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2011年5月26日 (木)

映画「アウェイク」と復旧・復興・成長(第558回)

 医療サスペンス・スリラーで、まことにユニークな佳作。只今ヒット中だ。

 1年で2100万人の患者が手術のため全身麻酔を受けるが、運の悪い3万人は「術中覚醒」になる。眠っているように見えるが意識や感覚ははっきりしており、想像を絶する苦痛から逃れられない。悲鳴を出そうにも声に出ない。

 主人公の若い億万長者の悩みは二つ。秘書サムとの身分違いの恋を母親が認めてくれないこと、それに生きるために心臓移植手術を受けなければならないこと。漸くドナーを得て手術を開始するが、そこでは飛んでもない陰謀が企まれていた。そして意外や意外の展開。

 今回の題は25日の日銀白川総裁の講演「大震災後の日本経済―復旧・復興・成長」からお借りした。講演そのものは国債の日銀引き受けを峻拒するのがポイントで、あまり前途に希望を持たすものではなかった。

 あの大震災から2ヵ月半。ようやく私には大震災で日本経済が真に取り組まなければならない問題が見えてきた。

 大切なことは、大方のエコノミストやシンクタンクの今後の予想が織り込んでいる前提が、恐らく間違っていることだ。

 第一。「6から9ヶ月もすれば、サプライチェーンの修復、電力不足の危険性のピーク越えで供給不足は終了する」。これはまだとってもそんな楽観的な立場に立てない。外国の日本部品のユーザーがたとえば韓国や台湾の商品に乗りかえる可能性は大きい。

 第二が復興需要への過度な期待。今回の震災被害地は国内で最も過疎で高齢化が進んだ地域で、再建資金を持つ個人や企業はごくごく限られている。応急措置の単純な復旧に限られ、経済効果は小さい。

 第三に企業が今後も日本に残るという思い込み、法人税の減税期待はどこかに吹っ飛んで、TPPも怪しくなっている。それなら関税面で有利、為替レートも常に安い韓国に行った方を自分の会社の生き残り戦略として考えない経営者はいないだろう。

 第四が政治面での混乱の軽視だ。無能で人気取りと保身しか考えない政権の迷走は、対東電原発処理の例を見ても良くわかる。しかも菅おろしの後、誰が後継者となるかわからない。かわっても、復興後の成長シナリオが打ち出せるのか、どうか。

 第五が「国民は復興のためなら負担増を甘受するだろう」という勝手な思い込みからの増税方針で、これは意図して軽視されている。

 結論。今年から来年にかけて短期的な回復はあるだろうがいずれ「日本復興」ではない。新しい成長が見えてこない以上、「復旧」は落としたボールのリバウンドに止まる。私は当分、弱気だ。

 映画の中では口惜しさと痛みで、声も出せず身体も動かせない主人公は涙を流す。かつてのTV「ヒッチコック劇場」でジョセフ・コットンが涙を流す。死体扱いされても自分が生きていることを他人に伝えられない恐怖を描いた。あれのパクリだろう。今回、国民は政治の迷走で心の中で涙を流しているのではないか。

2011年5月19日 (木)

映画「チャイナ・シンドローム」と福島第一原発(第557回)

 映画「チャイナ・シンドローム」は1979年3月16日公開、わずか12日後にペンシルバニア州スリーマイル島原発で事故。そのせいで大ヒットしたが、作品も立派な出来で、同年のアカデミー賞で4部門にノミネートされた。

 題の意味は原子炉の炉心でメルトダウンが発生したら、地球の反対側の中国まで溶けて突き抜けていってしまうーという科学者のジョークから。これでシンドローム〈症候群〉ということばが定着した。

 舞台はカリフォルニアの地方TV局。女性リポーターのキンバリー(ジェーン・フォンダ)は原発のドキュメンタリーの取材に。所内見学の最中に何らかのトラブルが発生、そこは撮影禁止の場所だったがカメラマン(マイケル・ダグラス)は密かに記録。これを原発の専門家に見せると重大は事故の寸前だった筈と。会社側はひたすら隠す。

 現場の管理者ゴデル(ジャック・レモン)は原子炉の生産者のずさんな工事に問題があることに気付くが、利益優先の経営者は問題化を恐れる、新しい原発の認可が近いためだ。

 311から2ヶ月。もう国民は1号、2号、3号炉がメルトダウンしていたことを知っている。 圧力容器の内部の推移が下がって燃料棒がカラだき状態になり、落下した燃料が高熱を発して圧力容器に穴を開けている。核反応を起こす「再臨界」には至っていないが、第一号機を水で冷却する方法はもう採用できない。高い濃度の汚染水が海洋に流出するか土壌汚染が拡大しているか、最悪の場合、その両方になる。

 原発問題の収束はまだまだ何年か先になること確実。その間に、東北地方だけでなく、首都圏を含めた意外な地域、海域に放射能汚染が拡大。「なわいそうな震災の被害者」が一転して「世界に放射能汚染をバラまく無神経は加害者」に日本のイメージが変わってしまうかも。私にはそれが怖い。 

日本のイメージダウンを引き起こしたのは、政府と原子力学者だろう。

 危険を過小に見せようとする政府、いわゆる専門家の「安全です」といい続けたウソ。国民の信頼はトコトン失われた。

 経済見通しのほうも、ガラリと変わってしまった。あっという間に全財産を失った実例を見ているのだから消費者心理が悪化するのは当然。16日発表の内閣府の4月の消費者態度指数は前月比マイナス5・5ポイント。

 3月に大震災の影響で、前月比マイナス2・6でこれは過去最大だったが、その下落幅をさらに上回った。私は大方のエコノミストが主張している「V字型回復シナリオ」を信じることは出来ない。しかも官内閣は8月に決定する第二次補正予算作成時に増税を決める方針。

「日本離れ」と「増税」の組み合わせは、株式市場には最悪だ。

 私はこの311の前は財政再建は大切と考えていた。しかしデフレと円高を招く増税はこのタイミングでやってはいけない。日本の危機にダメ首相を抱え、しかも後継者が見えてこないのが私を弱気にさせている。

 映画のセリフから。女性キャスターは現場の監督者ゴデルに訪問時の事故の真相を聞こうとする。「大衆は実際は危険にさらされていたんですか?」「いや原発はいかなる事故にも対応済みです。あらゆる事態にシステムが働いて事故になりません。」現場監督を演じた名優ジャック・レモンは決まり文句を言いながら表情で、実はウソだいと告白している。

2011年5月16日 (月)

映画「アンノウン」とQEⅡの終了と株、商品〈第556回)

 全米初登場ナンバー・ワンとなったアクション・サスペンス映画。主演は「96時間」でやはり見事なアクションを披露したリーアム・リーソン。

 植物学者のマーティンと妻のリズは冬のベルリン空港に降り立つ。学会出席のためホテルに到着したところで、空港に大事なアタッシュケースを忘れたことを思い出す。飛び乗ったタクシーが事故に巻き込まれ川に転落。マーティンは気を失ったまま病院で4日間眠り続ける。

 目が覚めたマーティンは空港に到着したあたりは記憶にあるが、あとは空白。漸く思い出してホテルに駆けつけ妻に声をかけると「どなたですか?」と意外な言葉。しかもそのわきにいる自称「夫」は自分の名のパスポートを持ち、妻と新婚旅行でとった写真と同じものを持っている。ポーズも笑顔も同じだが、自分でなく、その男と。オレは誰なんだ?

 富国生命の市岡繁男さんが重要な情報をご注進してくれた。米FRBが昨年11月から実施している量的金融緩和政策QEⅡが、予算ワク6000億ドルを期限の6月末に先立って5月4日にほとんど使い切った。つれて5月5日から、米FRBの供給する通貨(マネタリーベース)が急減を始めた。

 マネタリーベースに連動している市場はずい分と多い。株式、原油あたりがその代表だ。ちょうどマーティンが自己を証明するもの(パスポートや免許証など)が全くなくて「支えがなくなった」と感じたように。

 前回のQEⅡでは2009年3月6日から2010年4月までの緩和期には上昇していた米国株と原油価格は、8月まで下落を続けた。

 今回は原油、銀、それにインド株など途上国株も5月早々から下落に転じた。米国株はあと3,4ヶ月で下がり始めよう。私はこれを「エコノミスト」誌1月25日号で指摘したが、恐らく87年型のトリプル安の形をとるに違いない。

 市場の噂だが、ジョージ・ソロス氏が金・銀を売却した。金はETFの形で14トンしか保有していないので、まあ大したことはないが、流石に動きが早い。とりあえずドルキャリー取引による金買いをまき戻しで、影響は円高、ユーロ高に出ている。

 金については心配いらない。米国株、途上国株、原油、銅などQEⅡが始まった2009年3月に比べると、3~4倍上昇したが、金は2倍いかない。

 IMFの調べだが、1~3月期にメキシコ中銀が100トン、タイ中銀は9トン、ロシア中銀も18トン購入した。またオンス1500ドル割れではインドで祭礼需要とも重なって記録的な金現物買いが入っている模様。

 銀の3割以上の下落の方は心配いらない。主因が商品取引所CME。証拠金引き上げで実に連続5回も実施された。これで主に個人投資家が強制的に投売りさせられた。金と銀では支えが違う。私は金に対しては強気だ。

 先週このブログで私は日本の今後への不安を書き、今週から少しは明るいことを書くと述べた。

 しかしー。日産自動車のNYのタクシー受注ぐらいしか、いいことは見当たらなかった。その宿題は少々先に。

 映画のセリフから。マーティンが言う。「自分が自分であることを証明するものを持っていないんだ。」これまでは株も商品も、たっぷりあった。マネーが上げる証明だった。これがなくなった。

2011年5月12日 (木)

映画「ブラック・スワン」とV字型回復説への疑問〈第555回)

 「ブラック・スワン」は第83回のアカデミー賞で、作品、監督など4賞にノミネートされ、ナタリー・ポートマンが主演女優賞を獲得した秀作。ヒット中だ。

 バレエの世界を舞台にした映画というと、あの「赤い靴」を思い出すが、この作品は心理的スリラーでもあり、超一流の才能を持つ美少女の成長過程をリアルに描いたドラマでも。見応えのある作品。監督ダレン・アロノフスキー。

 NYのダンサーのニナは次回の「白鳥の湖」で主役に抜擢されるが、過保護に育てられてまじめなニナは、白鳥役は完璧に踊れるが、魔性のシンボルの黒鳥を表現し切れない。

 才能に期待する芸術監督には厳しく追い込まれ、挫折した元ダンサーの母親も口うるさい。ライバルの奔放なリリーからは突き上げを食らい、徐々に二ナの精神は異常を来たして、現実と妄想の区別がつかなくなってゆく。

 3月11日の大震災から2ヶ月。経済企画協会による43のシンクタンクの経済見通しの平均値は、1~3月期のGDPは前期比率マイナス1・94%で、4-6月期は同マイナス4・54%。これが底で7~9月期1・88%、10~12月期4・59%のともにプラス。(4月12日発表)。

 要するにV字型回復だ。

 ホントにそうなら嬉しいね、という歌があったが、どうしても私には信じがたい。ニナの幻想みたいなものかもしれないとさえ思う。ボールを落として反動で弾むぐらいはあるだろうが。

 私の弱気理由は三つ。第一。3月はたった10日間の震災の影響でも鉱工業生産は15%もダウンし、消費も8%以上の低下で、ともに史上空前の落ち込みだ。その後の街角の景気の寂れようから見て、あと2ヶ月つまり6月でプラス成長に戻るかどうか。自粛の影響は残る。

 第二は電力不足。今度の浜岡原発だけでない。各地方自治体の首長が修理や点検中の原発の運転再開を認めないとすると、コトは容易でない。

 そして第三が、私が最も恐れている「日本外し」だ。

 日本のハイテクによる半導体や電子部品、自動車部品が震災で内外ともに供給が止まってしまった。これをチャンスとばかり、中国や韓国、台湾が狙う。

 5月10日付朝鮮日報は「世界的なスマートフォンの米国、カナダの調達担当者が日本から韓国に転換中」と報じている。一たん市場を失ったら、回復は困難だ。

 たしかに経産省の実態調査では70工場のうち64%がすでに復旧し、7月ごろには90%が復旧する。また「そう簡単においつかれない」という現場の自信も聞こえてくる。

 しかし「また地震やツナミが来て日本のサプライチェーンが打撃を受けたら」と世界のメーカーは考えるに違いない。日本のシェアは下がる可能性大と思う。

 内需がダメ、輸出も回復しなければ、V字型の回復は、ない。私の心配は老爺心(老婆ではなく)だろうか。

 17555年、ポルトガルの首都リスボンにM8・7の大地震と津波が襲った。世界第2位の経済大国でスペインと世界を分けていた大国は6万人が死亡し、リスボン湾が機能不全に陥りGDPの半分が失われ、英国に遅れを取って没落の途を辿った。イヤな前例だが。

 私は証券会社にいたから、一たん天井をつけた株式相場が下げに転じると「もうヤメてくれえ」といいたくなる位、次から次へと悪いことが起きてくるものだと知っている。国の勢いもこれに似ているのかもしれない。これが間違いなら嬉しいが。

 映画のセリフから。芸術監督がニナに言う。「君の前途に立ちふさがっている人物がいる。君自身だ。」早いサプライチェーンの復活を切に願う。

 〈注)ここまで書いた分を読み返してみて、うーん、オレにしては弱気すぎると思った。強気の見方も、勿論、ないわけじゃない。それは次回以降で。

2011年5月 9日 (月)

映画「100,000年後の安全」と電力不足の日本の今後〈第554回)

 只今大ヒット中のフィンランド映画。原発で使用したウラン燃料の貯蔵場所を世界で初めて建設を開始したが、そのドキュメンタリーだ。

 原発から排出される廃棄物、寿命の尽きた原子炉などは放射能を持っている。無害になる時間をこの映画では10万年としており、ヘルシンキの西の島はオンカロ(隠れた場所)という貯蔵所を建設中だ。地下500メートル。

 6万年ごとに地球は大氷河期に入り、そこで記録は途絶えてしまう。

 それでも何とかして10万年後の人類に「ここにある放射能が危険だ」ということを理解させたい。オンカロ関係者は苦悩する。

 ムンクのあの有名は「叫び」を入り口につけておいたらーというような珍案も。

 今の世界では30カ国、435基の原発が稼働中で、日本は米、仏に次ぐ54基。世界の廃棄物は25万トンといわれているが、まだ完全貯蔵所はない。

 人類の祖先ネアンデルタール人の時代から現在までで1万年。10万年という遠い未来は想像を絶する。

 フィンランドでは原発に賛成であれ反対であれ「すでに発生している廃棄物の問題を処理しない限り、将来の世代に危険を与える」とし、徹底した情報公開を推進している。原子力発電に積極的で三分の一を依存し、現在5基目の原発を建設中。

 では、日本はどうだろうか。

 もう311から2ヶ月。しかもまだ原発敷地から高濃度の放射能が出ているが、その事実は公表されていない。あのチェルノブイリでさえ放射能発散期間の10日だったのに。

 それはプルトニウムを使用している3号機の圧力容器内での(燃料棒が)水あめのような状態で引っかかっている(4月20日東京電力会見)」ためだ。秘密主義が原発への不信感を高める。

 福島原発の操業停止を含めて、今回の中部電力浜岡、それに反原発派の知事による原発稼動の不承認が出てきた。この不信感のあらわれだ。

 たとえば西川福井県知事。同県には13基の原子炉があり、常時8-9基が稼動して関西2府4件の電力の55%をまかなっている。

 同県知事は、このまま原発の安全基準がしっかり示されない場合、福井県としては稼動を認めない。そこで「今夏関西電力の供給は半減する可能性がある。」

 東電の計画停電を見て、関西に工場や事務所をうつす動きが見られたところに、この発言。経営者には国外移転を考え始めた向きもあろう。

 1キロワット時当たりのコストから考えると電力会社の経営はこの事態で悪化しよう。

 いまもてはやされている太陽光は42円、風力は14円で水力は13円(渇水期には供給ゼロ)。

 これに対し火力7円、原子力は6円に過ぎない。

 だからこそ原発が推進されてきたわけだが、その原発による電力供給が思うようにゆかないとすると、今広く行われている「V字型回復説」は、残念ながら恐らく、当たらないだろう。

 それに中長期の日本の成長力にも制約が残る。

 地震、放射能汚染リスク、円高、少子高齢化ーー。それに電力不足と増税リスクが加わった。こう来るといくら強気の私でも、ここ当分、明るい見通しは立てにくい。海洋開発の方も、地震学の方の理論構成が大変化を起こしつつあり、地震リスクはぐんと高まっているからだ。

 映画の中で、オンガロの経営者が言う。「ここの建設は一言で言うと、不確実性の下での意志決定です。」いまの不確実性は、風で言うと、すべてアゲインスト(逆風)だ。

2011年5月 3日 (火)

映画「エアフォース・ワン」とビン・ラディン殺害とオバマ再選〈第553回)

 1997年、ハリソン・フォード若かりしころのヒット作。

 米国とロシアの協力でカザフスタンの凶悪な独裁者ラデクが逮捕される。命令を下した米マーシャル大統領はモスクワで「テロには決して屈しない」と宣言し、大統領専用機エアフォース・ワンで帰途に着く。

 しかし機内にはロシアのTVクルーを装った6人のテロリストが潜入している。テロのリーダーのコルシュノフは大統領の家族や側近を人質にとりラデク釈放を要求する。苦悩する米国政府首脳。その中で辛くも難を逃れた大統領は単身、テログループに戦いを挑む。

 5月1日深夜、オバマ大統領はオサマ・ビンラディンの殺害を発表した。しめくくりは「正義は行われた。」

 あの911の仇討ちができた、と喜ぶ主に若い人々の姿をTVは報じている。米国人は「戦勝」が大好き。「USA」と絶叫するのを見てマッチョだとかカウボーイ文化と笑う向きもあろう。またあの911はアルカイダ側から見れば自己チューで勝手に変わる米国の外交方針のせいだ、というだろう。

 しかし政治的な大イベントとしては意味は重大である。

 このところのオバマ大統領は不人気で、利にさといヘッジファンドのマネジャーたちはどんどん共和党支持にクラ替えしていたほどだ。

 しかし、オバマ支持者だけでなく保守派もこの10年の反テロ戦争がひとまず終わったことを評価せざるを得ない。当然オバマ支持率は上がるに違いない。

 また来る9月には911の10周年追悼行事が行われるが、オバマ大統領の主役を演じる。

 オバマにとっては好材料は多い。まず7月に予定されていたアフガンからの米軍撤退を勝利宣言とともに実現できる。また軍事予算の削減をしやすくなった。財政赤字問題で追い詰められていたのだが、救いが出た。

 またカダフィー追い詰め、辞任又は亡命の作戦も共和党が言う「反政府はアルカイダ」という批判をかわせるし、イエメンやシリアでもオバマは安心して民主主義支持を訴えられる。

 作家の冷泉彰彦さんは、米国の対中国戦略の変化を予測している。

 これは両面作戦で、中国がアフガンの秩序形成に協力すれば鉱山収益などをエサに「善玉」として協力してもらう。逆にアフガンを足場にウィグルを含めた中央アジアに進出する野心を示すならば、悪玉として国際社会に認識させる。

 恐らくクリントン国務長官が考えている戦略を、以上のように冷泉さんは述べている(from911/usaレポート512回)。

 米国内ではオバマ再選の可能性が高まり、共和党の実務をよく知る実力派候補が予備選に出てくるだろう。また日本はアルカイダの報復がなければグッドニュースだし、中国の膨張圧力が西へ向かえばこれも日本にとって助かる。

 株式には勿論、ドルもこれで上がるだろう。いい材料が出たと思う。勿論短期で、だが。

 映画のセリフから。独裁者逮捕が遅れてその間に被害者が多く出たことを悔やんで大統領は言う。「これからは米国の平和より正義の遂行を重視する。〈テロリスト達よ)恐れるのは、お前達だ。」平和を重視してもらいたいものだが。

2011年5月 2日 (月)

秋口に米国でトリプル安再来か(「選択」2011年5月号)

「もう、米国の大手資産運用会社と銀行で秋のトリプル安を検討しないところはない。とくに日本の大震災の直後から、どこもこれ以上ないくらい真剣になった。」ニューヨークで筆者が聞いた話だ。

 非常事態が迫ったらどうするか。米国国債の手持ちはどこも減らしつつあるものの、あまりに長期金利が上昇(債券価格は下落)すると、自分で自分の首を絞めかねない。

 債券のリスクヘッジのため、誰もが考えるのが貴金属。米国機関投資家とくにヘッジファンドは金、個人の富裕層と銀行は銀を買っている。

 まず金。この原稿を書いている4月下旬現在オンス1500ドルに迫る史上最高値を更新中だ。しかも、先物や金ETFなどの買いを現物の金地金を切り換えて、将来の現物不足に備える作戦が流行し始めた。

 全米第2位の大学基金テキサス基金がその第1号で投資管理会社ヘイマン・キャピタルのJ・カイル・バス氏。同氏はサブプライムのブーム破綻を予見した売りで大もうけした著名人だ。このほど10億ドルの金投資を地金の保有に切り換えた。「金は増刷の出来ない貴重な紙幣で、ペーパーマネーと違う」と同氏は言う。

 一方、銀も1980年についた史上最高値オンス50・35ドルに迫りつつある。半年で2倍を超える上昇率。金との相対比価で30倍台はまだ安いと見る向きが多い。

 ただし、金、銀を合わせても債券、株式市場の時価総額の1%にも満たない。債券も株式の先物市場で売りヘッジしたくても、これまた市場は小さい。「だから、いくら非常事態になっても現実には解決は困難なんだ」と前記した資産運用業界のベテランはこぼす。

 では、どうして東北大震災と米国のトリプル安と結びつくのか。

 「だって、もう日銀は米国債を買えないだろう」。つまり、昨年10~12月でも米国国債の購入の63%は米国FRB自身で、残るほぼ40%の半分は英イングランド銀行と日銀だった。(中国は2月から売却)。それが今後買ってくれないとなると、金利上昇は必至になる。目先何ヶ月かは何とかFRBの金融緩和第2弾(QEⅡ)で補うにしても、このQEⅡは6月末で終わってしまう。

 では、QEⅡを延長して「QEⅢ」をやったらと誰もが思う。

 しかし、米国政界に押し寄せているティー・パーティ勢力に色目を使う共和党議員が、米国政府の債務の上限を引き上げることに反対で、夏か秋には米国国債を無理やりデフォルト〈債務不履行〉させるとオバマ政権を脅迫している。「ワシントンではよく使われるオドシ文句。信用することはない」と英フィナンシャル・タイムス紙(4月15日)はいうが、QEⅡが簡単にゆかないことは事実だ。

 現にごく最近、民主、共和両党の争いがこじれた挙句、政府の予算切れで業務ストップ寸前まで行った。市場では「QEⅡでなくQE2・5」つまり現在の6000億ドルからスケール・ダウンするがFRBの米国国債買いを継続するというシナリオが主流。

 しかしFRBの参加メンバーの中にQEⅢに絶対反対のノロシを揚げている理事が5人もいる。投票権を持つ理事は12人なのでまだ多数派は賛成だが、バーナンキ議長としては無視できない数だ。   

      まだ「住宅」が問題

「結局、米国の景気そのものがいわば張りボテの虎みたいなもので、中はスカスカ」と私に話してくれたのは駐米7年の邦銀エコノミスト。理由はやはり住宅だという。

1年間の販売戸数が800万戸あった国が最近月の2月には年換算536万戸。しかも販売価格は前月比マイナス14%、前年同月比マイナス9%で不振。

「また全米20都市の住宅価格指数ケース・シラー指数は安値更新、それも4ヶ月連続ダウンです。」まだサブプライムの打撃から米国経済は回復していない。シラー教授と最近話したが、年内15~20%下落するリスクが相当大きいと慎重でした。」 「そこで住宅によるマイナスの資産効果をカバーするためには、株価を上げているんです。」

 同エコノミストによると、米FRBは保有している住宅ローン担保証券(HBS)が満期になるとその償還金をゴールドマン・サックスなど大手業者に資金を回している。業者は株式市場でS&Pの先物を買いあがって株高を演出している。目標値は1万4000ドル近辺においているとも言う。

 ちなみにFRB資金による株買いは、別に違法ではない。1087年のブラック・マンデーの株価大暴落の後に大統領行政命令で創設された「金融市場作業チーム」が行っているメンバーは財務長官、FRB議長、民間金融機関代表〈複数〉だ。

この「つくられた株高」でうるおうのは高額所得者。ブッシュ減税もあり「それじゃあ自動車でも買うか」となる。現在の米国の景気指標が良いのは、大体この「でも」景気である。

 FRBの動きと株価とは、グラフで示せないのが残念だがピタリと一致している。2008年のリーマン・ショック後、FRBは住宅ローン担保証券(HBS)を大量に購入し、FRBの資産は9000億ドルから2兆ドルに膨張した。つれて株価は回復した。

 ところが2010年4月にSB購入を止めたら株価は急落。1万1400ドル近辺から1万ドル割れまで下がった。

 そこでFRBバーナンキ議長は8月に「11月から2011年6月までの間6000億ドルの米国債購入を行う」と表明した。これがQEⅡであり、株価は反発、今年にないって戻る高値を更新している。

 株価の上昇は債券から株式への資金シフトも支えいなった。リーマン・ショック以降、ともかく安全な米国国債へ機関投資家の資金は向かい、米国債利回りは2・04%に下落(債券価格は上昇)した。

この行過ぎた低金利の反動と、前記した高所特捜の浪費による景気指標の好転もあり、国債金利は3・4~5%まで上昇し、株への資金シフトは続いている。

しかし米国最大の債権ファンドPYMCOの担当者ビル・グロス氏が言うように「4%台になれば株価へのシフトも止まり、債券との比較で株買いの足は止まる。そこで、株安、債券安

(金利上昇)、ドル安のトリプル安が、発生するーという恐怖シナリオが生まれる。

 一説にはオバマ政権の反ウオール街的な姿勢に反発している業者が、年末あたりから明年の大統領選挙の前哨戦があるのにブッけて仕掛ける「反オバマ・ショック」という、声もある。

 しかし1987年10月19日のダウ平均508ドル、22・6%の暴落が世界的連鎖反応を起こした記憶はいまだ生々しい。今回は前回よりもグローバル経済であるだけに株価急落は世界不況につながる可能性もある。次のツナミはウオール街から、となるかもしれない。

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