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2014年8月 9日 (土)

「クロイツェル・ソナタ」と超低金利トNYダウの行方(第735回)

「クロイツエル・ソナタ」と超低金利とNYダウの行方(第735回)

 「クロイツエル・ソナタ」はベートーヴェンの10曲あるヴァイオリン・ソナタの9番目で最も有名だ。私は1962年録音のオイストラッフとオボーリンのCDが一番好きだ。

 

 献呈されたフランス人のヴァイオリニストの名をドイツ語読みにしてこの名がある。1803年のウィーンでの初演の時、ベートーヴェンがピアノで主役のヴァイオリンは白人と黒人の混血の青年ブリッジタワーが演奏。作曲者は「ソナタ・ムラティッカ」つまり混血といい名を初め付けていた、とか。ところが二人はケンカして現在の名になったらしい。理由は分からない。

 私は第一楽章のプレストを聞くと、いつでも興奮する。ブラームス交響曲第一番第四楽章の終わりでも昂奮するがこれは異質。何か異様なものだ。ある音楽の専門家が戦前、西洋音楽を聞いたことのないモンゴル人にいくつか聞かせて感想を聞いたら、欲望を感じさせる、といったという。たしかに何かデモニッシュな感じ、昂奮だ。

 

 「トルストイがこの曲の引き起こす「恐ろしい効果」で妻を殺してしまう男のことを書いたのは1891年。さすがトルストイでこれも恐ろしい小説になっている。

 

 「NYダウの暴落」というコワーい予測は、アナリストにとりまことに魅力的なテーマだ。歴史的な高値更新という事実は、一段と食欲をそそる。ちょうどクロイツエル・ソナタの第一楽章の引き起こす昂奮のように。

 

 理由はヤマほどある。このコラムで指摘してきた米国政治とか中間選挙の年のジンクスのほか①QEⅢの終了時期接近②ジャンク・ボンド市場の下落開始Ⅲ株価上昇そのもので自社株買いによるもの、という見方、などなど。また有力な市場オピニオン・リーダーの弱気転換もある(「選択」2014年8月号)。

 

 しかし私は現実には10%を少し超える程度の下げで「暴落」とは見ていない。理由は米国の長期金利の低位安定だ。

 

 SMBC日興証券のチーフエコノミスト牧野潤一さんが明快に説明している。まとめてみよう。

 海外からの米国債への資金流入は年率3000億ドル。中国は元売りドル買いを行っているし、ECBの追加緩和はドル資産への魅力を高めている。日本の10年もの国債金利はわずか0・5%だ。(米国10年債の2・5%)。

 要するに海外からの米国債買いはファンダメンタルズに沿ったもので長期に持続する。

 

 それ以上に米国の連邦財政収支の改善で、需給がタイトである。

 現在の財政収支は年率2210億ドルの赤字。しかし議会予算局(CBO)の予想値より2700億ドル少ない。

 テイパリングによるFRBの国債購入減少は需給の悪化要因だ。しかし買入れ減少額は年率400億ドル。

 結論。海外勢の3000億ドル+財政収支改善2700億ドル計5700億ドルの需給改善マイナス400億ドル。米国長期債の低金利は、こうして継続される。

 

 私は7月17日の1万7150ドルは年内高値とは思うが、大天井ではないと思う。恐らく市場参加者の99%が2万ドル達成を確信するときに1万9000ドル台で終わりになる。理由はないが、私の相場カンだ。

 

 シェール革命の進行で米国景気は次第に好転してゆく。しかし長期金利は経験的に暴落のきっかけになる3・3%にはほど遠い低位安定。企業収益には好環境だ。

 加えてイエレンFRB議長は少々異常とも思われる労働市場への思い入れがある。名目賃金の上昇率が現在の2%から3%にならないとゼロ金利解消はないだろう。イエレン・バブルとNY株価の再上昇を必至と見る所以だ。(このイエレン議長の件はいずれ、また)。

 

 これはもちろん日本株にも好影響を与える。 ごく目先的には鉱工行生産指数のダウンで弱気筋はやれ追加緩和とか補正予算とか言い出すだろうが、株価に大きな打撃はこれまでもなかったし、今後も知れている。この株価下落はあくまでもNYへのお付き合いだろう。

 

 トルストイの「クロイツエル・ソナタ」の殺人犯の告白。「あの最初の楽章のプレスト。あれは恐ろしい作品です。音楽は魂を高める作用をするなんて言われていますが、ウソです。恐ろしい効果を発揮し、魂をいらだたせる作用があるんです」。株安は人の神経をイラ立たせるが、NYと東京とは違う。そこいらは間違えないようにしたい。

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