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2014年9月 4日 (木)

「選択」2014年9月号オバマ弾劾

「選択」2014年9月号

オバマ「弾劾」の現実味

「ベンガジゲート」暴落に備える投機筋

今井澂

 

 「オバマ政権は弾劾問題が大きな騒ぎになればなるほど選挙に有利と、誤認しているんじゃないの?確かにモニカ・ルインスキー問題でクリントンが弾劾された時、98年の支持率は上昇したし、下院議席を五つ増やした。しかし今回はリビア領事を含め四人が死んでいるんだぜ。」

 7月下旬になってミシェル大統領夫人を皮切りにホワイトハウスが一斉に弾劾の恐怖を吹聴し始めた。これに対し共和党が支配する下院は、ベイナー議長にオバマ大統領の憲法侵害で最高裁に提訴する権限を与える決議を、7月30日に可決した。

 この決議に先立って同議長は「共和党には弾劾計画はなく、この説は中間選挙で勝つための“汚い手口”」だ」と述べた。しかし選挙後、共和党が多数を占めれば弾劾が始まるのは必至、と見られている。

 株価の方は7月31日に300ドルを超える下落があった。その後のNYダウは上昇する日はあっても翌日はすぐ下がる、という弱気相場の様相を濃くしている。

 「大手の機関投資家は今やここ数年で最高のキャッシュ・ポジションを持っている。またジョージ・ソロスは売り方オプションを7倍に増やした。ニクソン辞任のウオーターゲート事件を覚えている投資家はみんな一斉に逃げ腰になっている。もちろん11月4日の中間選挙で下院だけでなく上院も共和党の多数を占めることが前提だがね」

 ある大手ヘッジファンドの運用担当者はこう打ち明ける。中間選挙で6議席共和党が取れば過半になるが、選挙のプロの予想は「支持率50%以下の大統領の中間選挙は“必ず負ける”」。ウォール街での賭け率は8対1で11月下旬から弾劾が表面化する」。米CNNの8月下旬の世論調査では米国民の33%が「オバマ大統領の弾劾裁判に賛成しており、クリントン時代の29%を上回った。

 仮に弾劾裁判が上院で開始となれば、ウォーターゲート事件のように「騒がれているうちは株価は売られる日が多くなり、辞任となれば30%は下がった」記憶がよみがえる。共和党支持者の57%は当たり前だが民主党支持者でも13%が弾劾賛成というから事態は容易でない。

 では、何が弾劾の理由なのか。

 「一つは2012年9月11日のベンガジゲート。第二が現在問題化している違法移民への恩赦問題で、どちらもきわめて重要だ」。順序立てて説明しよう。

 ベンガジはリビアの東部の大都市で2012年に駐リビア米国領事を含む四人がアルカイダにロケット弾で殺害された。

 ところが11月に再選を狙っていたオバマ政権は、前年5月にビン・ラディン殺害に成功しアルカイダの脅威は去ったと宣伝していた。このため公式には「ユーチューブに掲載された反イスラム映画への抗議活動が暴徒化し、領事館が襲われた」とした。この虚偽の報告はオバマ大統領が当時のヒラリー・クリントン国務長官に命令して行われた。これがウォーターゲート事件と共通しているためベンガジゲートと呼ばれている。この事件の情報公開が裁判所命令で行われ、下院に5月から特別委員会が設置されていた。

 折も折、6月に「血の確執」という本が発売されNYタイムスのノンフィクション部門のベストセラーになった。これはヒラリー・クリントンの主要スタッフからの取材を中心とした本。内容を見ると、領事館襲撃は18時間前に予告され、事件後犯行声明も出ている。また当時デモはなかったし、領事館から再三にわたり警備強化が求めていたのが無視された。また虚偽の報告公表の大統領による強制も書かれている。ヒラリーの反対にもかかわらず、である。

 これでは特別委員会もスタッフやヒラリー・クリントン前国務長官を証人として喚問せざるを得ない。

 なぜヒラリーがこの本の出版を容認したのか。それは2012年にオバマが2016年の大統領選にヒラリーを応援すると約束していたのを反古にしたからだ。「確執」という題の所以だ。

 オバマ政権が叩かれる背景はこれだけではない。

 米内国歳入庁(IRS)が保守系の政治団体に対し税審査を故意に厳格化していた問題、退役軍人の医療が公表されている水準より著しく劣る問題(VA)、さらに司法当局がAP通信社の通話記録を秘密裏に入手していた問題。すべてここ3,4か月の間に表面化し、これらが「オバマは戦後最低の大統領」という評価につながっている。

 しかし、ベンガジゲートと並ぶ最大の問題は違法移民に対する恩赦問題だ。

 ホンデュラス、グアテマラ、エルサルバドルなど中央アメリカからメキシコ経由で違法に米国に入国する未成年者が急増している。14~17歳の子供で「コヨーテ」と呼ばれる運び屋が入国させ、昨年まで年7000人程度だったが今年すでに6万人。母子で入国する移民も今年4万人。母国でギャングに追われていると言えば強制送還を免れる。

 オバマ政権はこれらの未成年、母子を一時的に国境付近の収容所に入れている。その後バスで親族のいる街に送られるが、いない場合は全国各地の学校や軍事基地や教会にバラまかれる。役所からフードスタンプ(生活保護)のプリペイドカードをもらって食料を買って過ごす。

 問題は地元の政治家や住民たちには一切通告なしで強行していることだ。

 これまでは違法移民はメキシコと国境を接する州の問題だったが、このオバマ政権の強硬姿勢で全米の問題となった。ギャラップの世論調査によると、不法移民を米国の政治経済の大きな問題とする意見は5月には3%だったが8月には15%で第2位にはねあがった。ちなみに第一位は「ワシントンの政治」である。

 どうして大統領令ひとつでこんなムチャなことがまかり通っているのか。ゾーニング法で住居、商業などの地域に一昨年、人種の均等化条項が入ったのが曲者で、連邦法が優先されるので州などは口をはさめない。

 民主党としてはラティーノ(中南米系の米国民)の政治団体は同党支持だから違法移民の増加は好ましい。米国には1100万人の違法移民がいるが、オバマ大統領は「人道的な見地」から500万人を恩赦して居住権を与えることを検討している。また7月14日には「オバマケアに加入した違法移民には恩赦が与えられる」という新規定を発表した。これらの一連のオバマ政権の姿勢を憲法違反として下院議長に提訴権限を与えたのが前記した7月30日の決議なのである。

 カギになる中間選挙だが、共和党が下院で議席を増やして多数を維持し、上院でも多数党に返り咲く、と選挙専門家や大学の有権者調査が予想している。

 すでにモンタナ、サウスダコタ、ウエストバージニア州で民主党の議席が奪われるのは確実。両党が互角に戦っている「トス・アップ」州が6,7州あり、そのうち三州とれば、共和党が過半になる。

 「オレたち運用担当者は①S&Pの売りオプションを買う②ユーロを売る③ジャンク・ボンドを売る。日本株?ワシントンの政治混乱は世界中どこでも地政学リスクが起こるということから、あんまりやりたくないね。現金を増やしておくのがいいのはわかってるんだが、それではクライアントに高いリターンを差し上げられないしね。つらい時期だな。いけそうな成長小型株を探すしかないね」

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