今井澂プロフィール

講演・出演など

お問合せ


« 映画「ダイ・ハード」とQEⅡと金価格・株〈第552回) | トップページ | 映画「エアフォース・ワン」とビン・ラディン殺害とオバマ再選〈第553回) »

2011年5月 2日 (月)

秋口に米国でトリプル安再来か(「選択」2011年5月号)

「もう、米国の大手資産運用会社と銀行で秋のトリプル安を検討しないところはない。とくに日本の大震災の直後から、どこもこれ以上ないくらい真剣になった。」ニューヨークで筆者が聞いた話だ。

 非常事態が迫ったらどうするか。米国国債の手持ちはどこも減らしつつあるものの、あまりに長期金利が上昇(債券価格は下落)すると、自分で自分の首を絞めかねない。

 債券のリスクヘッジのため、誰もが考えるのが貴金属。米国機関投資家とくにヘッジファンドは金、個人の富裕層と銀行は銀を買っている。

 まず金。この原稿を書いている4月下旬現在オンス1500ドルに迫る史上最高値を更新中だ。しかも、先物や金ETFなどの買いを現物の金地金を切り換えて、将来の現物不足に備える作戦が流行し始めた。

 全米第2位の大学基金テキサス基金がその第1号で投資管理会社ヘイマン・キャピタルのJ・カイル・バス氏。同氏はサブプライムのブーム破綻を予見した売りで大もうけした著名人だ。このほど10億ドルの金投資を地金の保有に切り換えた。「金は増刷の出来ない貴重な紙幣で、ペーパーマネーと違う」と同氏は言う。

 一方、銀も1980年についた史上最高値オンス50・35ドルに迫りつつある。半年で2倍を超える上昇率。金との相対比価で30倍台はまだ安いと見る向きが多い。

 ただし、金、銀を合わせても債券、株式市場の時価総額の1%にも満たない。債券も株式の先物市場で売りヘッジしたくても、これまた市場は小さい。「だから、いくら非常事態になっても現実には解決は困難なんだ」と前記した資産運用業界のベテランはこぼす。

 では、どうして東北大震災と米国のトリプル安と結びつくのか。

 「だって、もう日銀は米国債を買えないだろう」。つまり、昨年10~12月でも米国国債の購入の63%は米国FRB自身で、残るほぼ40%の半分は英イングランド銀行と日銀だった。(中国は2月から売却)。それが今後買ってくれないとなると、金利上昇は必至になる。目先何ヶ月かは何とかFRBの金融緩和第2弾(QEⅡ)で補うにしても、このQEⅡは6月末で終わってしまう。

 では、QEⅡを延長して「QEⅢ」をやったらと誰もが思う。

 しかし、米国政界に押し寄せているティー・パーティ勢力に色目を使う共和党議員が、米国政府の債務の上限を引き上げることに反対で、夏か秋には米国国債を無理やりデフォルト〈債務不履行〉させるとオバマ政権を脅迫している。「ワシントンではよく使われるオドシ文句。信用することはない」と英フィナンシャル・タイムス紙(4月15日)はいうが、QEⅡが簡単にゆかないことは事実だ。

 現にごく最近、民主、共和両党の争いがこじれた挙句、政府の予算切れで業務ストップ寸前まで行った。市場では「QEⅡでなくQE2・5」つまり現在の6000億ドルからスケール・ダウンするがFRBの米国国債買いを継続するというシナリオが主流。

 しかしFRBの参加メンバーの中にQEⅢに絶対反対のノロシを揚げている理事が5人もいる。投票権を持つ理事は12人なのでまだ多数派は賛成だが、バーナンキ議長としては無視できない数だ。   

      まだ「住宅」が問題

「結局、米国の景気そのものがいわば張りボテの虎みたいなもので、中はスカスカ」と私に話してくれたのは駐米7年の邦銀エコノミスト。理由はやはり住宅だという。

1年間の販売戸数が800万戸あった国が最近月の2月には年換算536万戸。しかも販売価格は前月比マイナス14%、前年同月比マイナス9%で不振。

「また全米20都市の住宅価格指数ケース・シラー指数は安値更新、それも4ヶ月連続ダウンです。」まだサブプライムの打撃から米国経済は回復していない。シラー教授と最近話したが、年内15~20%下落するリスクが相当大きいと慎重でした。」 「そこで住宅によるマイナスの資産効果をカバーするためには、株価を上げているんです。」

 同エコノミストによると、米FRBは保有している住宅ローン担保証券(HBS)が満期になるとその償還金をゴールドマン・サックスなど大手業者に資金を回している。業者は株式市場でS&Pの先物を買いあがって株高を演出している。目標値は1万4000ドル近辺においているとも言う。

 ちなみにFRB資金による株買いは、別に違法ではない。1087年のブラック・マンデーの株価大暴落の後に大統領行政命令で創設された「金融市場作業チーム」が行っているメンバーは財務長官、FRB議長、民間金融機関代表〈複数〉だ。

この「つくられた株高」でうるおうのは高額所得者。ブッシュ減税もあり「それじゃあ自動車でも買うか」となる。現在の米国の景気指標が良いのは、大体この「でも」景気である。

 FRBの動きと株価とは、グラフで示せないのが残念だがピタリと一致している。2008年のリーマン・ショック後、FRBは住宅ローン担保証券(HBS)を大量に購入し、FRBの資産は9000億ドルから2兆ドルに膨張した。つれて株価は回復した。

 ところが2010年4月にSB購入を止めたら株価は急落。1万1400ドル近辺から1万ドル割れまで下がった。

 そこでFRBバーナンキ議長は8月に「11月から2011年6月までの間6000億ドルの米国債購入を行う」と表明した。これがQEⅡであり、株価は反発、今年にないって戻る高値を更新している。

 株価の上昇は債券から株式への資金シフトも支えいなった。リーマン・ショック以降、ともかく安全な米国国債へ機関投資家の資金は向かい、米国債利回りは2・04%に下落(債券価格は上昇)した。

この行過ぎた低金利の反動と、前記した高所特捜の浪費による景気指標の好転もあり、国債金利は3・4~5%まで上昇し、株への資金シフトは続いている。

しかし米国最大の債権ファンドPYMCOの担当者ビル・グロス氏が言うように「4%台になれば株価へのシフトも止まり、債券との比較で株買いの足は止まる。そこで、株安、債券安

(金利上昇)、ドル安のトリプル安が、発生するーという恐怖シナリオが生まれる。

 一説にはオバマ政権の反ウオール街的な姿勢に反発している業者が、年末あたりから明年の大統領選挙の前哨戦があるのにブッけて仕掛ける「反オバマ・ショック」という、声もある。

 しかし1987年10月19日のダウ平均508ドル、22・6%の暴落が世界的連鎖反応を起こした記憶はいまだ生々しい。今回は前回よりもグローバル経済であるだけに株価急落は世界不況につながる可能性もある。次のツナミはウオール街から、となるかもしれない。

« 映画「ダイ・ハード」とQEⅡと金価格・株〈第552回) | トップページ | 映画「エアフォース・ワン」とビン・ラディン殺害とオバマ再選〈第553回) »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 映画「ダイ・ハード」とQEⅡと金価格・株〈第552回) | トップページ | 映画「エアフォース・ワン」とビン・ラディン殺害とオバマ再選〈第553回) »