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2011年12月25日 (日)

映画「リアル・スティール」と金正日と金正恩(第601回)

映画「リアル・スティール」と金正日と金正恩(第601回)

 今回は年末最終回。名作路線は今回はやめて、現在ヒット中のものを。トム・クルーズの「ミッション・インポシブル ゴースト・プロトコル」にしようと思ったが、見せ場は多いがナカミは乏しい。そこで「リアル・スティール」を。

 ロボットを使った派手なボクシングが大人気の2020年。元ボクサーのチャーリーはポンコツロボットを操縦してアンダーグラウンドの試合で日銭を稼ぐまづしいダメ男。

 そのチャーリーの前に11年前に捨てた妻の死と、妻に押し付けた息子マックスが現れる。いろいろあってひと夏、この息子を預かることになるが、父子の意識なんてまるでない。

 ところが、この父子が、泥だらけのゴミ捨て場で見つけた旧式ロボットATOMと出会い、旧式ながら最新型にない機能を武器に活躍する。あの「ロッキー]を意識したボクシング映画だが、同時に父子の愛情の生まれる人情物語で、私はジーンときた。ディズニー映画はまことにこの辺はうまい。日本への敬意、愛情も感じる映画だ。

 前回で北朝鮮の独裁者の急死と中国の人民解放軍とのかかわりを書いたら、予想外の反響があった。金正日と金正恩の父子を軸に少々補足しよう。

 昨年金総書記は息子を後継者とすべく、金正恩と妹金敬姫の亭主の張正沢を二人とも国防副委員長とし、張のライバルだった李斉剛は交通事故死だが、たぶん暗殺された。

 張成沢・金敬姫夫婦は金正恩の後見人。その後見人の後見人が中国。直接は中国人民解放軍の瀋陽軍管区だろう。

 金正日は死ぬ前2年間に3回も中国に旅しているが、事情通は「恐らくワイロを持って行って、面倒を見てくれるよう頼んだのだろう。彼はもらうのも好きだが、上げるのも大好きだ。」と。

 瀋陽というと「坂の上の雲」の「奉天」だ。大会戦のあったところ。中国軍部サイドとしては、これまでも北朝鮮の核武装を陰に陽向に援助してきた。あと1,2年で実戦用の小型核弾頭が完成し、ミサイルに装着が達成される見通しが強い。現にネブラスカ州の今年の米韓陸軍の合同演習で、北朝鮮の核保有を前提とした演習を行った。

 中国の人民解放軍の総兵力224万人。予備役50万人で「自力更生」というルールがある。国家予算に頼らず軍が自分で自分の食料や装備を調達しなくてはならない。だから学校や食堂、病院、宿泊施設、工場、牧場、鉱山、出版社などあらゆる企業を持っている。北朝鮮のレアメタルを一手に扱う商社もその一つ。

 したがって国家主席といっても、人民解放軍の掌握は容易ではない。「軍閥」だからだ。

 死んだ金正日が胡錦鋳に「ムスコをよろしく」とたのんでも、現実には瀋陽軍区の上層部に金をばらまかなければどうにもならない。

 その中国軍が望むのは、北朝鮮が先軍思想を維持して、しかも自分のいうことを聞いてくれる政権。香港の新聞はすでに「平壌に人民解放軍が派遣され、金正恩を助けて治安維持に努めている」と未確認情報ながら報じている。だから動乱発生で大量難民だのクーデターだのという観測は全く当たっていない。また韓国の期待する南北合併もあり得ない。

要するに中国の属国だからだ。

 それよりも中国の先軍=毛沢東路線と自由化=鄧小平路線の対立の方が私は心配だ。その対立をアオる形で北鮮がからまなければいいが。

 映画のセリフから。息子の方が契約には小心で「小さく勝って、さっさとこんなところから出てしまおうよ」。中国は手堅く北鮮カードは手放さないのでは。

2011年12月20日 (火)

映画「用心棒」と2012年のリスク(第600回)

映画「用心棒」と2012年のリスク(第600回)

 ヤクザ同士の二つの勢力が対立して血の雨を降らせている上州の宿場町。三船敏郎の演じる浪人三十郎がこのひどい状況を知る。両勢力をけしかけて衝突させ、結局自滅させてしまう。ご存じの巨匠の娯楽作品で、イタリアのマカロニウエスタンの発生源。

 立ち回りのものすごさ、仲代達也の悪役ぶり、そして息もつけないヤクザのリンチからの脱出。ユーモアが随所にあるところがまた、いい。

 映画館内で爆笑したセリフ。

 シンパの居酒場のオヤジが、両方の勢力から雇いたがっている浪人桑畑三十郎に言う。

 「フン、たかが用心棒になるだけじゃねえか」

 「用心棒にもいろいろある。雇った方で、用心したきゃならねえ用心棒だってあらあ。」

 ヤクザの二つの勢力が、お互いに敵意をむき出しにしている間に、実は三十郎という予想もしなかった凄い男にやられてしまう。最後の決闘も、ピストルに対し意外な武器で抑え込む。サプライズだ。

 新年の予想が出そろった。誰もがユーロの危機を最大のものとしてとらえ、米国は景気回復とQEⅢに期待をかけている。また日本は復興予算を重視して外国に比べて相対的にましな成長を見込んでいる。

 私は映画の三十郎サプライズと同じく、あまり注目されていない中国リスクを、今回の北朝鮮の金成日総書記の急死と合わせて重視している。

 拉致被害者のご親族の方々には申し訳ないが、独裁者の死で希望が出た、というのは楽観的すぎると考える。28歳の後継者が、親父が間違っていました、というわけがない。

 今回の死去も、解剖したと報じられている。心筋梗塞で一瞬の間に死んだのが、毒殺と考えられたのではないか。そうでなければ、トップの死体を調べたりしない。

 では今後は。瀋陽にある中国の人民解放軍の系列商社が、北朝鮮の産出するレアメタルすべてを販売している。

 ある事情通に伺うと、実は何社もある軍系商社が、上海から大連に最近移転した。中国経済の苦境を見て自軍の勢力内に事業を置いたのだろう。

 いま中国は欧州の銀行の貸しはがし(BRICS全体もだが)に会っている。最近3か月で2600億ドルもの米国国債を外貨準備の中から売却。中国国内でも貸しはがしが横行している。

 別のソースによると、中国要人たちの海外逃避が多く、その際持ち出す金は何百億ドル以上、とか。夜逃げする経営者も多いし、失業者も激増している。

 大事なことがある。軍人の目からすると、鄧小平路線そのものが、この経済苦境で「失敗」と見られていることだ。その前の軍が大切にされた毛沢東路線に戻したい。

 具合の悪いことに瀋陽軍区には中国の戦闘兵力の7~80%がいる。長距離の国境線を守るためそうした配置になっている。だから北京の文官連中がおさえられる筈がない。まあ日本ならかつての関東軍だ。軍区の独立とか国内の大混乱とか。ともかくロクなことがない。

 聞くところでは米GMなどは米国人社員をどんどん帰国させており、たった12人しかいない。あとは米国の大卒の中国人。一方日本は1万5000人。何か騒動が起きればどう救出するのか。投資した10兆円はどうなってしまうのか。中国リスクは、予想外の展開になるかも。

 映画のセリフから、両勢力が手打ちして平和になるはずが、仲代演じる卯之吉がブチこわす。三十郎が居酒屋でいう。鍋の中で煮えている芋を食べながら、「なあオヤジ、この宿場はまたこの鍋のなかみたいに、グツグツ煮えてきたぜ。」中国経済は何とかうまくいく、という楽観論が多い。しかし、そううまくゆくかどうか。

 NY大のルービニ教授は「2013年以降」と中国経済のハードランディングを予想したが、私が聞いた話は「2012年」!恐ろしや。

 

2011年12月10日 (土)

映画「浮雲」トユーロ危機(第599回)

映画「浮雲」とユーロ危機(第599回)

 成瀬巳喜男監督は黒沢明、小津安二郎、溝口健二と並ぶ日本映画黄金時代の4大監督。その最高傑作がこの「浮雲」だ。1955年の作品で当時の映画賞のほとんどをさらった。主演高峰秀子、森雅之。

 原作は林芙美子。第二次大戦中のベトナムに赴任していた富岡は魅力たっぷりの美男。農林省技官で、本国は物資が乏しくなっていたが、豊かな生活でエリート。日本からタイピストして派遣された幸田ゆき子は、魅力的な富岡には妻があるのを知りながら結ばれる。

 敗戦後帰国した二人はくっついたり離れたり、次第に落ちぶれてゆく。出口のない愛に身を任せながら、最後に落ち着くのは屋久島。雨が毎日毎日降り続くこの島で、ゆき子は死ぬ。

 こう書くとメロドラマだが、すぐれているのは戦後の日本人の絶望と頽廃を鋭くえぐった点や美しい画面。やはり日本映画の代表作だろう。

 映画の中で富岡は最初こそまことにカッコいいが、戦後はやることなすことうまくゆかないのに、離婚せず、ゆき子以外にもすぐ女を作る。森雅之がダメ男をまことに巧みに演じた。

 ひところドルに次ぐ基軸通貨であり、次から次へと参加国を増やしていたユーロだが、今や世界の頭痛のタネ。まるで映画の富岡だ。

 それでも映画ではゆき子は富岡から離れられないが、成瀬監督は男と女のセックスの相性を暗示している。しかし、現実のEUは8日の首脳会議でも英国が基本条約改正に反対、またドイツがユーロ共同債発行に反対するなど、同居しながらケンカしている男女のようだ。

 ご存じのとおりギリシャに始まったこの危機はイタリアに及んだ。一時的だがドイツ国債の入札が不調に終わったり、手元の流動性に困った欧州の銀行がインドやブラジルなどの資産を売却。BRICS全体の株安を引き起こしている。

 この危機の根本はドイツのつわものの論理の押しつけだろう。

 ドイツはユーロ圏の財政統合を主張している。各国が独立して財政政策の運営をしているのを、ユーロの中央組織が統合予算を管理すべきだ、ということだ。

 自分たちはアリとキリギリスのアリ。重い債務国は財政主権を放棄すれば、市場の信認が回復するという発想だろう。イタリア人ならアタマに来る。モメるはずだ。結局背にハラは替えられないので、OKさせられるのだろうが。

 ドイツとフランスの首脳メルコジは表面上は一致しているが、フランスの論理はECB(中央銀行)がユーロ紙幣を増刷して問題国の国債を買えばいい、という現実路線。これに米国が乗ってEM(F米国の意向で動く)の資金を動かしてコトを収めようとしている。

 メルケル首相が国内の反対論を押し切り、強者の論理をひっこめるには、何か大きなイベント(不幸なことだが)が起きる必要がある。今の市場はそれを懸念している。

 ドイツが嫌がる支援にしても債務棒引き後の資金繰りの面倒を見る程度で、健全な数カ国(ドイツを含めて)への大打撃になるなどではない。むしろ重債務国が開き直ってユーロから脱退してしまえば、一番困るのはユーロ相場が大幅に上昇してしまうドイツだろう。日本の超円高の比ではない強い上昇幅はあるはずだ。

 まあ、そこいらはドイツ首相はワカッているはずだし、ドイツ自身がバブルが起きて超好景気になった南欧に輸出して儲けた。ところが今ではその事実には知らぬ顔。これじゃあ、ねえ。

 映画の幕切れ。あまりにも有名になった林芙美子の「放浪記」の一部が出てくる。

 花のいのちは みじかくて

  苦しきことのみ 多かりき

 映画「浮雲」の最後は死んだゆき子の顔にに富岡が化粧してやるシーンで終わるが、小説の方はゆき子の残した金で富岡は何と女を買う。EUにもそんな不人情な幕切れになってほしくないが。

2011年12月 5日 (月)

映画「ゴッドフアーザー」と最近の変化(第598回)

映画「ゴッドファーザー」と最近の変化

「ジョーズ」「タイタニック」と続いた誰でも知っている映画路線でこのコラムを書き始めたら、いろんな方からリクエストが来た。ヒッチコックの「めまい」、成瀬巳喜男の「浮雲」、木下恵介の「二十四の瞳」などなど。どうぞご要望があればお寄せください。出来るだけ書きますから。

 今回の「ゴッドファーザー」は72年の第1作の大ヒットのあと、2年目に「PARTⅡ」が作られ、それから16年で「Ⅲ」。物語の時代も20世紀初頭から80年も続く。

 第1作はアカデミー賞を3部門も獲得し、超大ヒット。マーロン・ブランドのしわがれ声とほほの含み綿は、今でも米国のパーティの素人芸で大ウケする。

 物語はマフィアの抗争だが、ある家庭の歴史でもある。第一部ではドンが射たれて重傷を負い、三男マイケルのアル・パチーノが復讐に出かけて二人を射殺するシーン。ドンが死んだあとマイケルが代を継ぎ、ツブしに来た大物たちを一斉に暗殺して次のゴッドファーザーになる。ここいらの緊迫感はコッポラ監督のウデで、すごい迫力に出来上がっていた。

 PARTⅡの方が私は好きだ。第1作で家族を守ろうとした組織の首領が、組織を守ろうとするために結局家族の幸せを奪ってしまう。裏切り者の次兄を殺した後の冷え冷えとした孤独感が幕切れだった。ギリシャ悲劇をおもわせた。

つまりギャング組織を維持拡大する努力と、家族を守ろうとする気持ちとは両立しない。そこらがPARTⅡの主題だった。

 主要中央銀行6行の協調緊急ドル融資でNYダウは先週7・4%上昇。ショートカバーが大幅高の背景だった。

 この反発は永続きしないだろう。リーマン・ショックの2008年10月14日にも主要国中央銀行のドル供給上限撤廃つまり流動性供給のニュースで反発した。しかし2009年3月まで結局株安は続いた。

 今回も同じ。白川日銀総裁が言う通り「時間をかせぐ」効果にとどまり、恐らくどこかの金融機関の倒産と国有化まで株安は続くだろう。

 ただ、前回と違うところはある。大ありだ。

 リーマン・ショックの時に世界的な流動性不足で決済機能まで大混乱。今回はユーロ圏での危機にとどまり、米、EUの金融は超緩和だ。

 ただし、ユーロ圏の信用不安をなくす決定的な打開策は、まだ見えていない。ドイツが嫌がっているユーロ共同債やECBによる保証でも決まればいいが、IMFやEFSF(欧州金融安定基金)による融資といっても、融資幅に限度があるからだ。

 「ゴッドファーザー」では麻薬をあつかったらというギャングのソロッツォの申し入れをドンは断る。これでバルジーニという大物が介入してきて、後継者マイケルは苦しむことになる。

 私はユーロの危機に前後して米国の財政赤字危機が発生し、8月の米国債格下げショックの2回目が起きると考えている。だから国際的複合危機が2012年前半に起こり、これで世界的株安、ドル安。

 ただし、日銀がようやく大量な市場への資金供給を始めた。これが朗報だ。11月の季節調整済みマネタリーベースの増加率はプラス41・2%。日銀がドル買い介入した資金を市中に放出した成果だ。まだ1か月では何とも言えないがデフレ脱出のために不可欠の政策、うれしい限りだ。

 PARTⅢのセリフから。マイケルが甥のヴィンセントに教訓を垂れる。「目を開け、口を開くな。」そうだ、そうだ。

 もう一つ。「友情と金は水と油だ。」どうぞよーくお読みになって、私の真意をおくみとりください。

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