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2012年6月30日 (土)

シェールガス革命は日本にも好材料(先見経済2012年7月号)

先見経済 2012年7月号

経済最前線

シェールガス革命は日本の好材料

 このページで私は何回も米国のシェールガス革命についてお伝えした。読者の方から、オマエは米国のことばかり言って、この日本がどうなるのかを書かないじゃないか、とお叱りをいただいた。ごもっともです。

 この革命はもちろん米国が最大の受益者だが、日本も相当に利益を受ける。理由は次の通り。

 政情が不安定な中東へのエネルギー依存が下げられる。2011年で原油の87%、石油ガスの88%は中東。ほとんどホルムズ海峡経由だ。これが政情安定している米国とカナダに変わることは大きな国益だ。

 今の日本のデフレと不景気の根源は円高にある。国際通貨研究所の購買力平価による円ドルの妥当レートは次の通りでこの原稿を書いている6月下旬現在の79円よりはるかに円安だ。消費者物価129・63円、企業物価98・67円。つまり企業はもうからない輸出を強いられている。

ところが米国のシェールガス革命は貿易収支と財政収支と双子の赤字を大幅に減少させてドル高要因。時間はかかる。すぐというわけではないが、100円近辺までの円安は福音だ。

 米国、カナダから大量のシェールガスを輸入する流れができれば、輸入価格を安くすることができる。現在日本の天然ガス輸入はテイクオアペイ条件という長期契約。これは3か月ごとに石油価格に連動して決められる。天然ガスには石油のような成熟した国際市場がまだないので、我が国には不利な契約になっている。これが変わるのは大きい。現在は米国に比べて9倍もする天然ガスを輸入しているのだから。

 脱原発は日本の大問題だが、供給の不安定要因であると同時に価格面でも見通し難という難問だ。これが天然ガスシフトで一挙に解決する。

最新型のコンバインドサイクルという技術が日本にはあり、発電の効率を現在の40%弱から一挙に60%に上昇できる。再生可能エネルギーのエネルギーの利用より低コストで効率がいい。この最新鋭発電設備を米国向けに輸出し、代わりにシェールガスの利権を獲得する。条件はTPP加入だが、現在の日本の政治の変化ぶりから見て十分に可能性がある。

 このページの読者からのリクエストにお応えして、日本の企業でシェールガス革命の恩恵を受けそうなところを列挙しておこう。

まず米国のシェールガス輸出関連。液化設備は日揮、千代田化工、それにLNG受け入れ基地の熱交換器設備で世界一の住友精密。さらにコンバインドサイクルでは三菱重工、川崎重工、日立、東芝といったあたり。それに三井物産、三菱商事、住友商事、伊藤忠と大手商社も忘れるわけにはいかない。

 シェールガスを直接利用する企業も出てきた。クラレは米テキサス州に機能性樹脂ポバールの新工場を作る。同社はポバールで世界の35%を占めるトップだが20%の大増産に踏み切る。また信越化学の米子会社で塩化ビニールを作るシンテックも原料のガス獲得値下がりが寄与する。東レも炭素繊維の米国工場の設備を5割増設、天然ガスの圧力・容器用の需要が見込まれる。

 呉羽も世界で唯一量産化に成功してPGA樹脂がシェールガス採掘に利用されるし、シェールガス用の遠心分離器の巴工業やパイプライン用交換の丸一鋼管もメリットが大きい。

 「明」に対して「暗」もある。三菱ケミカルはエチレン生産の縮小に向かう。原料のコスト安で米国にかなわないと決断したためだ。グローバルな市場の変化は、今後様々な流れを生むこと必至だ。

2012年6月23日 (土)

映画「外字警察 その男に騙されるな」とユーロ問題(第627回)

映画「外事警察 その男に騙されるな」とユーロ問題(第627回)

 NHKのドラマ版から発展した映画化だが、独立して楽しめる。本格的な公安警察サスペンスでただ今ヒット中。

 舞台は2011年の日本。東日本大震災で壊滅した東北の大学研究室から原子力の最新技術が盗まれる。核テロを警戒した警視庁公安部は「公安の魔物」と言われるベテランをリーダーに捜査を開始。工作員とみられる半島系の貿易会社社長の日本人妻を、協力者として強引に引きずり込む。

 盗まれた技術は原爆に点火するスイッチ。北鮮から濃縮ウランが持ち出されており、これと合わせると大変なことになる。テロリストへ売却を狙う勢力、韓国公安と三つ巴になった争奪戦で、予測不能な騙し合いが続く。オトなの鑑賞に十分に耐える佳作と思う。

 主役は百戦錬磨の住本警部補だが、協力者を得るための仕掛けに「怒り」を使う。人を動かす最も強い感情を利用してコントロールする。

 今回のユーロ騒動の基本にはギリシャにもドイツにも相手に対する怒りがある。ギリシャは第二次大戦でナチスに大量の金を持って行かれたという歴史があるし、若年層で51%の失業という現状にも不満に違いない。

 一方ドイツは連銀月報の最近号でこれまた「怒り」を表明した。「ギリシャは大規模な救済の見返りとして合意していた改革と財政緊縮策を実行しないと『恫喝』している」。

 総選挙で緊縮政策に賛成する連立内閣が成立し、感情は別にしても一応安定するメドがついた。しかしドイツ側は「欧州の財政統合が実現しない限り、ユーロ共同債を通じた合同の資金調達に明確に反対(財務副大臣)」と、まだかたくなに「正論」を崩さない。

 となるとヘッジファンドはまた仕掛ける。スペイン国債が危険ラインとされる7%に接近している。まだまだ、という感じだ。

 ヘッジファンドの影響力が大きいゴールドマン・サックスが最近発表した「欧州債務危機を過去の金融っ気と比較」によると「まだ株価は下げ足りない。」

 1994年のメキシコ、97年のアジア、98年のロシア、2000年のアルゼンチン。震源地と近隣株式市場の平均株価下落率は65%で、最も打撃の大きかったメキシコ、タイ、ロシア、アルゼンチンはドル建てで85%下落した。

 今回はギリシャは80%で下げは十分だが、スペイン、イタリア、ポルトガルはドル建てで50%。またPERは7~8倍まで下落して底入れしたが、現在は9・5倍でまだ大底と言い切れない。

 もうひとつ。過去の金融危機はすべて危機後急回復し、1年間で最安値から100%上昇した。しかし、これは当事国の経済が急回復したためで、欧州経済が今後数年間で劇的に持ち直す可能性は低い。

 私も目先の苦境は何とか切り抜けつつあるものの、まだ完全に危機は終わったとは考えていない。とりあえずドルとユーロは大量なカラ売りが買い戻しに向かっているものの、まだヘッジファンドは対ドル1・1を狙っていると見ている。

 映画のセリフから。官房長官が警察から報告を受けたやり取り。「韓国は日本でやりたい放題です。厳重な抗議が必要です。」「その必要はありません。押さえてある証人は解放して口止めの取引をしなさい」。まあ、こんなところが日本の現状なんだろうなあ。国際政治なんて、とてもとても。

2012年6月14日 (木)

映画「ロボット」とロボット産業の今後(第627回)

映画「ロボット」とロボット産業の今後(第627回)

 世界の興行収入100億円を突破したインド映画最大のヒット作。私は完全版を上映するまで待って見たがまあ面白いの何の。笑いとスリル、アクション、ダンスなどをメチャメチャに盛り込んだが、ある評論家が「奇跡的」というくらいうまくまとめた。ちょっと類を見ないエンターテインメント。一見をお勧めする。

 研究者バシー博士は10年かけて自分と同じルックスのハイテクロボット「チッティ」を完成。やがて人間の感情をプログラムされたチッティは博士の恋人サナに恋心を抱いて三角関係に。怒った博士は分解して廃案処分。ところが悪徳教授がゴミ捨て場から部品を回収して殺人マシンに改造してしまう。

 そのあたりからチッティから分身したロボット軍団の壮絶な大暴れがメチャ面白い。最後は殺人プログラムを外されて終わりになるがー。

 映画の中のロボットがそう先のことと思わないほど、現実のロボット工学の発展は目覚ましい。

 日本以外では軍事技術がロボット作りのバックにある。日本でも売られている自動掃除機の「ルンバ」は米軍の委託で地雷除去ロボットを開発した「アイロボット」という企業の製品だ。ナズダック上場で60%が家庭用だが40%は偵察ロボット、水中の調査ロボットなど軍事用。この開発を政府が委託し、その技術を民間用に使うことを許されている。

 日本のロボットはご存じのとおり産業用では世界一の特許数を持つ。世界でのシェアは三分の二、三分の一が日本で稼働中だ。代表選手が安川電機、ファナック、川崎重工。

 この流れに加えて次の世代は①音声認識技術②画像認識技術③人工知能(AI)など頭脳部門が開発、回転が求められている。

 コミュニケーション・ロボットの「パロ」とか日本初の食事支援ロボット「マイスプーン」、介護予防リハビリ体操補助「たいぞう」などなど。これらのサービスロボットの市場は10年以内に1兆円。政府の報告書では現在の産業用と同じ規模になると予測されている。

 三菱総研のロボット市場はもっと大きい市場を見込んでいる。まず現在の製品のみが今後普及してゆくだけで2035年に2兆7000億円、これが新しい分野の開発で2035年に9兆7000億円。しかしロボットを活用した周辺産業が同程度の市場を創造すると予測している。

 具体的には①インテグレイションとコンサルティング3兆7727億円②保守・管理1兆2477億円③サービス代行1兆779億円④リースとレンタル1兆4198億円などなど。

 海外のマスコミ、例えば英エコノミスト誌は「日本人は幸運にもロボット恐怖症に束縛されていない」と感嘆する。特異な摺合せの要求されている分野だし、軍事予算のバックがないというハンデはあるにしても、日本の将来を支える分野の一つだろう。

 映画のセリフから。30年後ロボット「チッティ」は分解されて首だけが陳列されている。小学生の団体が見学に来て先生に聞く。「どうして分解されちゃったの?」ロボットが先生に代って言う。「感情を持ってしまったからだよ。」

 SF作家アイザック・アシモフの「ロボット工学三原則」①人間への安全性②命令への服従③自己保護というルールは、やはり小説の中だけで現実的でない。しかし倫理システムをどう組み込んだかは今後の大問題だろう。

 余談、恋人サナになるアイシワリヤー・ラーイの美しいこと!ミス・ワールドになったのが94年だそうで、いい年なのだろうがスタイルも含め完璧な美人。この踊りだけでもこの映画、値打ちがある。楽しいよー。

 

2012年6月 8日 (金)

映画「ミッドナイト・イン・パリ」と株価見通しパートⅡ(第626回)

映画「ミッドナイト・イン・パリ」と株価の見通しパートⅡ(第626回)

 巨匠ウッディ・アレン監督の最新作で、先日のアカデミー賞で最優秀脚本賞を獲得した秀作。

 映画脚本家で処女小説の執筆に悪戦苦闘中のギルは、婚約者イネスとその裕福な両親とともにパリを訪問中。イネスの友人とバッタリ会うが肌が合わないで一人でパリ市中をうろつく。 夜の12時にアンティークカーが前に止まり、誘われるままに乗るとパーティ。何とそこは1920年代でコール・ポーター、スコット・フィッツジェラルド、ヘミングウエイなどと会う―。ロマンチックなファンタジー映画だ。

 自分の小説の原稿を批評してもらいたいギルは、ヘミングウエイに頼むが、代わりにガートルード・スタインを紹介してもらう。そこには何とパブロ・ピカソがいて、愛人のアドリアナに一目ぼれ。ジルは婚約者とアドリアナの間でまた悩む。

 先週私は6月4日の週に株価の底が入ると予想した。また4(月)発売の東洋経済「オール投資」最新号に掲載された私の株価測でも、世界の株式市場の同時底入れ、反転を主張した。このブログを執筆している6月8日夜、まだ市場ではおっかなびっくりの向きが多いが、飛んでもない。ここは絶対に強気だ。円高もこれから円安(ドル高)に。

 これまでギリシャ危機を理由に、ユーロ離脱ハルマゲドンで売りに売りまくっていたヘッジファンドがもう弱気から180度転換する時期が来た。

 ユーロの対ドル、先物売りが、5月29日現在で20万枚を超え、記録更新。そこに、予想していた通り「ドイツの転換」が見えてきた。

 6月7日付ブルームバーグ「メルケル首相率いる与党CDUの経済審議会ラウク会長は『欧州の債務を救うための債務共有の案に同意しなくてはならないだろう』と述べ、政府内で支持が増えている」とした.ギリシャの選挙前という時期までピタリだ。

 昨年メルケル首相が否定した案だが、ドイツの野党は賛成している。有名な5賢人委員会が作ったもの。ユーロ圏諸国の金準備を裏付けとして2兆3000億ユーロ(229兆円)の基金を設立する。各国のGDP60%を超過した債務をこの基金で「共同して連帯責任を負う。

 この安が成立するのなら「リスク・オフ」シナリオはとりあえずガラガラと崩壊するのが、当然だ。

 「リスク・オン」になれば、ニューヨーク株価が先導して東京株式市場も上げ相場に転換する。

 6月4日の米国の5月雇用統計が悪かったのが底値の背景だが、失業保険の給付が5月12日に一部カットされたり、給付期間が短縮されたのが背景。これは大統領選挙を控えたオバマ政権が、6月以降の雇用改善を狙ってあえて行ったもの。7月早々の6月統計は自動車業界の積極的な雇用計画があり、かなり改善。株高材料になるのは目に見えている。

 結論。9週間続いた株安もこれから反転、3月まで8週間続いた株高の再現になるだろう。

 映画のセリフから。1920年代の良き古き時代にタイムスリップしたジルはゴーギャンやロートレックが1890年代のベルエポックを懐かしんで「昔は良かったが、現在はつらい」というのを聞いて驚く。結局、現代を生きなくてはならないことを悟る。「21世紀に生きてるんだね。」ヘッジファンドの作戦をよく読んで行動しなくては。

2012年6月 3日 (日)

「ドル高円安」で、1ドル120円も(医薬経済5月15日号)

医薬経済 2012年6月15日号

少数派経済観測 第2回

 

北米は新たなる中東になるか?

 すごいドル高の要因が出ている。前回私が「あと3,4年もしたら1ドル100円から120円」と予想したが、これでも控えめだったかな、と考えだしたくらいだ。それは「シェールガス革命」。最近いろんなマスコミが騒ぎ出したので、この言葉はご存じだろう。

 エネルギー関係の専門家で私が長らく懇意にしていただいている方がある。日本エネルギー経済研究所の十市勉(といちつとむ)さん。長らく専務理事をしておられて最近同研究所顧問になった。

 この方は2009年にすでにシェールガスのことを「21世紀最大の革命」と評価しておられた。

 最近お会いしたら、5月18日の電気新聞にお書きになったコラムを見せてくださった。このページの題の同じものを使っておられる。米シティグループのエネルギーアナリストたちの「エネルギー2020」という89ページのレポートも送っていただいた。その副題がこれだ。

 今後10年間を展望すると米国、カナダ、メキシコの北米3カ国の石油・天然ガスの生産は、2010年の日産1500万バレルから2015年に2000万バレル、2020年に2700万バレル。うち米国は2020年1560万バレルで、現在世界最大の産油国ロシア第2位のサウジを抜く。

 この大幅な生産増は米国ではシェールガスや随伴する石油、深海石油、カナダのオイルサンド、メキシコは深海石油の開発が進むためだ。

 米国は石油の輸入国から輸出国に変わる。省エネの進行で石油需要は漸減する一方、生産量が急増するためだ。すでに米国は昨年、1949年以来の石油製品の純輸出国になっているのだが。

 この結果、米国の経常収支赤字は2020年には60%も減少する。シティグループのレポートによると「長期間続いてきたドル安トレンドを反転させる大きな要因になる」。たしかにこれは大きなドル高要因に違いない。

 2015年から米国は天然ガスの輸出を解禁する。エネルギー省と連邦エネルギー規制委員会が認可するのだが、米国との間に自由貿易協定(FTA)締結が一つの条件になる。ルイジアナ州のターミナルが第一号になるがインドと韓国が輸入を許可された。

TPPが必要な理由になると考えるのだが、まだ2015年まで時間があるし、我が国が巻き返すチャンスは十分にあろう。

 話を米国経済に戻す。私が4月に訪米したとき、電力料金の大幅引き下げが話題になっていた。ボストンの電力会社で1キロワット時8・5セントから5・5セントへ34%もの引下げだった。卸売りの段階での天然ガス発電所の電力料金は3セント以下とも聞いた。我が国の10分の一である。一方、自動車ではビッグスリーが天然ガスとガソリン。ハイブリッドのトラックが発表された。石油化学も設備大増強中。

 11月の米大統領選は現状ではオバマ再選の公算大だが仮にロムニーでも、シェールガスを中心とした天然ガスを軸にした成長政策をとることは間違いない。べつに予算がかかるわけではないし。

 シティグループのレポートは2020年までの累積効果として「GDPの2・0%から3・3%。雇用者数で270万~260万人を増加させる」。

 財政収支も好転しうる。中東への依存度が低下すれば世界中の軍備を置く必要がなくなるし、軍事費は財政赤字の半分近くを占めるからだ。目先は「質への逃避」で円高だが、流れは円安、こう私は見る。

[ユーロ崩壊」に群がる投機筋(選択6月号)

選択 20126月号

 

「ユーロ崩壊」に群がる投機筋

 「本当にウマいところに目をつけた、と思うよ。リスク・オンとリスク・オフの繰り返しで、その都度ボロもうけだぜ。」

 ギリシャがユーロから脱退しようがどうしようが、本当は関係ない。世の中が騒いでくれればくれるほど、カネになる。

 こううそぶくのはある大手のヘッジファンドのマネジャー。リスク・オンとは株や商品などリスクがある資産への投資のことで、リスク・オフは危険が少ない大国の国債を買うことと考えればいい。

 たとえば519日の日経夕刊「ギリシャやスペインなど欧州の債務問題が緊迫の度を増し、マネーが安全資産の債権に逃避している」。ここ23年の間に何回、このような記事が繰り返されたか。

 具体的にはユーロ売り、ドルと円の買い、そのあとは株売り、日、米、独などの国債買い。フシ目フシ目でヘッジファンドは売り仕掛けを行って、何の材料もないのに急騰又は急落が起きる。その都度、ユーロ崩壊の緊迫度が高まる-という仕組みだ。

 たとえば514日、アジア早朝の薄商いの時間を狙ってフェイクマネーと呼ばれる短期筋がユーロを売った。対ドルレート129は、ここを切ると利益が出る「オプション・バリア」と呼ばれる大切は水準。何も材料がなかったが、4か月ぶりにユーロの対ドルレートは1.25台まで下落、短期筋は巨利を得たはずだ。

 通貨オプション取引ではストラドルといって、売りオプションと買いオプションを同数購入する。この戦略をとる投資家が多いときに、バリアの突破を行う。超高速のアルゴリズムという人間の判断を必要としない取引が、値幅を不当に大きくしている。

 為替市場のこの変動を見てマスコミはユーロ危機を「緊迫」と表現、株式市場は下落する。この繰り返しがヘッジファンドの巨利につながっている。

 米系ヘッジファンドがユーロ危機の仕掛けを開始し始めた4年前に,CIAの代理人と噂される大手シンクタンクがマル秘レポートを出した。2008年から始まっているグローバルな激動は、1989年から92年の歴史的変動と似ている、という書き出しで、欧州について次のように分析している。

 「欧州のソブリン危機は一時的に鎮静化し終息の期待が高まる時期はあるだろうが、南欧、東欧などの問題国からの資本逃避は止むどころか加速化するに違いない。」

 「主導権を持っているドイツはユーロ崩壊を狙ってはいない。本心はユーロ参加17か国の諸制度を、自国に有利な形に変革させることにある。」

 現にドイツの主導で財政赤字をGDPの0・5%以下にさせ、そのためにEUが各国の予算編成に干渉できる、という昨年10月の条約が決まった。

 ユーロは崩壊させず、時に市場の動揺を見てドイツからの財政支援で恩に着せ支配権をジワジワ広げてゆく。このドイツの思惑を読み切っているヘッジファンドがコバンザメのように利益をむさぼるー。

     ユーロ対ドル1・0が目標

 当分この関係が続く、と筆者は考えていたが、情勢が変化し、これに対応してヘッジファンドが「次」の目標の対象国と、対ドルユーロのレートを決めかけている

 まず情勢変化だが、ギリシャの総選挙の結果、躍進して第2党になったSYRIZA急進左翼連合が「アンチEU政策でもドイツはギリシャをEUから脱退させるはずがない」と主張しているからだ。

 同党の党首ツイプラス氏はまだ37歳の弁護士で、財政赤字削減反対を公約の柱にした。同時に債務の支払い猶予や銀行の国有化、労働者の権利の抑制にも反対している。

 同党は5月6日の選挙で4・6%の得票率を16・8%に伸ばし、最近の世論調査では支持率23・8%と大躍進。6月の再選挙では第一党になりそうだ。

 ギリシャの憲法では第一党にボーナス議席が50あり、23・8%の得票なら74議席である。50プラスすると124。300の定数の過半数にはまだ不足だが、同じようにアンチEUを表明している政党はほかにもある。連立政権をスタートさせることはたやすい。

 となるとギリシャはユーロ脱退と同時にドラクマを復活させる。すでに18日付英紙ザ・タイムスは、紙幣印刷専門のデ・ラ・ルー社がドラクマ印刷再開に向けて準備を開始したと、報じている。同社は英ポンド、ユーロなど150カ国以上の紙幣を印刷している。

 ドラクマはユーロ導入前のレートではユーロの60%程度、恐らくギリシャ国民は海外通貨と交換しようとするため、ドラクマの下落幅はもっと大きいだろう。当然、インフレが発生する。

 しかもギリシャにはめぼしい輸出産業はないし、社会混乱で観光収入も多くは期待できないだろう。だから世論調査では78%のギリシャ国民がユーロ脱退に反対しているのだが、政党支持は前記した通りで別物。

 金融市場への打撃はどうだろうか。ギリシャ国債については3月末で実質70%の損失を負担済みで、デフォルトが起きてもすでに民間金融機関は処理済みだから影響は少ないだろう。一方民間債務の方は債務1009億ユーロに対し対外債権は1455億ユーロ。債権のほうが債務より多いので、リクツ上はパニックは起こらない。

 にもかかわらず世界的な株安とリスク・オフつまり日、米、独の国債買い(長期金利の低下)が起きているのは、やはり米系ヘッジ・ファンドの「仕掛け」としか考えられない。5月下旬現在米国株が前年比で1%の下落なのに対し、日経平均10%、独DAX14%、英FT指数11%と有力国の株価下落の方が大きいのは、米系ヘッジファンドがシェールガス革命の威力を信じているのと、自国は売りを除外したためだろう。

 ヘッジファンドは、ギリシャがどうなろうと、目先はユーロ売りの巻き戻し。ひとやすみして、あと何か月かしたら、スペインを次の目標に狙うだろう。

 国債の格付けが変わる前にヘッジ・ファンドが重視するのは「CDSプレミアム」である。国債のデフォルトのリスクに対する保険料で、最近で最もひどい格下げが行われたのはスペイン。2010年5月にダブルB、最近Bプラスになった。ジャンク債のレベルである。

 しかも、ヘッジ・ファンドは「スペインの住宅バブル崩壊はこれからが本番」という。5月9日のバンキア銀行の一部国有化と資本注入では足りない、とも。スペインの金融システムでは住宅ローン担保証券の三分の二は「カハ」と呼ばれる貯蓄銀行が保有し、2006年の住宅バブルのピーク以来6年間で不良資産化しているが、その処理が全く進んでいない。5月17日とムーディーズがスペインの銀行16行の格付けを最大三段階引き下げたのは、仕掛けの「号報」という。ユーロの対ドルレートが「最終的には1・0」という売り目標?むしろ控えめなものかもしれない。

 

映画「スパルタカス」と株価に見通し(第625回)

映画「スパルタカス」と株価の見通し(第625回)

 最近TV映画でも同名のシリーズがヒットしたが、映画は名匠スタンリー・キューブリックの1960年の名作。カーク・ダグラスが製作兼主演でローレンス・オリヴィエ、チャールズ・ロートン、ピーター・ユスティノフ、ジーン・シモンズなど重厚なキャスティングだった。脚本はローマの休日を書いたダルトン・トランボで大迫力のある反抗精神に満ちた史劇になった。

 舞台は紀元前3世紀のローマ。スパルタカスは奴隷でツラ構えを見込まれて剣闘士として養成されるが、貴族の慰みのためだけに生死を賭けた試合をさせられ、ほかの剣闘士とともに逃亡。反乱を起こしてローマと戦う。始めは連戦連勝。スパルタカスは「奴隷にとって、死が唯一の自由だ。奴隷は死を恐れない。だから我々は勝つ。」と言う。

 失うものがない人間は強い。相場でもこれ以上下がる余地がなくなると、あとは上がるしかなくなる。恐らく今週中(6月4日以降)に底が入ると考えている。

 なぜか。日経平均の週間ベースでの続落記録が6月1日現在で9週間に及んだ。これまでの記録は第1位が10週で1975年7月から9月。9週は第2位で1992年3月から5月まで続いた。今回は第2位タイ。

 たしかに①ギリシャのユーロ脱退やスペイン国債利回り上昇②中国の成長率鈍化③米国の就労統計など、売り材料が続いた。6月1日のNYダウは200ドルを超える大幅下落で6月4日(月)の東京株式市場の下げは不可避だろうが、そうそう毎週毎週下げ続けるわけではなかろう。

 私のシナリオは、やはりギリシャの選挙。80%近い国民がユーロ脱退を望んでいないし、緊縮予算容認派が支持率を上げている。一方ユーロ共同債について、選挙直前にドイツの要人が一言いえば―という期待は十分にありうる。

 いまの世界の株式市場は「リスク・オフ」の投資作戦で一斉下落だが、と問えば日経平均は1月から3月まで10週連続して週足は陽線でこれは新記録だった。いったん「リスク・オン」に変われば同じような展開があろう。

 日本株買い、円売りの投資作戦を新年早々に発表したゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長は6月1日付で「まだ過去の金融危機時と比較するともう少し問題国の株価はまだもう少し下値がある」という予測を発表した。同時に「危機のあとすべての株式市場は急回復し、1年間で最安値から100%上昇した」とも。欧州経済は今後数年間で大きく持ち直す可能性は低いと指摘はしているが、つれ安つまり欧州危機が材料で売られた地域は別だろう。

 先週もこのブログで述べたとおり、PERは10倍そこそこ、PBRは0・8倍台ともう下値は知れている。

 恐らく反転は為替市場から始まるだろう。ユーロの先物売りは17万枚を大きく超える空前の水準。これが買い戻しに入るのは時間の問題だ。

 映画の終盤、スパルタカス率いる反乱軍は海路でのイタリア半島脱出が不可能になり、ローマ軍と正面対決、衆寡敵せずで敗戦を覚悟する。そこでスパルタカスが言う。「俺たちは負ける。でもきっと後に続くものが出てくる。」「声をあげなくちゃだめだ。一人が声を、上げたからローマが恐れる。」私は一人で強気を言っているが、ここはひかない。まだこの原稿を書いている現在の8400円台よりは下値はあるだろうが、下げ幅は知れていると確信する。

 

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