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2012年5月27日 (日)

映画「駅馬車」とヘッジフアンドの投資作戦(第624回)

映画「駅馬車」とヘッジファンドの投資作戦(第624回)

 1939年に製作されたジョン・フォードの西部劇。この年にこの名監督は「若き日のリンカーン」、「モホークの太鼓」「怒りの葡萄」の4本の名作を立て続けに作った。44歳の働き盛り。この年「風と共に去りぬ」にアカデミー賞はゴッソリさらわれたが、ほかの年に作られていたら―。

 それほどこの「駅馬車」は充実した内容の名作だ。9人の乗客がアリゾナ州のトント市からニューメキシコのローズバーグまで走るが、途中でアパッチに襲撃される。緊迫した状況の中で様々な人間模様が展開される。ラストは1対3の決闘と、人情味あふれる落ち。

 何といっても駅馬車が待ち伏せしていたアパッチの戦闘隊に追跡されて、全速力で逃げに逃げる。スピード感と迫力。日本で上映されたときある映画人が「どうですか、どうですか」と昂奮して連呼したとか。映画史に残る名シーンの連続と素晴らしいカメラの感覚!

 攻撃が始まる前、一番怖い場所を通りすぎて馬車の中はホッとした雰囲気。ところが実はアパッチは崖の上から見ており、よかった万歳といったときにウイスキー商人の胸にブスリと矢が刺さる。

 安心、と思った瞬間に危機が始まるというのはよくあること。逆もまた真、だ。危ない危ないといっているうちに事態がガラリとかわこともよくある。いまはギリシャに気を取られて株式市場は薄商いのままジリ安。3月末にくらべて18%下がった。一方日本国債の金利が下がり(債券価格は上昇)。円レートも対ドル79円台で止まっている。

 しかし、これはヘッジファンドが「リスク・オフ」つまり日、米、独などの国債を買い、「リスク・オン」の投資先、具体的には株、商品などを売っているため。

 いまユーロ先物売りは空前の17万4000枚に達し、これが何かキッカケがあれば買戻しに入ることは目に見えている。

 現在チキン・レースに立っているギリシャ離脱問題がカギだろう。

 6月17日の第二次総選挙の直前に「ユーロ共同債を検討する」という発言が出て騒ぎは収まるとみている。

 万が一、ということがあるからまだ不安感は収まっていないのだが、私はギリシャのユーロ離脱はあり得ないと考えている。ドイツ・メルケル首相はユーロ解体につながる事態は避けるとみているからだ。

 再びリスク・オンにヘッジファンドがギヤを入れ替えると「円売り、株買い、日本国債売り」に舞台はクルリと変わる。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長がヘッジファンドの電話会議で昨年末に述べた戦略だ。

 円レートは85円近辺、株価は1万台の大台乗せ。このあたりまでアレレという間に変わるのではないか。

 何しろPERは11倍、PBRは0.89、どうみても株価は底値圏内だ。為替レートが流れが変われば(必ず変わると思うが)映画で騎兵隊がラッパとともに登場して駅馬車を救った場面のようになろう。

 映画のセリフから。トマス・ミッチェル演じる酔いどれ医師が、アパッチ襲撃の危険のある地域に駅馬車を進めさすかどうかの議論の中で前進を主張して言う。「わしは哲学者であり運命論者でもある。危険と死はどこにだってある。矢に当たらなくても、どうせ酒で死ぬさ。」いつでも不安が声高で叫ばれるときは、大体株価は底値だ。変化の基盤はもう出来上がっていると思う。

2012年5月18日 (金)

映画「裏切りのサーカス」とギリシャのユーロ脱退(第623回)

映画「裏切りのサーカス」とギリシャのユーロ脱退(第623回)

 スパイ小説の第一人者ジョン・ル・カレの傑作「ティンカー・ティラー・ソルジャー・スパイ」の映画化。アカデミー賞を含め主要映画祭で67部門にノミネートされた。    

東西冷戦時代。英国諜報部のリーダーのコントロールは、組織の幹部の中にソ連の二重スパイ「もぐら」が存在するとの情報を掴む。ブダペストにいる情報ソースと接触を試みるが失敗。コントロールと老スパイスマイリーは組織を去る。直後にコントロールは謎の死。引退したスマイリーに組織幹部の4人の誰が謎の二重スパイか探れ、との指令が下る。次第に「もぐら」を追いつめてゆく。

 銃撃戦もアクションもない地味な映画だが、公開前の試写を含め私は3回も観た。何気ないシーンにも見返すたびに発見があり、面白さとスリルは変わらなかった。傑作と思う。

 冷戦時代は資本主義と共産主義の対立。今回の欧州ユーロ危機は、メルケル首相率いるドイツが主導してきた財政緊縮策最優先に対する反乱が起きている。

 まずフランス大統領選。ドイツと協調して緊縮を推進してきたサルコジが敗れ、成長優先を看板としたオランドが勝利した。ドイツも最大の州ノルトライン・ウエストファレンでメルケルが率いるCDUが惨敗した。このほかルーマニア、スペイン、イタリア、オランダでも政府と与党の緊縮策に議会も世論も猛反発が起きた。

 一番激しいのがギリシャ。56日の選挙ではND新民主主義党とPASOK全ギリシャ社会主義運動の二大政党が、ここ40年間80%の得票でどちらが政権につくという構図だったが、ともに惨敗。躍進したのはアンチEU政党ばかり。6月に再び選挙となるが、第一党で50議席がボーナスとして与えられるのは、どうもSYRIEA急進左翼連合らしい。これは完全にアンチEUだ。

ギリシャ憲法では第一党から組閣にかかるが、第二党も含めてまだダメ。617日に再び選挙が行われる。

 SYRIZA急進左翼連合の党首ツイプラスは「緊縮策を放棄したらEUから救済されなくなる」という批判を否定。「ギリシャが離脱したらほかの南欧諸国もデフォルトしてEU全体の崩壊につながるので不可能」と言っている。

 この情勢を見てギリシャの国民は預金をユーロ紙幣で引き出し、今や取り付け騒ぎに限りなく近い。ただ世論調査を見るとギリシャ国民の78%はユーロ残留を希望、ドラクマ復帰を望む比率は13%に止まっているのは多少の希望はある。しかし金融システムが機能不全に陥っている。支払い能力を失ったギリシャ政府は借金を踏み倒すほかない。

 昨年末現在の借金。欧州系銀行の905億ドル(70億ユーロ),ECBも同程度。二国間融資や欧州金融安定基金に対する政府保証などが1200億ユーロ。IMFも200億ユーロの財政支援も回収不能だろう。合わせて2800億ユーロ、3600億ドル近いアナがあくわけだ。

それほど大した金額ではない。株価は下げすぎだ。戻りに入れば(その時期は近いが)

急伸するだろう。

 対ドルユーロレートはまだ12の上の方だが、ジム・オニール氏でも120と言っている。まだユーロ安は続くだろう。

 映画のセリフから。英国スパイチームのリーダー・コントロールが辞任の時に言う。「男たるものパーティの引き際を心得ておくべきだよ。」ギリシャ国民もワカッてはいるのだがどうにもならないのだろう。

2012年5月10日 (木)

映画「テルマエ・ロマエ」とフランス新大統領(第622回)

映画「テルマエ・ロマエ」とフランス新大統領(第622回)

 ただ今ヒット中の娯楽映画で気楽に楽しめる。笑いが絶えない。原作は500万部を売ったヤマザキマリのマンガで「テルマエ」とは大衆浴場のこと。もちろん「ロマエ」はローマの、という意味だ。映画のあいま合間にイタリアオペラの名曲が、ドミンゴの美声で効果的に入る。

 紀元2世紀の古代ローマ。主人公ルシウス(阿部寛)は当時市内に1000あったといわれる浴場の設計技師。新しいアイデアを求めていたら現代日本にタイムスリップ。銭湯、ウオッシュレットを含めた理想郷を見つける-という奇想天外のSF。ルシウスはハイテクにも興味を示すが、覇権国家ローマの傲慢な国民性とは対照的な日本人の国民性に、驚きと共に尊敬の念を抱く。

 かつての皇帝たちが20万人のローマ市民の人気を得るための政策が有名な「パンとサーカス」。それに一度に1000人以上が入浴できる大浴場だった。パンも見世物も、ローマ市民の証としての木札を示せばタダ。また入浴料も10円程度だった。子供や兵士は無料。

 フランスの大統領選挙が終わり、社会党のフランソワ・オランド第一書記が勝利した。

 同氏は60もの公約を発表している。中には「パンとサーカス」「大浴場」的なものが多い。

 たとえば「子ども手当」の増額。9月の新学期から618歳の子供に新学期ごとに、一人268ユーロ支給されているのを25%増額。

 また現行62歳の年金支給を60歳に引き下げるとか、教育分野では今後5年間で6万のポストを新設するとか。我が国の民主党の匂いがする。

 代わりに目の敵にされるのが富裕層。年間15万ユーロ以上の層に45%の税を課する。これが社会保障の財源になる。

 また銀行も同じく敵役だ。①租税回避地での営業を禁じ②銀行の収益への税を15%増税②全ての金融取引への増税を実施、など「社会党流の正義」が公約されている。また地方の中小企業のために公共投資銀行を設立する、とも。

 パリ株式市場では大手銀行株が新安値を更新している。かつてのミッテラン政権のような国有化にまで行かなくても、営業活動のしにくさは明らかで、これを嫌気しての株安だろう。

 ただ金融危機の再燃には至るまい。フランス国債利回りはむしろ低下。CDSプレミアムもほぼ不変で市場は安定している。

 それでも円高ユーロ安に動いたのは、スペインの銀行が不良債権の重荷に苦しみ、スペイン国債のCDS上昇、株価急落と「次のギリシャ」不安があるためだ。イタリアにも不安の声が。

 私はスペインの銀行が経営危機になれば国家資金投入で済むだろうし、イタリアも財政収支のプライマリーバランスは黒字なので、大丈夫、と見ている。夏にはポルトガルが再協議されるだろうが。

 私はもう一つ。オランドは結局「変わる」と見せかけて実は「変わらない」と見ている。反ドイツでないことも明示したし、円の対ユーロレートは今の100円飛び台はユーロ買いをお勧めしたい。

 映画のセリフから。ルシウスがタイムスリップし、現代日本の銭湯の客の秩序だった姿、勤勉無私な老人たちの労働の姿に感動して言う。「この途方もない敗北感を、何と表現したらいいんだ?」堅苦しさと無縁のお気軽コメディだが、お話しにスジが1本、通っている。

わたしは、目先の円高は一時的なもので、流れは円安、との見方を変えない。

2012年5月 5日 (土)

映画「ライムライト」と老人市場(第621回)

映画「ライムライト」と老人市場(第621回)

 ご存じチャップリン晩年の名作。物語が始まる前の字幕に「華やかなライムライトの中に若者が登場したら、老人は退き下がらなくてはならない」でテーマは明らかだ。

 自殺をしかけたバレリーナを助けた、かつての大喜劇役者で今は落ちぶれたチャップリンが言う。処世訓が多い。

 もっとも有名なのが「人生で大切なものは勇気と創造力、それに少しのお金だ」。だろう。その前の「宇宙の、何よりも貴い“生きる”という奇跡を消してはいけない。星に何ができる。ただ空をめぐっているだけじゃないか。」とか「クラゲにだって生き甲斐がある」などの名セリフは忘れられない。

 先週に続いて老人問題を。今の日本が急速に老齢化しているのもご存じの通り。今20%の65歳以上の老人層は2050年に39%へ、ほぼ倍増する。

 当然、老人関連市場は急拡大中で、昨年60歳以上の個人消費が全体の44%、100兆円を占めた。故P・ドラッカー博士の「2040年に医療、介護産業がGDPの40%を担う」という予言を信じるなら、28年間で2倍になる計算だ。

 実は私ごとながら「医薬経済」という専門誌に1ページもののコラムの連載を始める。そこで調べてみたら「ドラッグ・ラグ」という言葉を発見した。

 医薬品の発売の当局による承認の遅れのことで、審査官の不足を含めいろんな要因があるらしい。その結果、世界で販売されている薬品の上位1000のうち、日本だけで承認されていない品目が20もある。もっと使われていいものが販売されていない。

 また治療の中で先進医療を呼ばれる分野の遅れも、時代遅れの規制がずいぶんするためらしい。必要な規制もあるだろうが、少なくとも民間の活力をそいでいることは間違いない。

 年金の方もAIJによる巨大損失問題を機に、同様な疑いをもたれる独立系年金運用会社が何社もあるらしい。証券取引等監視委員会が特別検査に乗り出したという噂を聞く。

 不正運用だけではない。厚生年金基金578のうち317基金が、入ってくる掛け金よりも支払う給付の方が多く、10年以内にこれまで積み立ててきた積立金がなくなってしまうという。赤字のツケは母体企業が支払うが、報道によると銀行が取引見直しを迫る例もあるという。

 薬の場合も年金の場合も、今後必ず発生する老齢化社会に対し、日本の今の制度がなっていない、ということだ。

 早くきちんと体制を整備することが先決だが、これから老齢に差し掛かる人へのアドバイスは、確定拠出型年金にして免税の恩典を受けて貯蓄しなさい、ということだけだ。

 映画のセリフを再び。「死と同じように避けられないものがある。それは生きることだ。」死の前にヨボヨボになって生きるというのは大変なことだ。気が重い。

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