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2011年3月 8日 (火)

雲散霧消しかねないユーロ圏(「選択2011年3月号)

この稿を書いている2月下旬現在、市場では国債入札が順調に行われ、危機感後退。ユーロの対ドル、対円レートは上昇、欧州財政問題はもう大丈夫―という声すらある。

 飛んでもない。現在はいわば春の嵐の前の一時的な小春日和で、問題はこれからだ。

 ごく一例。アイルランドは本号が刊行されるころには総選挙が終了、政権交代となっていようが、公的債務を返済すべく中央銀行は四半期のGDP予測を前期の2.3%から今期1%に下方修正、つれて財政削減幅も前期予測の倍の60億ユーロとした。あまりにも厳しい緊縮政策に、アイルランド国民も悲鳴を上げ始めた。

 表面上国債は消化できているが、調達金利は9%と、持続的に返済可能な 水準ではないことは明らかだ。

 そこで国家としての選択は①昨年11月決定のIMF,EU,EFSF(欧州金融安定機構)の援助を受けながら、時間をかけて返済に努力する②債務リストラ(デフォルトと同意)の2案あり、三分の一の債務削減で負担を軽減すべし、の2案が浮上、新政権が②を採択する可能性もいわれ始めた。

 市場が一時的にパニック状態に陥るかもしれないし、欧州の銀行は資本増強が必要になる。

 どうしてそんな乱暴な話が出るのか、それはアイルランドの銀行の発行している銀行債の元本削減(ヘアカットと呼ばれる)があるからだ。

 日本は銀行の資金調達は個人を中心とした預金だが、欧州では銀行債が普通だ。

 銀行債は元利金支払いが優先的に受けられる優先債と支払い順位が後の劣後債とがあり、これまでは劣後債が元本7割減という負担を受けさせられてきた。しかし最近「優先債にも」元本削減して負担させるべきだという声が高まっている。まあアイルランド国民としては、痛みを共有してほしい、というのは当然だろう。

 こうして3月のアイルランド危機は必至という情勢になりつつある。

 どうしてアイルランドをここまで書いたかというと、同じ財政危機でも放漫財政の典型のギリシャとまったく状況が異なり、ポルトガルやスペイン、場合によってはイタリアまで銀行危機が波及しかねないためだ。

 アイルランド危機は住宅バブルだ。ユーロ参加のメリットを生かしてアイルランドの銀行は欧州の各国から資金を借りまくり、10年間で不動産価格は4.5倍。ところがリーマン・ショックで資金調達が不可能になり、アイルランド政府の財政赤字対GDP比32%のうち20%を銀行の損失を埋める増資資金に充当した。

 それでもアイルランドの国内銀行の総資産はGDPの4倍という途方もない規模になっている。その劣化は止まらず、まだ底が見えない。

      遅れている欧州の行動

 「要するに、米FRBのあのリーマン・ショックを救済できなかった状況と同じです」とロンドンに在住の国際金融のある専門家は言う。

 米FRBはサブプライム危機に対し、「流動性危機」への対応というルールに立っていた。ところが2008年9月15日のリーマン経営危機は「ソルベンシー危機」で取り付け問題だった。そこで救済できなかった埋め合わせにTARPを作った。 ところが昨年5月に作られたETFSは基本的には繋ぎ資金を供給する流動性危機対応型の仕組みに過ぎない。昨年末独メルケル首相が「ヘアカット」について言及したのは、ある意味で当然だった、といえる。「欧州の政治家で最初に本当のことを述べた」と前記の金融専門家は高く評価している。

 「それでも、問題の緊急性から見て、2013年の新発国債から」というのは遅すぎる。現時点で一刻も早く既 発の国債にもヘアカット(債務減免)を実施してBIGPISなど周辺国経済の債務リストラを実施しなければ、周辺国の経済が立ち行かなくなります。」

 アイルランド救済は、その後ポルトガル、スペイン、ベルギーなどの国債金利が跳ね上がったという意味で、ギリシャ危機以上の大失敗だったと同専門家は断言した。

 では、今後どうなるか。

 ギリシャでもアイルランドでお政府が負っている債務は「対外債務」なので、ソブリン問題の解決には大幅な貿易黒字が必要。しかし、ユーロ圏の国である限り、自国通貨安で貿易を有利に行うことは出来ない。

 となると「かつては独逸のユーロ離脱というシナリオが議論されたが、いまはBIGPISの離脱の方がより説得力が強い。」とある米系ヘッジファンドのマネジャーは言う。

 その離脱の前提として、次の三つの2011年の問題がある。第一はユーロ安のおかげで現在では輸出主導のドイツ経済の好調が続いている。しかし、ドイツの輸出の5割はユーロ圏向けなので、危機がスペインやイタリアまで及べば景気減速は避けられない。しかも欧州諸国は2011年から一斉に財政の大幅引き締めを実施する。

 第二の理由はユーロ圏銀行のソブリン債保有額は巨大でヘアカットと債務リストラが不可避になった場合の損失は大きいが、そり上に国債の売買市場が縮小して資金繰りがつかなくなった場合の影響が大きい。

 また第三に2011年はユーロ発足以来最大額の国債借り換えの必要性に迫られている。

 PIIGSプラスベルギーでBIGPISは賃金と物価を下げれば下げるほど債務負担は重くなってくる。

 そこで本来なら、財政収支の赤字を回復させてから始めて債務リストラ(デフォールト)を発表するのだが、その前に「ユーロを離脱して自国の通貨を復活させ、ユーロ建てのソブリン債はデフォールト、そしてその発表以降の国債の消化は中央銀行の直接引き受け」という、1930年代のナチが実行した政策が実行されるー。

 以上が大手米系ヘッジファンドの予想するシナリオである。このマネジャーは昨年秋から継続してアイルランド国債を売っていた。QEⅡの発動が確実になった10月末ごろから、アイルランドのほかスペイン、ポルトガルなどの国債のCDS(債券破綻保険)を大量に売った。これはギリシャのときの手口と同じである。

 11月10日にアイルランドで銀行倒産が起きたのを気にロンドンの債券市場のクリアネットはアイルランド国債の先物の預託証拠金を15%引き上げた。買い支えようとしていた欧州中央銀行は買い出動効果が著しく減殺された。これで危機は決定的となった。

 問題は、景気が良いドイツでさえ、将来のユーロ圏への不安感を持っていることだろう。

 昨年12月26日ドイツ紙ビルトは世論調査を発表、ドイツ国民の49%がマルク復活を支持しておりユーロ存続支持は41%、ユーロの将来に懸念している国民の比率は67%に及んだ。破局への予感はドイツでも拡まっている。

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