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2012年4月30日 (月)

映画「わが母の記」と老齢化と「自分年金」(第620回)

映画「わが母の記」と老齢化と「自分年金」(第620回)

 恐らく今年の日本映画のベストスリーに入るであろう秀作。井上靖の原作を原田真人が脚本・監督した。主演役所広司、樹木希林、宮崎あおい。バッハのヴァイオリン協奏曲第一番が効果的に使われている。画面もまことに美しい。

 作家の伊上洪作は、親に捨てられたという心の傷を抱いて成長した。父の葬儀の後、次第にぼけつつあった母八重がどんどん記憶がなくなっている。人気作家として世田谷に住み軽井沢に別荘、川奈ホテルで母の誕生日パーティと、いかにも昭和のセレブの生活だが、娘の琴子は父に反抗する。

 この映画を見て八重を演じる樹木希林の迫真の演技で「自分もああなったらイヤだなあ」と思わない人はいないだろう。映画では、それでも母として忘れない記憶が残っていることに伊上が気がつくところがヤマ場になっているのだが、それでも自分の老後に不安感はつのる。

 どんどん進む長寿化。平均寿命は現在の男79.6歳、女86.2歳が2055年の予測では83.6,90.3へ。

 そこへ公的年金、企業年金などに不安材料が続出しているのだから老後の暮らしへの不安が募る。「非常に心配」の回答は1997年の22%が2011年に42%に。

 それもそうだろう。まず、老後の生活資金は夫婦で月間22.3万円。ゆとりある生活をしたければ月30万円以上かかる。年金受給は平均21~22万円だし、65歳の年金受給開始まで退職後何か仕事をしてつないでも、19年も金融資産の取り崩しが必要だ。将来20%の公的年金減として1600万円が不足。この分が退職金で補えるか、どうか。

 まだ不安が残るのは、介護だ。

 2008年の資料だが、2007年と2025年予測の比較がある。

 長期入院患者  22万人→36万人

 介護施設入所者 84万人→168万人

 (うち特別養護老人ホーム 42万人→85万人)

 在宅介護サービス利用者 243万人→408万人

 たとえば特別養護老人ホームは相部屋で月間8万円、個室15万円かかる。頭金がかかる場合も。あなたは大丈夫ですか?

 私は企業年金を(特に総合型に入っている方々は)確定拠出型に加入しなおしておくこと。また「自分年金」のために次の方針をお勧めする。

 貯蓄を2分。コア(中心)になる部分と、リスクをとってもプラスアルファになる部分に分ける。

 コアの部分は預金中心。リスクをとる部分は国際分散投資で投信ETFを積み立てる。これに国内、海外の個別株、金も忘れないこと。

そうはいっても、オレは、私はそんな投資の見方はわからないよ、という向きが多かろう。私なりの考え方を申し上げる。

 国際分散投資の為替レートが大切だが、円レートは長期円高が終わって円安」(ドル高)に転換しつつあることが最も大切。円には円安の要因が出ているし、ドルにはシェールガス革命でドル高。

 金についてはギャラップ社の最近の「長期投資に何を選ぶか」の調査が役に立つ。米国人は第一位は金で34%、続いて不動産19%、株・投信17%、預金・CD14%。いかが?

 ごくごく簡単に申し上げたが、このブログをよくお読みください。

 映画のセリフから。孫娘たちが同じ話を何べんも繰り返し始めた祖母八重を「おばあちゃんがコワれ始めた!」という。私もいつかこんなことを言われるのかしら・

 

2012年4月21日 (土)

映画「別離」と日本国債暴落仕掛けの失敗(第619回)

映画「別離」と日本国債暴落仕掛けの失敗(第619回)

 先日のアカデミー賞で外国映画賞、これに先んじてベルリン国際映画祭で金熊賞など各賞を総なめにしたイラン映画の佳作。

 登場するのは銀行員、失業中の労働者の二組の夫婦。ともに女の子が一人。

 銀行員の妻シミンは娘の教育のため国外移住を決意。しかし夫ナデルはアルツハイマーの老父を置き去りにできないと拒む。妻が家を出てしまうので、父のため失業中の労働者の妻ラジェを介護人として雇う。

 ある日ナデルが帰宅するとラジェの姿がなく、老父は縛られて倒れている。怒ってラジェを手荒く追い出すと、その晩入院して流産してしまう。

 19週間を過ぎた胎児を流産させてしまうと殺人罪で何年間か牢獄入り。裁判になってしまう。ラジェがナデルを突き飛ばして階段を転げ落ちたため流産した、と告発したためだ。現実は違うのだが。まるで黒沢明の「羅生門」のようにさまざまに食い違うそれぞれの立場で見方や証言が食い違う。

 つい2,3か月前、あるヘッジファンドの日本国債売り仕掛けが話題になった。ヘィマン・キャピタルのカイル・バスという男で、私が知っているだけで3回は国債売りをしてその都度失敗。

 しかし今回は野田内閣が増税案を出しかけていた時なので、恐らく財務省がけしかけて大きな報道になったのだろう。

 某大新聞のトップ記事で三菱UFJ銀行の日本国債暴落の対策を作っているという報道も、やはり財務省の差し金に違いない。

 たしかに1月中旬には日本国債のデフォルト損失保険料(CDS)の料率は152ベーシスポイントとその直前に比べて急上昇。当時CDSの売買量も前年同期比40%も増加「仕掛け」が始まったことをうかがわせた。

 また1月17日にはゴールドマン・ザックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長が「3年以内に日本国債は現在の1%から3・5%に上昇」と予想し、円売り、日本株買い、日本国債売りを推奨した。

 同氏はあのBRICSの投資シナリオを考え出した超一流のストラテジスト。この人の意見は昨年末のヘッジファンドの電話会議で公表されたといわれる。カイル・バス氏の仕掛けにこのジム・オニール会長の見方がバックにあったとみていい。

 実はこの情報は財務省に入っており、金融機関を呼んで非公開の会議を開いていた。日銀が2月14日の量的金融緩和方針を発表したのは、この会議に影響されたと私は見ている。内容はご存じの物価1%上昇を目途(GOAL)とするというものだが、国債の関連では「資産買受基金65兆円を使い、1年に40兆円の日本国債買いを行う」ところが売り仕掛けに打撃を与えたとみていい。

 CDSのレートはその後大幅に下げて半分になった。また日本国債の売りも3月第4週と第5週にそれぞれ1兆円の大量売りがあったが、国債の金利は一時1・02%に上昇したものの、0・94%に下落した。今回に限っては防戦側の完勝と見ていい。映画で介護人ラジェがナデルのせいだと仕掛けて、結局敗れてしまったように。

 それでも、いつまた暴落仕掛けが始まるか分からない。今回効き目のあった日銀のサプライズが次回も効果があるか、どうか。まだ不安な状況は続くが、それでもまだまだ大丈夫と考えている。

 映画のセリフから。シミンは裁判の最中にラジェに話をつけて示談ですまそうと企む。ナデルが怒って「お前は何か問題があると必ず手を挙げて降参してしまう。」仕掛けが終わっても白旗は誰にも見えない。私のニューヨークの日本クラブでの講演もこの話を入れた。27日の日銀政策決定会合に期待しよう。

 

2012年4月18日 (水)

映画「ファミリー・ツリー」と私が見てきた米国経済(第618回)

映画「ファミリー・ツリー」と見てきた米国経済(第618回)

 先日のアカデミー賞では作品賞など4部門でノミネートされ、評価の高い佳作。私は機内でみたが楽しめた。主演ジョージ・クルーニ―。監督アレクサンダー・ベイン。

 舞台はハワイで主人公マットは先祖から広大な土地を相続している弁護士。妻は事故で人事不省が続き、事前指示で尊厳死を希望していたので、医師から生命維持装置を外すしかない。周囲に別れを言わせるよう指示される。

 16歳の長女からは「ママは不倫していたのよ。知らなかった?」と言われ、10歳の次女からは「私はパパから面倒を見てもらったことがない」と。家族のきずながバラバラなことに気付いた。主人公はガク然とする。

 先週主にニューヨークに行ってきた。現地で会ったシンクタンクの日本人エコノミストの方々は(米国人も同じだが)、楽観論よりも、脆弱であるという悲観論の方が主流。「毎年春には今年は良くなると期待するが、夏ごろからオカしくなり秋からダメになる」とか「4~6月期の米国GDPはどうせマイナス成長だから株価も今が天井」などなど。

 最近発表された雇用統計が期待はずれだったのが一因だ。たしかに雇用は米国株の良い先行指標だが、かつてのウィスキーのCMと同じ。半分になったボトルを「もう半分しかない」と見るか「まだ半分残っている。飲めるぜ」と見るかだ。ここ2月、週次の新規失業保険の申請は減少中。楽観派はこれを注目している。

 結局、ゴールドマン・サックスのジム・オニール会長が言う通り「住宅市場の反転とシェールガス革命による米国産業の競争力回復を信じるかどうか」にかかる。

 私は、今年中はともかく、明年の第2期オバマ政権スタート近辺から、この二つの材料は明確化し、加速化する、と見た。

 すでにシェールガスで発電を石炭からガスに切り替えた電力会社は、大幅に電力料金を切り下げ始めた。ボストンの電力会社だが、1kw当たり8・5セントを5・5セント(産業電力、ちなみに日本は17セント)に34%切り下げた。4月11日のウォールストリートジャーナルによると、5月から家庭用も安くするという、追随企業が続出するだろう。

 また石油化学企業はここ何十年もやっていない巨大設備投資を推進し始めたし、全米15か所の液化ガス輸入設備は輸出用に切り替え中。今年中はまだ事態は進行し、統計数字になってだれの目にもはっきり見えていないか、私にはこれで十分すぎる位だ。映画の中で、マットが長女の案内で不倫相手のウチを見て確信するように。

 それでもシェールガス革命を信じない不届き者には、すでに昨年米国はガソリン、ディーゼル油などの石油製品の輸出は輸入より日量44万バレル上回った。米国が純輸出国になったのは何と1949年以来。また米国の原油生産が20億バレルを上回ったのは2003年以来初めてのことだ。

 映画のセリフから。マットが言う。「家族は群島のようなもの。一つ一つは独立していても、まとまれば一つの群島、一つの家族だ」。悲観論者は虫の眼で島だけ見て、群島を、つまり大きな鳥の眼で見ていないのでは。

2012年4月 7日 (土)

映画「スーパーチューズデー」と米大統領選(第617回)

映画「スーパーチューズデー」と米大統領選(617回)

 大統領選の民主・共和両党候補を目指す政治家にとっての天王山は、予備選と党集会が集中する3月のスーパーチューズデーだ。ジョージ・クルーニ監督はこの選挙戦を舞台に面白い傑作をつくった。

 選挙を実際に仕切る人物は選挙参謀とか選挙コンサルタントと呼ばれる。長い選挙戦でのあらゆる判断を下すリーダーであり、候補者のパフォーマンスを引き出すディレクターで、しかもメディアやほかの政治家などの協力を引き出すディレクター(JMM・USAレポート567回)。

 映画の副題「正義を売った日」の通り、腐敗した政治への告発がテーマだが、選挙戦のウラ話としても十分に楽しめる。

 映画の中で候補者の知事は選挙事務所のトレーニーを妊娠させる。主人公の選挙広報担当は「大統領は必要のない戦争を始めることも、国を破産させることもできる。でもトレーニーとファックすることだけは許されていない」あのモニカ・ルインスキー事件を想い出してニヤリとする向きも。

 共和党の候補者争いは、ようやくロムニーがリードしたが、指名に必要な過半数の代議員1144人の半分。とても党内を一本化している数字ではない。

 イントレードというwebサイトがある。カネを賭けて候補を買う。この3か月余り、オバマは68セント。ロムニーは37-38セント。当たれば1ドルになって返ってくる。

 共和党サントラム、ギングリッチ、ポールは皆1セントにもいかない。米マスコミは面白ければいいので、激戦とアオっているが。

 それでもガソリン代高騰を含めてオバマ不人気は相当なもの。民主党大統領と共和党の上下両院多数というねじれ現象が起きる公算大。となるとバーナンキ議長が「巨大な財政の断崖」と呼ぶ米国財政の時限爆弾にスイッチが入る。

 それは法的上限に近付きつつある、連邦債務問題。段階的に上限は引き上げられることになっているが、議会が同意しないと1昨年のような事態が再現されてしまう。

 このほかにも12月31日までに議会が対策を講じなくてはならない時限爆弾は三つある。

 給与減税の失効(給与の2%分の増税)

 所得減税の失効(いわゆるブッシュ減税以前の水準)

 大幅な歳出削減の強制執行

要するに共和党は年間の歳出額に上限を設けた、将来の社会保障の削減。一方民主党は富裕層への増税だ。政治の方はなかなか妥協が成立しにくい。

一方経済面では、このコラムでも紹介したが最大の負の資産の住宅がまだ明確な反発に入っていない。ウオーレン・バフェット氏やシラー教授の「底入れが近い」という見通しはあるが、一部大都市部の回復に止まっている。バーナンキFRB議長もまだまだ説で、金融緩和が今後も必要との立場を維持している。全国ベースでは、なかなかいい数字にはなるまい。

 私は明日8日から1週間、主にニューヨークで取材してくるが、シェールガス革命の進展という最大のテーマに絞るつもりだ。

 映画のセリフから。選挙参謀が部下に言う。「この政界では忠誠心が唯一の通貨なんだゾ。」いまの米国ではシェールガスが唯一、明日につながる材料と私は見ている。

 

2012年4月 1日 (日)

映画「ドライヴ」と不動産業の将来(第616回)

 デンマーク出身のレフン監督の見事なサスペンス映画。カンヌ映画祭で絶賛を浴び監督賞。これまでの映画と全く違う作り方で、散々見てきたカーチェイスの場面とかも一味違う。内容が濃い。静かさとバイオレンスの巧みなバランス。

 主人公は名前が言われることのない「ドライバー」。日中はハリウッド映画のスタントマンをつとめ、ガレージでも働く。凄腕の運転技術を生かして強盗の逃亡の助っ人もやる。

 ガレージの主はドライバーをカーレースに出場させたく思い、マフィアから資金を借りる。一方ドライバーは同じアパートに住む子連れの女性と、プラトニックな恋に落ちる。女性の夫は服役を終えて帰宅し、悪い仲間から強盗を命じられ、そこから物語は二転、三転。 

 冒頭に強盗二人の助っ人としてドライバーは言う。「このロスには10万もの通りがありオレはすべて知っている。5分間待つ。何があってもその後は逃げる。」銃は持たず運転技術で仕事をこなす。

 私の講演の参加者には不動産業界の方が結構多い。

 一般的には高齢化、少子化で日本経済が沈滞してゆくのと並行して、見通しの立ちにくい業界、とみられている。

 しかし映画のドライバーが大都市の道を知り尽くしてビジネスを成功させているように、都市化の進行は不動産業界に大いなる成長性をもたらすと考える。ある条件付き、だが。

 このことはクレディ・スイスのアナリスト白川浩道さんがかねてから主張している。ご紹介すると次の通り。

 高齢化が進行すると、人口総てでは縮小しても単身化で世帯数の増加は東京中心に続く。

 二人以上世帯の一人当たり消費額よりも単身世帯の消費額の方がはるかに大きい。

 2009年の総務省調べでは月額21万2290円と二人以上世帯の11万7519円の実に8割増。

 都市部世帯は今後増加する。白川さんの将来推計では2010年の2033万世帯から2025年には2138万世帯に100万、5・2%増。

 ここで不動産業が登場する。都市中心部に近い利便性の高いマンションへの需要は高まる。都市部住宅は2025年には、2010年比で6・7%増加。

 住宅建築物の耐用年数は木造で30年程度。鉄筋で50年程度。2010~20年は1970~80年代のバブル期に建造された住宅が老朽化、建て替え需要も寄与する。

つまり、東京など大都市とそのベッドタウンという条件は付くものの、そこを営業基盤とする不動産業者は成長性がある。もちろん首都直下型地震を見て、顧客に安全でいい物件をサービスするのは絶対条件だが。不動産同様、白物家電、家具などの市場も悪くない。

 白川さんは「高齢化の進展が、日本経済低迷に拍車をかける」という一般に信じられているいわゆる定説を「迷信」と一蹴する。

 団塊の世代が今や続々と退職を始めた。このことはこれまでのデフレの一因だった賃金の下押し圧力を減退させる。「このことは今後コア賃金の上昇とデフレの解消につながりやすくなる」。このほか①非製造業の非効率性が経済成長を阻害している②公共投資の成長押し上げ効果は一過性、の2点も白川さんによると「迷信」だ。これは別の機会に。

 映画のセリフから。酒場で気安く昔の仕事を覚えていた人物に声をかけてくれてドライバーが凄む。「自分で黙るか。歯をヘシ折られてから黙るか、どっちにする?」無責任にただ日本はダメだダメだといい続けてきた人たちも、そろそろ考え直したら。

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