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2011年12月10日 (土)

映画「浮雲」トユーロ危機(第599回)

映画「浮雲」とユーロ危機(第599回)

 成瀬巳喜男監督は黒沢明、小津安二郎、溝口健二と並ぶ日本映画黄金時代の4大監督。その最高傑作がこの「浮雲」だ。1955年の作品で当時の映画賞のほとんどをさらった。主演高峰秀子、森雅之。

 原作は林芙美子。第二次大戦中のベトナムに赴任していた富岡は魅力たっぷりの美男。農林省技官で、本国は物資が乏しくなっていたが、豊かな生活でエリート。日本からタイピストして派遣された幸田ゆき子は、魅力的な富岡には妻があるのを知りながら結ばれる。

 敗戦後帰国した二人はくっついたり離れたり、次第に落ちぶれてゆく。出口のない愛に身を任せながら、最後に落ち着くのは屋久島。雨が毎日毎日降り続くこの島で、ゆき子は死ぬ。

 こう書くとメロドラマだが、すぐれているのは戦後の日本人の絶望と頽廃を鋭くえぐった点や美しい画面。やはり日本映画の代表作だろう。

 映画の中で富岡は最初こそまことにカッコいいが、戦後はやることなすことうまくゆかないのに、離婚せず、ゆき子以外にもすぐ女を作る。森雅之がダメ男をまことに巧みに演じた。

 ひところドルに次ぐ基軸通貨であり、次から次へと参加国を増やしていたユーロだが、今や世界の頭痛のタネ。まるで映画の富岡だ。

 それでも映画ではゆき子は富岡から離れられないが、成瀬監督は男と女のセックスの相性を暗示している。しかし、現実のEUは8日の首脳会議でも英国が基本条約改正に反対、またドイツがユーロ共同債発行に反対するなど、同居しながらケンカしている男女のようだ。

 ご存じのとおりギリシャに始まったこの危機はイタリアに及んだ。一時的だがドイツ国債の入札が不調に終わったり、手元の流動性に困った欧州の銀行がインドやブラジルなどの資産を売却。BRICS全体の株安を引き起こしている。

 この危機の根本はドイツのつわものの論理の押しつけだろう。

 ドイツはユーロ圏の財政統合を主張している。各国が独立して財政政策の運営をしているのを、ユーロの中央組織が統合予算を管理すべきだ、ということだ。

 自分たちはアリとキリギリスのアリ。重い債務国は財政主権を放棄すれば、市場の信認が回復するという発想だろう。イタリア人ならアタマに来る。モメるはずだ。結局背にハラは替えられないので、OKさせられるのだろうが。

 ドイツとフランスの首脳メルコジは表面上は一致しているが、フランスの論理はECB(中央銀行)がユーロ紙幣を増刷して問題国の国債を買えばいい、という現実路線。これに米国が乗ってEM(F米国の意向で動く)の資金を動かしてコトを収めようとしている。

 メルケル首相が国内の反対論を押し切り、強者の論理をひっこめるには、何か大きなイベント(不幸なことだが)が起きる必要がある。今の市場はそれを懸念している。

 ドイツが嫌がる支援にしても債務棒引き後の資金繰りの面倒を見る程度で、健全な数カ国(ドイツを含めて)への大打撃になるなどではない。むしろ重債務国が開き直ってユーロから脱退してしまえば、一番困るのはユーロ相場が大幅に上昇してしまうドイツだろう。日本の超円高の比ではない強い上昇幅はあるはずだ。

 まあ、そこいらはドイツ首相はワカッているはずだし、ドイツ自身がバブルが起きて超好景気になった南欧に輸出して儲けた。ところが今ではその事実には知らぬ顔。これじゃあ、ねえ。

 映画の幕切れ。あまりにも有名になった林芙美子の「放浪記」の一部が出てくる。

 花のいのちは みじかくて

  苦しきことのみ 多かりき

 映画「浮雲」の最後は死んだゆき子の顔にに富岡が化粧してやるシーンで終わるが、小説の方はゆき子の残した金で富岡は何と女を買う。EUにもそんな不人情な幕切れになってほしくないが。

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