国で2010年の推定生産量は320トン。現在の1054トンにプラスして、10年間間の生産を年320トンなら10年後に4254トン。残る6000トンは市場からの購入になる。

 では金は価格目標としてどの程度が見込めるのか。6月13日のNYタイムムス紙は「1980年のオンス875ドルをその後のインフレで修正すると2350ドル」として、まだ上値が50%以上あるとした。また「ITブームの時のナスダック,住宅ブームのときの米住宅関連株の上昇は11年間続いたが、金は6月現在で8年半」とした。またウォール・ストリート・ジャーナル紙は「中国が本気で買い出動すれば、金もレアメタル化(希少資源化)してしまうだろう」という業界関係者の言葉を掲載した。

 中国政府自体は、価格上昇の理由に自国がなることを歓迎していない。最近中国人民銀行 鋼副総裁は「急激な市場価格上昇を煽る様なことはしない」と記者会見で述べた。しかし同時に「現在の金保有が外貨準備に占める比重は1%に過ぎない」と今後の購入意欲を表明することも忘れていない。

 大切なのは「2010年に人民元がドルに代わると基軸通貨になる」という目標があることだ。

 基軸通貨の役割は三つ。まず建値通貨で、たとえば金でも原油でもドル表示。次が決済通貨で各国同士の貿易取引は最終的には銀行間の決済になる。この市場は24時間動いており、何らかの事情で資金が不足したときには中央銀行が融資する。ちなみに現在世界でただひとつBA(バンカーズ・アクセプタンス)市場があって決済が行われるのはニューヨークで、NY連銀が責任を持っている。ユーロにはこれがない。

 そして第三には準備通貨で、これはそれぞれの国の貿易取引に応じてドル、ユーロ、円などを保有する。

 この基軸通貨の役割を人民元が達成するには、たとえば国債資本市場において人民元建てで資金調達できるとか、貿易に加え投資でも人民元が使えることで為替リスクとコストを減らせるように完全な自由化が必要になる。

 中国には日本円の国際化を研究して、基軸通貨に到達するため三つの段階が必要、とする研究資料がある。

 それによると①国境を接する周辺国での用途を限定した国際化②貿易と投融資に人民元通貨圏を形成③完全な国際化が達成され資本取引の自由化と自由な兌換   性が実現し、国際決済通貨であり国際準備通貨として米ドルにとって代わる。現在はこの②の入り口で、上海にBA市場が開かれる予定だが時期は明確でない。しかし、この第三段階が現在から10年後、という目標が決まっていることは現実である。

 人民元の基軸通貨作戦は2010年後半に加速化している。人民網モバイルニュースによると銀行間市場公益商協会の時文朝秘書長は「次の段階では国内の人民元市場の対外開放を加速化してゆく。外国機関による国内の人民元建て債券(パンダ債)の発行範囲を拡大する」と述べた。

 現時点では世銀とアジア開発銀行による起債が銀行間市場で行われているだけで、発行量も小さい。しかし今後は信用格付けが高くない外国事業会社にも開放される。従来のペースからこの開放は2013年のはずだった。

 また11月から中国はロシアのルーブルと人民元の取引を開始した。これまで中国の外為市場では米ドル、香港ドル、円、ユーロ、英ポンド、マレーシア・リンギットの6通貨だったが、これにルーブルが加わった。同時に中国は香港で人民元建て国債を発行する計画を発表した。また中国とロシアの取引は米ドルで決済されているが、これを人民元とルーブル決済に切り替える。計画は着々とベースをはやめている。

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