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2012年2月25日 (土)

映画「TIME/タイム」と嶋中さんと円安ドル高(第611回)

映画「TIME/タイム」と嶋中さんと円安ドル高(第611回)

 アンドリュー・ニコル監督・脚本の近未来物は面白い。「トゥルーマン・ショー」「シモーヌ」「ガタカ」など。大人の鑑賞に堪える文明批判があり、今回の新作はベスト。一見をお勧めする。もうヒットしているが。

 近未来。寿命をコントロールできるようになり人類は25歳で成長停止。そこから等しく1年間寿命が与えられる。「通貨」はなくなり、代わりに「余命」をやり取りして経済活動している。

 スラム地区の住民は目が覚めると余命は24時間を切っているが、一方金持ち地区住民は1万年、10万年の無限の寿命。

 主人公は自殺志願の大富豪から100年以上の余命をもらい、そこから意外や意外の展開に。資本主義への根本的な疑問をこの映画は鋭く突いている。アクション・シーンも時間を賭けるポーカー・シーンも迫力満点だ。

 しばらく前のこのブログで、私は三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長嶋中雄二さんの景気回復説に疑問を呈した。

 私は間違っていた。嶋中さんごめんなさい。あなたの主張通り、昨年11月が景気の底でした。2009年の時には中国がリード、今回は米国。世界の景気も同調して上昇。

 なんで私がシャッポを脱いだのか。やはり株式市場だ。NY市場でも東京市場でも勢いがある。とくにNYは公開ブームだし、東京は小型株の連騰が目立つ。売買高も増加中でこれは重要。

 しかし何と言っても市場を引っ張っているのは円安。電機株の総崩れは仕方ないが自動車株が息を吹き返した。外国人買いもこの10月で12000億円とヘッジファンド主体だが年金勢が続く流れだ。

 円安は通貨市場をリードしているヘッジファンドが「3年後に1ドル100円でドルを買う権利」を大量に買っている。目先でなく中長期の円安ドル高を予見した動きだ。

 これには日米ともに材料がある。日本の方は貿易収支の悪化と中期的な経常収支赤字転落懸念。一方米国はシェールガス革命だ。

 私はこのシェールガスの開発状況を4月に訪米して見てくるつもりだが、米国のエネルギー輸入が近い将来ゼロになるとすると、やはりドル高。つまり経常収支赤字が劇的に減る。

 一方円レートが市場取引される商品として行き過ぎていたことも指摘していい。だから円安ドル高。

 映画の中で、腕に仕込まれた時計の残り時間が秒ごとに減ってゆくのに似て、円高の時代は終わりつつあると考える。1ドル100円ではすまないのではないか。つれて輸出株の回復とともに株価も。

 もちろん、何かショックがあってドカン、というリスクは、このご時世だから23年に1回はある。しかしいったん上昇に転じると「懐疑の中で育ち」行く。恐ろしがるよりも、強気でモノゴトを見る方が良いのでは。

 映画のテーマは永遠の若さと不死の世界はユートピアではない、ということ。116年の生命を持つ富豪が自分の余命を主人公に渡して言う。「身体は元気でも、心が消耗してしまうこともある」。ニコル監督によると「人は身体と心が比例する形で歳を重ねる必要がある」。日本も貿易黒字で稼ぎ続ける方の経済から、次の段階に入りかけていると思う。

 

 お知らせがあります。このほど刊行された新刊本のご紹介です。

 「エコノ・センス」の磨き方―達人エコノミストのインタビュー集―

 金子雄一編集、秀和システム刊(1400円+税)

 10人のエコノミストが選ばれています(敬称略,肩書きは簡単に)。①上野泰也(みずほ証券)②嶋中雄二③宅森昭吉(三井住友アセット)④武者陵司⑤新家義貴(第一生命)⑥大守隆(東京都市大)⑦中原圭介(アセットベスト)⑧藻谷俊介(スフィンクスインベストメント)⑨金森久雄(日経研究センター)、そして私。

 現役の方々と大御所に交じってトップエコノミストのベストテンに入れていただいたことは光栄至極です。

 金子雄一さんという著者は日本経済新聞、日経研究センターに在籍、東京工業大教授、立教大学講師をつとめておられます。

 私の個性やモノの見方をよく理解していただいていますし、ほかの方々とのインタビューも面白い。どうぞご一読ください。

2012年2月19日 (日)

映画「ドラゴン・タトゥーの女」と日本国債暴落説(第610回)

映画「ドラゴン・タトゥーの女」と日本国債暴落説(第610回)

 全世界で6500万部という超ベストセラーになった小説の映画化。すでに三部作すべての映画化がスエーデン版であり、今回はハリウッド版。このテのリメークは大概オチるものだが、こちらの方がデキはいい。デビッド・フィンチャー監督。

 ジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)は奇妙な依頼を受ける。スエーデン財界に君臨していた大富豪から、40年前に姿を消し恐らく殺されたであろう姪の事件の真実を暴き、犯人を捜してほしいー。

 この映画の魅力は23歳のセキュリティ会社の調査員で、天才的ハッカーのリスベット(ルーニー・マーラ)だろう。幼いころから暴力にさらされ権力や社会へ深い憎しみを持ち、外見や服装からして他人を寄せ付けない。しかしウデ前を買ったミカエルは協力を求め、二人三脚で謎に挑む。

 映画で後見人にひどいことをされたリスベットは、意外なしたたかさを見せて復讐するのだが(そこらも見せ場になっている)、観客の予想をはるかに上回る残酷シーンになっている。

コワーい話は誰でも見たい。

 恐らく財務省の「早く消費税の引き上げを決めないと大変なことになりますよ」というキャンペーンのせいだろうが先日の朝日新聞は「国債暴落への対応策を三菱UFJ銀行が検討中」とトップで報じた。新聞やTVでも国債問題が取り上げられることが多い。

 その場合「現在1%を切っている10年もの国債利回りが3・5%に上昇」というシナリオが画かれる。

 これはゴールドマン・サックス・アセット会長のジム・オニール氏が「2年のうちに3・5%」という予想を発表しているためだろう。同氏は「BRICS」という新興国経済への注目を集めるキャッチフレーズを創造。有力ヘッジファンドへの影響力がきわめて大きい人物だ。

 これを受けて、TV番組を見ていると、国債の利回り上昇(価格下落)はこうなる、という呆れたエコノミストがいた。

 財政負担が急増、②銀行が巨額の損失をこうむり、利払いもできなくなる。ウソだ。

 まず2・5%の利回り上昇だと国債発行残高が1000兆円あるので国債に利払い費が20兆円増加するー。とんでもない。すでに発行されている国債は発行金利は変わらないし、変動利付国債はあるが発行額は少ない。

また銀行の評価損も、番組でいうほど多くない。2・5%の金利上昇は価格にして、18%の価格下落だが、最近の国内銀行国債保有は163兆円だが、では18%分の29兆3400億円の欠損が出るか。これもとんでもない。全部10年債を持っているわけではないからだ。保有国債の平均残存年数は3年。担当者は先物などでヘッジするから、現実にはせいぜい数兆円だろう。利払いができなくなるなんてウソ。

 それに、年金などが3%台の高利回りなら飛びつき買いするに違いないから、実はジム・オニール氏の予想自体は現実的じゃない。公的年金170兆円、企業年金80兆円、合わせて250兆円の年金は2・5%の予定利回りで運用されているので、一斉に買いに出るだろう。

 そのゴールドマンでも「日本株は買い、円安」と見ているらしい。日銀の2月14日の思い切った金融緩和と1%のインフレ・ターゲットを好感してのことだろう。余りコワーいお話に乗らないことだ。

 映画のセリフから。犯人に目をつけたミカエルは捉えられ、地下室で縛られ、あざけられる。「どうして本能を信じないのかな。何となく危ないということはわかるんだろうに」。私は国債が危ないと騒いで飯を食っている経済評論家は軽蔑するが、なんといっても日本の政治家のレベルが低すぎることが、本能的に不安だ。ドジらなければいいが。財政健全化への途を早く国内外に示さなくては。

2012年2月12日 (日)

映画「ヒューゴの不思議な発明」と欧州と「メルコジ体制」の危機

映画「ヒューゴのふしぎな発明」と欧州と「メルコジ体制」の危機(第609回)

 近く決定の第84回アカデミー賞の本命でマーチン・スコセッシ作品。作品賞など11部門でノミネートされている。前哨戦のゴールデングローブ賞で監督賞をすでに獲得。

 2007年のベストセラー小説の映画化で舞台は1931年のパリ。孤児の少年ヒューゴは、死んだ父が残した壊れた機械人形と駅の時計塔に隠れ住む。アル中の叔父が時計の管理と修繕を任されていたのだが、仕事をヒューゴに教えるとサッサと飲みに出かけて2度と帰らなかった。

 ヒューゴは駅の売店で食べ物を盗み、公安警察官につかまって孤児収容所に送られないよう逃げて暮らす。

 父の形見の機械人形の修理は完成しかけており、ハート形の鍵が見つかれば動く。そこに同じ型の鍵を首から下げている両親のいない少女に会ってー。

 これはただの少年少女の冒険物語ではない。少女の祖父ジョルジュ・メリエスの映画。この人は1902年に本格的な最初の映画をつくった人で500本もの作品を発表した。子供のための映画ではなく、映画が好きでたまらない人のための映画。メリエスの言葉「映画は人に夢を与えてくれるものなんだ」がテーマになっている。

 ハート形の鍵を差し込んで機械人形が動き出すと、画が描き出される。これと同じように、今の欧州の危機も、重債務国の債務をEU全体で救う措置がまだ不完全なため解決しない。はっきり言えばEU最強国ドイツがユーロ共同債を発行して、問題国を助けるといえば済む。これがカギなのだ。

 そうは行かないのは、財政規律強化のための新条約の制定と、安定メカニズム(ESM)設立が優先されるべきだ、という独首相メルケルと仏大統領サルコジの「メルコジ体制」のため。

 私は率直に言ってバッカじゃなかろうか、とさえ思う。

 新財政条約は「財政均衡化原則」がひどすぎる。財政赤字の対GDP比は従来の3%から0・5%に厳格化される。ケインズが生きていたら卒倒するだろう。

 いまのユーロ圏の高い失業率をご存知ですか。表面上10・4%だが若年層(25歳未満)は実に21・3%(昨年12月)。重債務国を例にとるとスペインは22・9%、若年層48・7%というひどさだ。

 ここに均衡主義を押し付ければユーロ経済の縮小化は必至で、最終的には恐慌にまで至る。ドイツには優秀で伝統のある経済研究所がいくつもあるのに、こんな簡単なことをアドバイスしないのだろうか。

 目先は3月上旬にギリシャ破綻、ユーロ離脱の方をメディアは注目しているが、この方は債務削減と追加援で妥協が何とか成立するとみている。万一ギリシャ離脱があっても債務危機の連鎖反応は食い止められるだろう。

 問題は「メルコジ体制」にある。メルケル首相の方はユーロ圏のドイツ制覇で高まる威信で支持率上昇。与党キリスト教民主同盟(CDU)は38%と2009年以来最高だ。

 一方サルコジ大統領の方が容易でない。野党社会党のオランド候補の45%に対し支持率は30%に過ぎない。しかもユーロ脱退を訴える右翼ルペン候補が支持率を上げて追い上げている始末だ。

 実は2010年以降の欧州危機で、政権交代が相次いでいる。アイルランド、ポルトガル、ギリシャ、スペイン、イタリア、スロバキアの7カ国だ。サルコジが8番目になるかどうかは4月22日が第1回、5月6日が決選投票になる。

 オランドは国家主権にあたる財政政策をEUに与える政策には反対、このためメルケル率いるCDUは露骨にサルコジ支援、オランド反対の姿勢を表明して、オランドのドイツ表敬訪問にも訪問日程を決めていない。

 いやはや。これでは目先はECBの金融緩和というカンフル剤が効いているうちはいいが、すぐバケの皮がはがれて問題が出てくるのは目に見えている。欧州危機の解決はまだまだ先のことだ。

 映画のセリフから。ヒューゴが言う。「もしこの世界が大きな機械だとしたら、構成している部品に何一つムダなものはない。人間もそれぞれ役割があるんだ。」ドイツがユーロ圏の弱い国にもっと情けをかけてやればいいのに。

2012年2月 4日 (土)

映画「J・ エドガー」と米国の住宅市場とNY株(第608回)

映画「J・エドガー」と米国の住宅市場とNY株(第608回)

 「J・エドガー」はクリント・イーストウッド監督の最新作。8代の大統領に仕え、48年間も裏から米国を支配したFBIフーバー長官の真の姿を画いた。主演はレオナルド・ディカプリオ。

 権力者たちの個人情報を集めた「機密ファイル」を作り、そのためには盗聴や尾行なども辞さない。ダーティな秘密を握っていると匂わせて、大統領たちからも怖れられる。

 マザコンで同性愛、結婚を申し込んだ秘書から、断られるが、それでも死ぬまで、使い続ける。謎めいた私生活を、米国の歴史的事件と重ねて描いてゆく。

 選挙で選ばれた大統領の権力も及ばないフーバー長官の米国支配の実力。長らく仕えた部下は「脅しの達人」と述べた。権力の二重構造だ。

 早くも2か月が経過したが、世界の主要株式市場をみると前年比で上昇しているのは、NYのみ。

 材料は景気の回復で、例えば1月の雇用統計で非農業部門雇用数が24万3000人と市場予想を10万人上回り、失業率は8・3%と0・2%改善した。また1月の非製造業景況指数が56・8と前月の53・0から大きく改善した、などなど。

 しかし、映画で裏の権力者フーバーに、代々の大統領がかなわないように、表面上のこれらの数字では米国経済はわからないのではないか。

 そう私が考える理由は、先日のFOMCで「米FRBが超低金利を2014年まで継続する」と発表したこと。景気が良くなるゾと株価は浮かれても、FRBバーナンキ議長は米国景気の前途に弱気だからこそ、の超低金利長期持続方針だと考える。

 毎月発表される経済指標で、米株式市場が恐らく意図して注目しないものがある。住宅だ。

 まず住宅の価格だが、下落が続いている。1月31日に発表されたケース・シラー住宅価格指数は昨年11月前年同月比マイナス3・67%と10月に比べて小幅悪化した。

 1月20日発表の中古住宅販売は年率461万戸と前月の439万戸から3か月連続で改善したが、何しろ400万戸台という水準自体が低すぎる。7~800万戸が普通だった国なのだから。

 私が住宅市場の回復が難しいとみている理由は、住宅ローン延滞・差し押さえ件数が多いので、将来的に中古市場に放出される「隠れ在庫」が膨大なこと。公表されている住宅市場の在庫とほぼ同じぐらいある。したがって実質的な住宅供給圧力は依然として極めて重い。

 もう一つ。表面上の失業率を私は信用していない。人口3億2000万人、うち労働者1億5000万人だから失業者は1200万人近辺のはずだ。

 しかし現実には失業登録していない人やパート労働で低所得の家族には、食料品購入のためのクーポンが配られる。月間290ドル。このクーポンをもらっている米国人は4600万人。だから公表されている失業率がどう動こうと、私は米国の景気を読む指標としては信用できない、と考えている。

 4月に私は訪米して実態をこの目で見てくるつもり。本当はもっと早く行きたいのだが、2月の米国は寒いし、仕事の先約もあるしー。

 映画のセリフから。捜査中の事件に対し興味津々の女性たちにフーバーが言う。「秘密を守ると約束するなら、極秘の手掛かりをひとつ教えてあげてもいいですよ」と語りかけ、指切りゲンマンをする。4月訪米で「一つ」だけでなくもっと手がかりを掴みたいのだがー。

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