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2014年8月31日 (日)

映画「LUCY」と内閣改造と株価(第738回)

映画「LUCY」と内閣改造と株価(第738回)

 リュック・ベッソン監督でスカーレット・ヨハンソン主演というだけで観たくなるが、まあ前代未聞の怪作だった。ベッソン式「2001年宇宙の旅」かも。

 

 人間は脳の10%しか使っていないそうな。ところが妊婦が赤ちゃんに与えるあるホルモンを大量に注入すると、脳が覚醒し始める。

主人公ルーシーは台北を訪れていたが韓国マフィアの手に落ちて強力な麻薬を、運ぶため体内に埋め込まれる。ルーシーの能力が高まるにつれてアクションもどんどん壮大になってゆく。

 

 9月3日に安倍首相は内閣改造を行う。TVは石破幹事長の処遇でもちきりだし、次の大テーマは地方創生だから担当大臣に起用するのは、ご本人にとってもいいのではないか。

 

 政界通の歳川隆雄さんが、石破氏が8月26日に菅官房長官と会談、そこで年内、それも早期に衆院解散・総選挙が示唆されたのがキメ手というか、ブラフになった、と書いている。それなら納得できる。

 

 歳川さんによると「最速で9月29日、遅くとも10月6日が臨時国会召集日。例えば10月3日に招集して冒頭解散を行えば11月9日が開票日。これだと野党は準備もないし大敗。自民党は294議席をもっともっと増やせる。来年9月の自民党総裁選は無投票再選で安倍長期政権が決まる。安倍首相は11月9日が先勝と知っていた、とか。

 

 11月10日はAPEC首脳会議(北京)、11月15日は豪ブリスベーンでG20サミット。何よりも米国中間選挙後の米国とTPP交渉を再開できる。たしかにこの「11月9日衆院選説」は十二分にあり得る情報だ。

 

 新内閣で実力を誇示しながら日中首脳会談、国内では岩盤規制のひとつの「農協法から全中の規定を削除し中央会は現在の姿では存続しない(6月24日安倍総理発言)」が現実化への一歩を進める。石破氏は農相を兼任するかも。

 

 映画でルーシーが能力を急膨張させてゆくように、安倍政権は今回の内閣改造でアベノミクスの本格化を賭けようとしている。

 

 私は8月29日東京ビッグサイトで竹中平蔵さんの講演を伺った。特に第三の矢の成長戦略が長期投資の外国の一流機関投資家が評価していない、とし①農業②医療の既存権益の保持が成長戦略を妨げている、としていた。

 竹中さんは安倍内閣の方向は①地方の重視②女性の登用の二つを挙げた。

 同じ日の運用担当者のパネルディスカッションでは「2035年まで生産労働人口は年間53万人減少し、年当たりGDPを0・5%押し下げる。しかし、女性と老齢労働者を活用すれば生産労働人口の減少は年17万人に止まる。これくらいなら少しの移民とロボット活用で何とかなる」と。やはりロボット関連は買いだろう。

 

 先日私の講演会で質問があったので「CYBEDDYE(東マ7779)はまだ今期も赤字で少し高い。安川電機(6506)の方が魅力的」とした。この意見は変わらない。

 

 農業の近代化関連では日本農薬(4997)が外国人機関投資家も注目しているし、長期見通しも悪くない。ここいらを安い日に狙う、という作戦が、ここ当分はいいのではないだろうか。

 

 さて、今週の結論。解散総選挙が近ければ、東京株式市場は私の経験からは、当分上がらない。投票の結果を見てから上がるのが普通だ。もちろん敗北すれば下がるが、まあ現在の野党の様子を見れば、大丈夫だろう。

 

 映画のセリフから。ルーシーが言う。「私の頭脳活用の比率が上がっていけばいくほど、私の人間性が失われてゆく」。権力を集中させ長期政権化した安倍首相が長期の日本の課題にカタキ役になり、ひどいことを言われても通すことは大事だ。

 たとえば収入のある人に年金を受け取る権利を返上させること。だれかがガマンしないと「2020年までに財政問題を解決する」なんて絵空事だ。誰かが言い出さなくては。

2014年8月24日 (日)

映画「プロミスト・ランド」とシェール革命とNY株(第37回)

映画「プロミスト・ランド」とシェール革命とNY株(第737回)

 今週は時間をあかせて5本。試写会で話題の「LUCY」、アクションの「バトルフロント」、インド映画で女性客で超満員の「マダム・イン・ニューヨーク」、海老蔵の「喰女クイメ」そして「プロミスト・ランド」。

 

 日比谷シャンテに朝一番の上映の40分前に行ったが売り切れで、午後2時15分。そこで「喰女」。四谷怪談で海老蔵の色悪(シキアク)ぶりがなかなかすごい。これにしようかと思ったがやはり「プロミス」は5月に採掘現場を視察したピッツバーグ近郊にロケしたらしく見覚えのある風景が撮られている。やはり、これにしよう。

 

 97年の「グッド・ウイル・ハンティング/旅立ち」で大成功したガス・ヴァン・サント監督と主演マット・デイモンの作品。一昨年12月に米国で公開されたがあまり当たらなくて、昨年3月にNYでは観そこなった。さすが一流監督作品でよくまとまっている。一見をお勧めする。

 

 主人公は大手エネルギー会社のエリート社員でシェールガスの埋蔵地に行き、農場主から掘削権を借り上げるのが仕事。パートナーと二人で小さな田舎町に行く。農場主たちからは歓迎される。しかし町全体の集会では元ボーイングの技術者で工学博士の老人から、環境に与える影響に十分な検証がないと指摘され、数週間後の住民投票で採掘の賛否が決まることに。

 

 ニュースを聞きつけて環境活動家が乗り込んできて、シェールガス採掘が危ないと宣伝する。ネタバレになるがこの活動家の反対がいかにも一見したところ本当らしく見えるが、私が見るとウソだらけ。しかし形勢は主人公に圧倒的に不利。そこで町にとり巨額の収入がいかに有利かの宣伝のイベントを計画するが、大嵐で中止。そこに環境運動家に関する疑惑の資料が届く。驚愕の内容。

 

 シェールガス革命は私の見るところもう止まらない。バーレル90ドル台の原油を使うよりバーレル当たり換算24ドルのシェールガスのほうがいかに有利か。しかもCO2は少ない。

 効果は大きい。財政収支が大幅に改善していることは先週も述べたし、貿易収支も同じ。これがドル高と米国長期金利の低位安定につながっている。米国にとっていいことばかりだ。

 

 問題はFRBイエレン議長の言う通り労働市場に十分な回復が見られていないことだ。

 たしかに失業率はリーマン・ショック後の96%が、6%近辺まで改善した。

 

 しかし「労働力率」が問題だ。生産年齢人口に占める就業者と働く意欲のある求職者の比率だが、少しもよくなっていないで、ひところ70%台が63%に。

 失業率低下と労働力率の低下。不思議に思えるが米国シンクタンクのビュー・リサーチ・センターの調査を見て疑問が氷解した。専業主婦層が1999年以来上昇し続けているからである。

 18歳以下の子供を持つ米国既婚女性のうち専業主婦の比率は次の通り。

 1970年   47%

 1999年   23%

 2008年   26%

 2012年   29%

70年の47%は40%が夫が働き7%がシングルマザー。2012年は夫の就業が20%で9%がシングルマザーだ。(ちなみに日本は2013年専業主婦41%)。

 これではイエレン議長が「労働市場に多大なスラック(緩み、つまり余剰労働力)がある」と強調するのも当然だ。常用労働者の実質週給は2008年の335ドル→2013333ドルと弱含み。

 

 もっとも8月13日に発表された求人と労働移動調査(セントルイス連銀調査)では6月末時点で467万1000人の求人があり、2001年2月以来の最高水準。またより良い職を求めて自発的に会社を辞める労働者も253万人と2008目㎜5月以来の最高水準に達した。

 

 さて、こうした状況を踏まえてNY株式市場をどう見るか、8月20日にNYダウの日足は一目均衡表の「雲」の上限を抜けた。前記のセントルイス連銀の発表を受けたものだろう。

 

 私は秋の米国議会再開と11月4日の中間選挙が、オバマ政権への大打撃になるとみているから、大勢としては弱気。それでも調整前の最後の高値更新または7月27日の高値1万7151ドルのダブルトップになる可能性は否定しない。株高の背後にある米国経済の予想以上の好転が見えて来たからだ。それを政治がブチ壊す、というシナリオだ。

 円レートの方は、ようやく101~102円の永い膠着相場を円安に振れてきた。円安でなくドル高と表現した方がいい。ドル対ユーロでもドル高だし。1月2日の105円44銭をいずれ抜くだろう。

 

 日本の株?金融庁のEDINETを見ていたらJPモルガンが三井住友建設(1821)を発行済み株式の5・86%を、またアイフル(8515)を5・41%購入している。いけそうな銘柄だ。

 

 映画のセリフから。NYで主人公は昇進のための面接を幹部二人から受ける。主人公に幹部が初対面なので云う「ブオトコ(醜男)と聞いていたんだがね」。もちろんジョーク。ところが遅れてきたもう一人の幹部も開口一番、全く同じジョーク。映画の言いたかったのは、大企業の経営者は誰も」同じような人物という皮肉だろう。私はいつも少数派でソンばかりしているが。

2014年8月17日 (日)

映画「るろうに剣心 京都大火篇」と景気の見方とNY(736回)

映画「るろうに剣心/京都大火篇」と景気の見方とNY(第736回)

 大ヒットした前作に続いての続編。佐藤健が人斬り抜刀斎こと緋村剣心に。時代は明治で、かつての自分の立場を継いだ凶暴な男の志志雄真実(藤原竜也)を阻止させるよう、政府から依頼される。

 

 剣心の名セリフに「剣は凶器、剣術は殺人術。どんな綺麗ごとやお題目を口にしてもそれが真実」。

 景気というと、いろんな人がいろんな見通しを言うから素人にはわからない。マスコミも同じ。だから弱気の見通しの方が常に歓迎される。強気の見通しを書くときも末尾にはリスクを必ず挙げる。「剣は凶器」なんてズバリ言う人は歓迎されない。

 

 ところが三菱モルガン・スタンレー証券景気循環研究所長の嶋中雄二さんは違う。ズバリと見通しを言う。それで間違わない。的中率の最も高い人。だから私は信用する。

 

 8月5日付の嶋中さんの「猛暑の夏から再び上向く日本の景気」をご紹介する。

 4~6月期GDPのマイナス6・8%の発表後のマスコミの大騒ぎと景気悪化説を一蹴している。

 「前期比年率7・9%の大幅な伸びとなり、2014年度上半期の実質成長率は0・4%」。

 理由は前期、前前期の大幅な変動を受けての「反動の反動」の要素に加え、経済対策と夏のボーナス効果が発現する。

 要するに4月の増税による景気押し下げは6月で終わり、7月から上向くと嶋中さんは見ている。

 

 弱気説のこれまで主張してきた「輸出量は円安でも伸びていない」の方は輸出数量指数が12か月移動平均で2013年2月の90・51と回復傾向。もうJカーブ効果は消えた、といわれたが、電機の4~6月期決算の好調は、やはり円安によるJカーブ効果は存在し、今後の効果拡大を示唆している。

 まあ難しいことを言わなくても橋本政権時の失敗を安倍政権はよく研究しているから、増税によるマイナス効果は軽いと思う。

 

 では株式市場の方は。買い材料の方は北朝鮮からの拉致被害者を安倍総理が連れて帰る日。売り材料は米国ワシントンのオバマ大統領弾劾、この強弱材料の引っ張り合いで決まる。

 

 私は米国の方は、ニクソン弾劾を覚えている人たちが経営の中心にいるから、戻れば必ず売れというと思う。手持ちを早く手放したい、と思うだろうから。

 日本の方は違う。これからオリンピック特需が始まるし、買う材料は次から次へと出てくる。株式市場を見ていても騰落レシオは底を打っているし。GPIFの買いが明年から始まる。

 それでもヘッジファンドの日経225先物を使ったプレイは見受けられる。信託銀行の買いが月末に入るので、その近辺で高値での大量の先物売りで値幅を取る作戦だ。ほんの何日かだが、乱高下する日もあるので注意したい。

 

 9月8日から米国議会が夏休み明けで再開される。11月4日の中間選挙を控えて実働日数20日ないので、ベンガジゲート問題が騒ぎになるのは9月中はあるまい。本当の騒ぎは、11月中旬以降。ただしその時には移民法による不法入国者恩赦問題を含めてダブルでのオバマ叩きになるだろう。

 共和党は2016年をサンドバッグのように叩かれっ放しのオバマで大統領選を戦う方を願うか、バイデン昇格で(きわめて不人気)これと戦うか、二つにひとつをとるだろう。茶会派とエスタブリッシュメントつまり保守本流のどちらが勝つか。現時点では保守回帰になりそうなので、弾劾・バイデンを選択しそうだが。CNNの最近の世論調査では米国民の33%が弾劾裁判・辞任を望んでいる。(ニクソン当時は29%)。

 

 剣心がたたき折られた刀の代わりの名刀に刻まれている歌「我を切り刀鍛えて幾星霜 子に恨まれんとも孫の世の為」。剣心も言う「死んだ者が望むのは敵討ちでなく、生きているものの幸福でござる」。米国の政治を見ていると長い目で見た国益を政党人が考えているのかどうか。私には不安でならないが。

2014年8月 9日 (土)

2014年8月号「選択」 オバマ暴落とQEⅢ

選択」2014年8月号原稿

NY市場「オバマ暴落」近しーQEⅢ終了で弾けるバブルー

今井澂

 「何しろオバマは戦後最悪、最低の大統領と、世論が、今や大声で言い出した。国内問題でも国際的問題でも、米国現政権が何もできないと、どんな事件が勃発するかわかったもんじゃない。そこに1987年のブラックマンデー級の下げがあれば、まあ世の中は“オバマ暴落”と呼ぶだろうね。」

 問題は「いつバブルが破裂するのか」だけだというこの人は有力ヘッジファンドの運用担当者。

これまでの運用成績は?と聞くと「実は市場平均に負けた」。

 半分以上の大手ヘッジファンドは年前半、運用に失敗している。大寒波による米国経済の躓き、ウクライナなど悪材料続出にもかかわらず、シェールガス革命の影響や米国企業の積極的な自社株買い、それにもちろんQEⅢによる充分は資金供給の寄与がNYダウは1万7000ドル、S&P500は2000ポイント寸前まで上昇した。売り中心のファンドに利益が出るはずがない。

 しかし、早ければこの8月が転機になり、上昇相場に変調が来る。こう見て手ぐすね引いている投機筋は多い。

 理由の第一は、例えば有力な市場のオピニオン。リーダーの弱気転換。たとえばPIMCOの債券王ビル・グロス氏で7月初めには米国株はバブルではない、と主張していたが、7月下旬に「10月末に予定されるQE3」の終了が、8月に株式市場の波乱を引き起こすかもしれない」とした。

 またゴールドマン・サックスもほぼ同時に大手顧客へのレターで「現時点のNYかアブは30から40%割高。2014年末のS&P500の目標値をこれまでの2050から1900に引き下げる」と述べた。

 さらにイエール大学のロバート・シラー教授は過去10年のPER平均の17倍の適正地に比べて、独自の算出方法で現時点は26倍。バブルの判定25倍を上回っている」と警告した。

 従前から暴落を主張し続けてきた著名投資家マーク・ファーバー氏の「(11日で25%も下落した1987年のブラック・マンデーを上回る」としている。氏は破滅博士(ドクター・ドゥーム)と呼ばれている弱気筋の代表格だが「過去2年間NY株はほぼ1本調子上昇を続け、11%を超える大きな調整はなかった。次の下げは極めて悲惨なものになる」とCNBCで述べた。

 そのきっかけは、やはりオバマ政権の無力化が引き起こす国内外の問題点。原油価格上昇も、と。

 第二の「変調」予測の背景は、何といってもQEⅢの終了時期が迫っていることだ。

 8月下旬には避暑地ジャクソンホールにFRBを含め世界の中央銀行総裁会議があり、当然イエレンFRB議長も記者会見を行う。また9月にはFOMCが開催され10月のテイパリング終了に向けて地ならしが始まる。これで当初850億ドル、現在350億ドルの債券の購入は10月にはゼロになる。

 もちろんイエレン議長が、市場にネガティブな結果を導くとは考えられない。これまでの株価上昇はFRBは米国経済の順調な拡大を見極めてからテイパリング後の展開を行うだろうという市場の信頼感があった。イエレン議長の方も自分のハト派的なイメージに乗ったソフトな説明を続けている。

 「それでもテイパリング完了、利上げ見当が始まれば、FRBは市場から流動性の吸収が必要。利上げの効果が出ないからね。」

 たしかにこのファンドマネジャーの言う通り、恐らく来年にはFRBは利上げの前に民間金融機関がFRBに亜づけている2兆6000億ドルもの超過準備を吸い上げる。いわば「金欠」の受胎にしないと利上げは出来ない。

 では一気に巨額な流動性吸い上げのため、FRBが自分で保有する国債や資産担保証券を市場に売却できるか。出来はしない。長期金利は急伸、株価は暴落し影響が大きすぎる。

 資産を徐々に減らし、超過準備が余り減らせない中で利上げが可能な方法が、ひそかにFRB内部で三つ検討されている。「まあ三つ併用でも開始されれば株安だがね。発動は9月か10月が最も早い線だろう」。

 その三つの第一はリバース・レポ。市場の資金を吸い上げるためFRBが保有する債権を市場に貸し出す。これだと長期金利の上昇への影響は極めて軽度。これにターム・デポという第二の方法を併用する。

 これは現在民間金融機関がFRBに当座預金(金利ゼロ)の形で預けられている準備預金を定期預金(金利は付く)にしてすぐに引き出せないようにする。この方法の難点はFRBの民間金融機関への利益供与といった批判が出やすいこと。従って付与する金利に制限がつく。

 この二つに合わせて第三の方法が取られる。それは「逆ツイスト・オペ」。これまでfrbは短期国債を売却して長期国債を買うツイスト・オペを推進しておりFRBの手持債券は満期の長いものに偏っているので、平準化をはかる。

 「FRBはこの三つの手法で利上げをはかる。さもないと景気拡大で銀行は巨大な準備預金を貸し出しに回し、結局インフレ再燃につながる」と別のFEDウオッチャーが言う。

 しかし、ヘッジファンドの運用担当者が手ぐすね引いているのは、やはり市場の混乱必至と見ているからだ。

 現在NY市場は金融緩和が行き過ぎTも過度のリスクテックが一部で起きている。これはFR備エレン議長も警告している通りだ。

 本来なら質的に不安のあるジャンク・ボンドや、つい先年まで財政危機で金利が急騰していた南欧諸国の国債が明らかにバブルと言われても仕方ないほどの低水準にある。もちろん株式市場でも同じでNYダウが新高値を更新しているのは周知の事実である。

 にもかかわらず市場のボラティリティ指数VIXは市場がリスクに対する恐怖心をどの程度持っているかを示すものだが、」リーマン・ショック直前のいわばバブル期並みに低下している。その前提は、長期間ゼロ金利つまり超金融緩和が続くという市場の確信だ。それがQEⅢの終了時期接近で揺らぐ瞬間、NY株式市場は「オバマ暴落」を起こすだろう。これが投機筋の、これまた「確信」である。

 筆者がワシントンでのある情報筋に聞いたところでは「オバマ大統領が内政、外交にわたり“漂流”し始めたとする見方が広まっている。レトリックと政治的得点優先で、現実的でなく賢明でもない。6月には大手大学の「オバマ氏は戦後最悪の大統領」という世論調査が出た。

 主要政策別にみると不支持率が支持率より高い。外交は不支持率57%支持率37%、経済55%・40%、医療保険58%・40%、テロ対策51%・40%である。何かのきっかけで株式市場が政治不信を織り込み始めるかもしれない。

 NYダウの下げはどの程度だろうか。前記したゴールドマン・サックスは少なくとも30%を示唆している。時期だけが問題、というべきか。

「クロイツェル・ソナタ」と超低金利トNYダウの行方(第735回)

「クロイツエル・ソナタ」と超低金利とNYダウの行方(第735回)

 「クロイツエル・ソナタ」はベートーヴェンの10曲あるヴァイオリン・ソナタの9番目で最も有名だ。私は1962年録音のオイストラッフとオボーリンのCDが一番好きだ。

 

 献呈されたフランス人のヴァイオリニストの名をドイツ語読みにしてこの名がある。1803年のウィーンでの初演の時、ベートーヴェンがピアノで主役のヴァイオリンは白人と黒人の混血の青年ブリッジタワーが演奏。作曲者は「ソナタ・ムラティッカ」つまり混血といい名を初め付けていた、とか。ところが二人はケンカして現在の名になったらしい。理由は分からない。

 私は第一楽章のプレストを聞くと、いつでも興奮する。ブラームス交響曲第一番第四楽章の終わりでも昂奮するがこれは異質。何か異様なものだ。ある音楽の専門家が戦前、西洋音楽を聞いたことのないモンゴル人にいくつか聞かせて感想を聞いたら、欲望を感じさせる、といったという。たしかに何かデモニッシュな感じ、昂奮だ。

 

 「トルストイがこの曲の引き起こす「恐ろしい効果」で妻を殺してしまう男のことを書いたのは1891年。さすがトルストイでこれも恐ろしい小説になっている。

 

 「NYダウの暴落」というコワーい予測は、アナリストにとりまことに魅力的なテーマだ。歴史的な高値更新という事実は、一段と食欲をそそる。ちょうどクロイツエル・ソナタの第一楽章の引き起こす昂奮のように。

 

 理由はヤマほどある。このコラムで指摘してきた米国政治とか中間選挙の年のジンクスのほか①QEⅢの終了時期接近②ジャンク・ボンド市場の下落開始Ⅲ株価上昇そのもので自社株買いによるもの、という見方、などなど。また有力な市場オピニオン・リーダーの弱気転換もある(「選択」2014年8月号)。

 

 しかし私は現実には10%を少し超える程度の下げで「暴落」とは見ていない。理由は米国の長期金利の低位安定だ。

 

 SMBC日興証券のチーフエコノミスト牧野潤一さんが明快に説明している。まとめてみよう。

 海外からの米国債への資金流入は年率3000億ドル。中国は元売りドル買いを行っているし、ECBの追加緩和はドル資産への魅力を高めている。日本の10年もの国債金利はわずか0・5%だ。(米国10年債の2・5%)。

 要するに海外からの米国債買いはファンダメンタルズに沿ったもので長期に持続する。

 

 それ以上に米国の連邦財政収支の改善で、需給がタイトである。

 現在の財政収支は年率2210億ドルの赤字。しかし議会予算局(CBO)の予想値より2700億ドル少ない。

 テイパリングによるFRBの国債購入減少は需給の悪化要因だ。しかし買入れ減少額は年率400億ドル。

 結論。海外勢の3000億ドル+財政収支改善2700億ドル計5700億ドルの需給改善マイナス400億ドル。米国長期債の低金利は、こうして継続される。

 

 私は7月17日の1万7150ドルは年内高値とは思うが、大天井ではないと思う。恐らく市場参加者の99%が2万ドル達成を確信するときに1万9000ドル台で終わりになる。理由はないが、私の相場カンだ。

 

 シェール革命の進行で米国景気は次第に好転してゆく。しかし長期金利は経験的に暴落のきっかけになる3・3%にはほど遠い低位安定。企業収益には好環境だ。

 加えてイエレンFRB議長は少々異常とも思われる労働市場への思い入れがある。名目賃金の上昇率が現在の2%から3%にならないとゼロ金利解消はないだろう。イエレン・バブルとNY株価の再上昇を必至と見る所以だ。(このイエレン議長の件はいずれ、また)。

 

 これはもちろん日本株にも好影響を与える。 ごく目先的には鉱工行生産指数のダウンで弱気筋はやれ追加緩和とか補正予算とか言い出すだろうが、株価に大きな打撃はこれまでもなかったし、今後も知れている。この株価下落はあくまでもNYへのお付き合いだろう。

 

 トルストイの「クロイツエル・ソナタ」の殺人犯の告白。「あの最初の楽章のプレスト。あれは恐ろしい作品です。音楽は魂を高める作用をするなんて言われていますが、ウソです。恐ろしい効果を発揮し、魂をいらだたせる作用があるんです」。株安は人の神経をイラ立たせるが、NYと東京とは違う。そこいらは間違えないようにしたい。

2014年8月 3日 (日)

映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と米政局((第734回)

映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と容易でない米国政局 (第734回)

 この夏のSFアクションものでは恐らく最高の出来で興行収入もまずまず。トム・クルーズ主演で原作は日本のライトノベルだがストーリーはビジュアルもほとんど映画オリジナルだ。

 

 近未来。異生物による侵略をうけた人類は苦戦中。軍の広報を担当していたケイジ少佐(トム・クルーズ)まで前線に送られ、すぐ戦死してしまうが、死んだ瞬間出撃の前日にタイムリープする。

 記憶はあるからケイジの戦闘能力はどんどん上がってゆく。

 武力で圧倒されている人類軍だが反撃の希望が湧いてくる。最強の女兵士リタに自分の能力を信じてもらい、味方につける。

 

 何十回もリープして戦闘を繰り返すリセット。私は政治の世界を思い出した。この世界は繰り返しだから。

 

 8月1日まで、4日続落でNYダウは年初からの上げを帳消しにするほど下げた。

 

 新聞の解説では「7月の雇用統計が20万9000人と市場予想の23万3000人を下回ったから」としているが、6か月連続で20万人を上回る水準は雇用情勢の堅調を物語る。

 

 やはり7月30日、米国下院がオバマ大統領への提訴を225対201で可決したことが大きいのでは。その理由は後述するが、オバマ政権の違法移民国内ばらまき政策が意識にある。長期投資の機関投資家は、弾劾まで読む。25日CNNの世論調査は米国民の33%が弾劾裁判による辞任を「すべき」と考えていると報じた。これが本当の悪材料だろう。これからずうっとワシントンの政治混乱は続く。これが株価にいいわけがない。

 

 その前に当面のスケジュールを。夏季休会は8月1日から38日間で、9月8日に再開し、中間選挙の通例で10月初めに散会。1か月の間の実働は15日足らず。従って提訴はあるか、どうか。

 11月4日の中間選挙では上院の改選が問題で、改選議席数は民主党21、共和党15。6議席を共和党が獲得すると上下両院で過半を押さえる。恐らくそうなるだろう。

 

 先週私はベンガジゲート問題を書いたが、このスケジュールでは、弾刻に結局最後にはつながるにしても、目先すぐには動きはあるまい。むしろ問題は違法移民問題での大統領権力乱用で、7月30日の下院決議はこの方が重視されている。米国のTVも報道しているし。

 

 メキシコとアメリカの国境から大量に流入している未成年の違法移民を、まず国境付近の収容所に保護した後、集団でバスや飛行機に乗せ全米の学校、軍基地、教会に輸送している。特に身元調査や健康診断はしない。

 問題なのは、地元の住民、知事など政治家にオバマ政権は一切事前通告をしていないことだ。

 この未成年の違法移民は今年に入って3万人、連邦政府は一人250~1000ドルかけている。かなりな経費だ。

 

 どうしてこんなメチャメチャなことがまかり通っているのか。昨年7月に成立した「ゾーニング法」が曲者だ。住宅や商店の建設を規制する法律だが昨年「人権差別しない」という条項が加わった。これで連邦政府は一部の人種が少ないと判断したら、その地域に移民を送り込める。

 

 しかも違法移民に永住権を与えるという大きな恩赦をオバマ政権は考慮し、政治上の大問題になっている。

 余談だが下院の共和党リーダーのエリック・カンター議員が、次回選挙の共和党予備選でうっかり恩赦に賛成と述べたら落選してしまった。(ブログの「苺畑」による)。世論調査では米国民は恩赦反対が賛成を上回っている。

 

 私が7月26日の講演会で「NY株はベンガジゲートを含めてワシントン情勢あるいはオバマ政権の失政で当分は安い」と述べたら、すぐ主催のある通信社が「日本の新聞、TVでは全くいわれていませんが」、と怪訝な顔をしていた。私は「ワシントンの駐在記者がサボってるんでしょ」。

 

 NYダウは私の新著「2014-2015 日本経済逆転のシナリオ」で予想した通り下落に転じた。

 

 ただ一部の方々が期待(?)しているような大暴落とは思わない。米国債10年物金利が低水準のままだし、警戒論もかなり強かった。こんな時に暴落つまり短期での20%以上の下げは起きないものだ。まあ10%より上だろうが。

 

 日本株の方はNY安におつきあいしたが、基調は強い。米国株は中間選挙の年は年末安のジンクス通り年央高値で今後下げ歩調。日本は上がるので、×の字型になるのではないか。

 

 ジンクスだけでなく売り材料もある。銀証分離法案の成立がウォール街では強く懸念され、投資銀行業務の売却準備が進行していると聞く。来年7月には銀行のヘッジファンドへの投資も融資も禁止される。表面に出ない、しかし大量の売りが、どこかに出ているはずだ。

 

 日本株でいいもの?このコラムでリース業界への注目を書いたし、シェール革命に絡んだ日本企業では講演会で信越化学をすすめしている。

 

 映画のセリフから。リタが言う。「あなたのことを、私は何も聞いていなかったわね」。報道されていない情報は情報ではない、ということなのかなあ。私にはわかるんだけど。

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